江戸の『鬼』

小豆あずきーコマメアズキー

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『母が死んじゃのは、貴様のせゐじゃ。罪を償ゑ(死んだのは、お前のせいだ。罪を償え』

その言葉がずっと、自分を呪縛させられていた。

「ああああぁ!あぁ!んあぁ!あぁ!あっ!あん!ん、あぁ!」

なかなかお目にかかれない綺麗な形のほっそりとした脚をVの字に開いて、美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体になっている鈴は、布団の上で仰向けになって唾液を垂れ流し、喘ぐがまま声が漏れていた。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

股の間に侵入する男、仁導は大きな陰茎を差し込んで上から下に突き落とすようにして腰を振る。

「んはぁ!あぁ!あっ!あっ!あっ!ああぁ!あん!んはぁ!」

締め付け、ブルッと身震いをする。

「ゔ、あぁ…!」

顔から汗が吹き出、締め付けられるその快感に太く猛々しくそびえ、びくんびくんと脈打つ。

「おっき…!父上!気持ち良い!」

ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、愛液が糸を引く。

「鈴。儂も気持ちが良いぞ」

アゴを掴み、唇に唇を押し当てて舌を差し込み絡ませる。

「はっ!あ、んぅ!」

汚い音が、畳の部屋に響く。

母上。

何ゆえ。

何ゆえあなたは…。

「あぁ!ん、ああぁ!父上ええぇ~!」

腰を痙攣させ、失神しそうな程のエクスタシーが体を駆け抜けてブシュッ!と潮を吹くなり

それがしを置ゐて、亡くならるてしもうたとでござるか?(私を置いて、亡くなられてしまったのですか?)

鈴は、停電したようにプッツリと、意識を失なった。

「おぉっ!ぐ、おおおぉ!」

動物の皮袋を着用していた為、腰を痙攣させて多量の精を放っても、妊娠は免れた。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

我が愛する娘よ。

儂の寿命が尽きるまにて、奴隷となるが良き。

実の娘の頬に触れ、最後に口付けし、歪んだ愛情を注ぐ。

翌日。

「はぁはぁはぁはぁはぁ」

起きて直ぐ、布団の上でうつ伏せになる自分は、腰を突き上げて欲望を唆らせる引き締まった小さな尻を向け、その後ろに両膝を立てて差し込み、出し入れさせていた。

「あぁっ!あっ!父上!父上!父上ぇ!」

唾液を垂れ流し、布団カバーを握り締める。

「鈴」

すると、差し込んだまま娘を仰向けにさせて抱き起こすなり

「んんっ!く、あああぁ!」

体重が乗ってズブズブと深く差し込まれ、腰を痙攣させて軽く達した。愛液が糸を引き、震える。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

すると彼は、アゴを掴んで顔を向けさせ、後ろ手にさせた華奢なくびれた両手首を束ねて掴み、下に引っ張って拘束する。

「お前は、何奴なりしがのでござるか?(誰のものだ?)」

「父上…」

「何奴なりしがのでござるか?」

「父上」

「大きな声にて云ゑ。お前は、誰のものだ?(大きな声で言え。お前は、何奴なりしがのでござるか?)」

「父上!」

「儂の陰茎は、何奴なりしがのでござるか?」

「私めのもの!」

「儂は、何奴なりしがのでござるか?」

「私めのもの!」

唾液を垂れ流し、父の機嫌を損なわせない為、言い放つ。

「良き子じゃ鈴」

後ろに倒れるなり、鈴の骨盤を掴んで腰を突き上げる。

「んあぁ!あっ!あっ!あっ!あっ!あああぁ!あぁ!あっ!あぁん!あっ!ひ、ぎっ!」

振動で、ふっくらとした形の綺麗な大きな胸が揺れ、愛液が辺りに飛び散る。

「んううううぅ!」

快感を押し殺そう押し殺そうとしても、身体が素直に言う事を聞き、まるで自分の身体では無いように己が己に抵抗をして父を許す。ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、互いに両手でカップル繋ぎして、父に支えられ、腰を振って出し入れさせる。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

いやっ!

かのような渡世!(こんな生活!)

もういやぁ!

やがて、いっ時の間、彼女は解放される時がある。草履を履いて歩いていると

「鈴!」

「?」

顔を向けると、玄関先に水を柄杓で撒くナガレの姿が。

「また浮かなゐ面をしてちょーだいおるな?如何したにてござるか(また浮かない顔をしておるな?どうしたでござるか?)」

すると彼女はジワッと絶えず涙で潤い、ギュッと彼を抱く。

「!!!!!!!!!!?」

鈴殿。

下唇を噛み締める鈴は、彼に身を委ねる。囲炉裏に上がり、彼女は茶を飲む。

「平穏したでござるか?(安心したか?)」

鈴は、小さく頷いた。

「ながれ殿。それがし、ながれ殿が、好き…(ナガレ殿。私、ナガレ殿が、好き…)」

瞳を揺らし、鈴はそう口にしたのだ。

「!!!!!!!!!!?」

向き合って座っていた彼は40代前半程にもなって、頬を染めてしまう。

「おゐおゐ。久々に可愛ゐ子に云われて、動揺してしもうたでないか(おいおい。久々に可愛い子に言われて、動揺しちゃったじゃないか)」

すると鈴は大胆にも湯呑みを置き、ナガレの近くに移動し、その膝の上に座ってムチュッと、唇に唇を押し当てた。

「鈴殿!」

彼女の肩を掴んで後ろに押し、言い放ち続ける。

「そのような事を!」

「うつけも承知!ながれ殿。それがしを、癒して…(バカも承知!ナガレ殿。私を、癒して…)」

俯き、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流す。優しくされたかった。誰かに優しくしてもらいたかった。彼は黙り込み、下唇を噛み締める。

まことに、可哀想な子じゃ(本当に、可哀想な子だ)

布団の上で仰向けになる自分よりも小さくて、10代の女の子を優しく愛する。

「はぁはぁはぁはぁはぁ」

彼は、その上に覆い被さって乳を揉みながら、ムチっとした愛らしいピンク色の乳首を咥えて吸う。

「んぅ!」

頬を染め、ピクッと反応する。

あぁ…!

優しい…。

「挿入れて。ながれ殿」

「其れは、出来なゐ。かたじけない。鈴氏。出来なゐで候左様な(それは、出来ない。ごめんね?鈴ちゃん。出来ないよそんな)」

「お願い。ながれ殿…」

優しく愛してくれるこの男に、彼女は甘える。

「今、ここには皮袋が…」

独身なので、皮袋を使う事が無い為、持っていなかった。

「魂配致さぬにて。ながれ殿。お願ゐ。挿入れて下され(心配しないで。ナガレ殿。お願い。挿入れて下さい)」

瞳を揺らし、欲しがるがまま、彼女はそう口にした。

「鈴氏…」

負とはゐる傷は、如何ほどにも、奥深ゐ(負っている傷は、あまりにも、奥深い)

そんなのは十分承知。

「挿入れでござるよ?」

彼は、人並み外れて大きな陰茎を手にし、ズブッ!と、差し込む。

「ふ、あぁ!」

挿入れられた際、あまりにも快感で、腰を痙攣させて軽く達す。

「あぁ…!」

唾液を垂れ流し、ギュッと、彼を抱き締める。

「平気か?」

小さく頷き、彼はゆっくりと腰を振って出し入れさせる。

「んっ!んっ!んっ!んぅ!」

「声、出してちょーだい良き(声、出して良いよ?)」

「ん、あぁ!あ……………ッ…あぁ!あっ!あう!んっんぅ!」

締め付けて咥え込み、離さない。

「是非に及ばぬ(知らない)…」

「?」

「かのような、是非に及ばぬ…(こんな、知らない…)」

何時じゃとは、御身はぼろぼろじゃ(いつだって、体はぼろぼろだ)

愛何と、知らん(愛何て、知らん)

優しく愛させて、重畳!(優しく愛されて、嬉しい!)

「鈴氏!」

ギュッと抱き締め、ナガレは何度も突き上げる。

「あっ!あっ!あっ!ああぁ!あぁん!ん、んああぁ!」

ながれ殿に長らく、愛させたゐ(ナガレ殿にずっと、愛されたい!)

「はぁはぁ」

今、それがしが出来る事は。

彼女を優しく、愛にてる事じゃ(愛でる事だ)

「はぁ………………ッ…ん……!」

腰を痙攣させ、彼女は愛と優しさに初めて触れ、達した。

ながれ殿。

好きじゃ!

戸を、開けた。囲炉裏で横たわる父を目に、鈴は台所に行き、包丁を手にした。

「………………………………………」

意を決して振り返った時

「おい」

「!!!!!!!!!!?」

その声に反応し、竦んでしまう。

「包丁を、いかにいたす所存じゃ?(包丁を、どうするつもりだ?)」

「研ぐ」

「左様なことし無くて良き。仕舞ゑ(そんなことし無くて良い。仕舞え)」

鈴は、言う事を聞いて仕舞った。

「来られよ(来い)」

「………………………………………」

「幾度も云わしめるな。来られよ!(何度も言わせるな。来い!)」

「!!!!!!!!!!?」

ビクッと反応し、瞳を揺らして、重たい脚を歩かせる。本当に重かった。訛りのようだ。父の側に寄り、お姉さん座る。

「はい。父上…」

「いずこまにてほっつき歩ゐておりきんじゃ?(どこまでほっつき歩いていたんだ?)」

「………………………………………」

「答ゑられぬとか?(答えられないのか?)」

上体を起こし、娘の頭に手を置く。

「!!!!!!!!!!?」

下唇を噛み締め、息を呑む。

「まぁ良き。脱げ。やりおるぞ?」

彼女は、着物を脱いで裸体になった。ドサッと直ぐ様押し倒し、仁導も脱いで裸体になった。鈴は、グッと下唇を噛み締め、瞳が揺れる。

ながれ殿…。

そしていつものように、奥まで差し込む。今日は様子が変だった。いつもなら皮袋をするのに、生で差し込んだのだ。

「んあぁ!」

いやっ!

いやじゃ!

生で…!

その時、彼はこう口にした。

「貴様、いずこの男に御身をやった?(お前、どこの男に体をやった?)」

「!!!!!!!!!!?」

何故バレたのか。彼女の瞳が揺れ、動揺が隠せない。

「形が変じておる!いずこの男に御身を差し出したのじゃ!?(形が変わっておる!どこの男に体を差し出した!?)」

差し込んだ時、形が変わっている事に気づいた。言わばこの形はナガレの形となっている為、直ぐに気付いた。

「それがしには、好きな人がゐる!それがしはその人をお慕い垂き!(私には、好きな人がいる!私はその人を愛してる!)」

ガッと、両手で細い首を絞め付けようと、その目は、狂気に染まっていた。

「儂に謀反しおったな(裏切りおったな)」

「がっ!ぐっ!ゔうぅ!」

唾液を垂れ流してギリッと食い縛り、腕を伸ばして同じように首を絞め付けようとしたが、片方の手で華奢くびれた両手首を束ねて掴み、頭上に押し付け拘束する。

「この餓鬼。妊娠しめねば分かぬごとしのぉ(妊娠させなければ分からぬようだのぉ)」

そのまま腰を突き上げ、何度も子宮を突く。

「うっ!ぐっ!うぐうううぅ!んぅ!が………………ッ…ぐ………!あ、がっ!」

白目を剥いて舌を出し、一筋の涙を流す。

母上…。

『鈴。来なさい』

布団の上に座る凛とした美しい顔の母親は、白装束を身に付けており、普段結んでいる黒い長い髪を下ろしていた。

『母上』

歩いて近付いた彼女は、母の近くに来て正座する。

『いかがさせましたでござるか?(どうしたんですか?)』

その時、母はギュッと、抱き締めたのだ。温もり。愛情。優しさを感じ、目を瞑る。

『お前をとこしえに、お慕い垂き(永遠に、愛してる)』

『………………………………………』

母上…。

その夜だった。

『お初』

『仁導』

畳の部屋に入るなり、彼は茶を持って来て近付くに寄り座る。

『調子はいかがじゃ?(調子はどうだ?)』

『何時に無く、調子が悪しき(いつに無く、調子が悪い)』

『茶を飲むと良き。おそらく、楽になるぞ(茶を飲むと良い。きっと、楽になるぞ)』

妻は、茶が好きだ。それを手に、彼女は茶を啜る。全て飲み干した時、ふと、お初は目を瞑り、夫に寄り添う。

『後の事は、任せろ』

『………………………………………』

それを、襖越しに、鈴は聞いていた。母は病気で亡くなったんじゃない。父に、毒殺された。

「あぁ…………………ッ…!い、やあああぁ!」

ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流して唾液を垂れ流しながらビクビクと腰を痙攣させて何メートル共も潮を吹き出し

「く、おぉ!」

締め付けられ、太く猛々しくそびえ、びくんびくんと脈打つ陰茎から、飛び散る程の多量の精を放った。それは辺りに飛び散る程の多量だ。射精は力強く、雄々しく、精液はどこまでも濃密だった。きっとそれは子宮の奥まで到達したはずだ。あるいは更にその奥まで。それは実に非の打ち所のない射精だった。そして、卵管を通り卵子を待ち、卵巣から排卵が起こる。精子と排卵をした卵子が、卵管膨大部で出会い、受精をする。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら卵管を通り、子宮内へ移動する。子宮に到達した受精卵は、子宮内膜に着床し、妊娠が成立する。

「く………………………ッ…うぅ!」

母上…。

ナガレは、囲炉裏に胡座をかいて考え込んでおり、向き合って座る伊村尊はこう口にした。

「如何したにてやすんか?白鳥殿(どうしたでやすんか?白鳥殿)」

「拾代の子が、父上殿に手籠めさせておる(10代の子が、父に手籠めされている)」

「うええええぇ!?て、手籠め!?其れとは、いずこの息女でござろうか(それって、どこの娘ですか?)」

「鈴氏」

「鈴?もしや、家内が病死させたあの、鬼賀乃殿の屋敷の?(もしかして、奥さんが病死されたあの、鬼賀乃さんの家の?)」

彼は、顔を向けた。

「鬼賀乃?いずこじゃ?案外出来るか?(どこだ?案外出来るか?)」

「はい!案内つかまつる!」

「………………………………………」

助けねば…。

翌日。

畳の部屋でうつ伏せになって腰を突き上げる彼女は、後ろ手にされた華奢なくびれた両手首を手枷で繋がられており、首枷から伸びる鎖が、手枷に繋がられていて、後ろから差し込まれて出し入れされていた。

「んぅ!んっ!ん、ふぅ!」

黒い布で目を遮蔽され、口には猿轡がされており、唾液を垂れ流す。

「はぁはぁはぁはぁ」

その時、ドンドンドン!と、戸を叩かれる音。だが彼は無視してし続ける。そしてまた、ドンドンドン!と、叩く。

「んぅ!んっ!」

ふっくらとした形の綺麗な大きな胸を両手で揉み、出し入れし続ける。

「鬼賀乃殿~!おはすか~?(いらっしゃるか~?)」

その声は尊だ。

「おぉい!手篭めの旦那様ぁ!息女を解放してちょーだいあげろおおぉ!(手篭めの旦那ぁ!娘を解放してあげろおおぉ!)」

その時、彼はふと、顔を向けた。

「んぅ!」

ながれ殿!

自分がいる存在を知らせる為に抵抗し出す彼女を仰向けにすれば、ドスッ!と、余分の脂肪の無い痩せて凹んだ腹部を突く。

「んうぅ!!」

目を見張り、そのまま意識を失う。

「うつけ者!声が大きゐ!(バカ!声が大きい!)」

「俺は怒っとるんじゃ!出て来られよ!(怒ってるんだ!出て来い!)」

その時だった。ガタンと、戸を開けようとする音が。隣にいた伊村は逃げ出し、彼は堂々と立つ。

「………………………………………」

ガタンと引き、初めて鬼賀乃仁導と顔合わせする。

「何の要じゃ?見ず知らずの男じゃのぉ。無礼であらう?」

「鈴はいずこじゃ?屋敷に在るとか?(どこだ?家に居るのか?)」

「ほぉ。娘を知っておるのか?」

「先日、お主の息女が屋敷に参った。(昨日、あんたの娘が家に来た)」

その時。確定した。鈴の好きな人が、この、40代前半程の男だと。

「鈴を解放しろ。ばやいにそれゆえは、与力に突き出す(解放しろ。場合によっては、警官に突き出す)」

彼は、本気だった。真剣な目をして言い、この、クズの目をしっかりと見ていた。

「近親相姦は…」

ドスッと、腹部を拳で突き

「がはぁ!」

そのままバランスを崩したナガレを家に引き摺り込み戸を閉める。

「!!!!!!!!!!?」

うええええええぇ~!?

それを、近くの古民家の影に隠れて見ていた尊は、あわあわしてしまう。

マズいよぉ!

白鳥殿が捕まっちゃったよ~!

「がっ!ぐっっっ!!」

囲炉裏に押し倒される彼は、首を絞め付けられており、上に乗っている鬼賀乃仁導の首を絞め付けて離さない。

「ぐうううぅ!」

「うおおおおおぉ!!」

絞め付けられている喉が開き、真横に倒してその上に乗るナガレは、唾液を垂れ流す。

「解放しろ!鈴を解放しろ!」

「あの子はそれがしの子じゃ!いかが扱おうとそれがしの勝手じゃ!(あの子は俺の子だ!どう扱おうと俺の勝手だ!)」

「この、外道が!」

その時、鬼賀乃の力が緩む。

「はぁはぁはぁはぁはぁ」

死んじゃか?(死んだか?)

ナガレも緩めば、彼はガッと頭を掴んで上体を起こし

「!!!!!!!!!!?」

パチパチと燃える囲炉裏の火に、顔を突っ込ませようと上から力を入れる。

「うおおおおおおぉ!」

熱い。火の側だからそれだけでも火傷してしまいそうだ。床に両手を付いて顔を上に上げ続ける。鬼賀乃仁導の力が勝つか、白鳥ナガレの力が勝つか。

「焼け死ね!!」

「ぐっ!うぅ!」

やべぇ!

心底にて死ぬかも!(マジで死ぬかも!)

その時だった。パァン!と発砲される音。腕に貫き、鬼賀乃は撃たれた腕を手で押さえ付ける。

「ぐ、あぁ!」

「鬼賀乃仁導!」

鉄砲を持っている警官2人と、他3人で入り、一人が囲炉裏に上がって畳の部屋の襖を開ける。

「拘束させたおぼこ発見!(拘束された少女発見!)」

「焼死さしめんと致した疑ゐと拘束と未成年を手篭めした容疑にて御用する!(焼死させようとした疑いと拘束と未成年を手篭めした容疑で逮捕する!)」

「くぅ!」

顔を向けた仁導は、殺気立った目をしており、睨み付ける。

かにて、終わると思うておるな!(これで、終わると思うな!)

「旦那!」

そこへ尊が走って来て声を掛けた。

「おぉ尊!お前が呼みてくれたでござるとか?(呼んでくれたのか?)」

「まふ!旦那はさふやとはゐっつも突っ走るみてすから!後先を存念て行動したでござるのがいかがなのだ!?(もう!旦那はそうやっていっつも突っ走るんですから!後先を考えて行動したらどうなんです!?)」

彼は、笑みを浮かべた。鈴は、病院に搬送された。

「痛ゐ!痒ゐ!嗚呼!痛ゐ!痛ゐ!(痛い!痒い!あぁ!痛い!痛い!)」

彼女は股間を押さえ付けて痛みと痒みに襲われ、梅毒である事が発覚した。やがて退院し、愛しのナガレと暮らす事になった。

「妊娠、したでござるか…(妊娠、したか…)」

桜の季節になった時。妊娠5ヶ月を迎えていた。それをずっと、黙っていたのだが、これだけ細いのにお腹の膨らみは太った訳では無いと感じ、そう口にした。

「………………………………………」

桜の木の下でお姉さん座りする彼女の隣に寄り添って座る彼の肩に寄り添い、瞳が揺れ、妊娠したお腹を下から支えるようにして抱く。

「産みたくござらん。あのおのこじゃ。産みたくござらん(産みたく無い。あの男の子だ。産みたく無い)」

「産まふで候。産みてで候(産もうよ。産んでよ)」

だが、ナガレはそう口にしたのだ。

「何故じゃ!?」

バッ!と顔を向け、心外のあまり声が大きくなる。

「産まれてくる子に、罪はござらん。授かった命を粗末にするでござるのは、御母上にしめた、お前の御父上と同じ道を辿る事になる。そっちのほうが嫌であろう?(産まれてくる子に、罪は無い。授かった命を粗末にするのは、母親にさせた、お前の父親と同じ道を辿る事になる。そっちの方が嫌だろう?)」

「………………………………………」

彼の言う通り。産まれて来る子供に罪は無い。

「産まれたでござるら、共に育てやう?愛情を注ゐにてさ(産まれたら、一緒に育てよう?愛情を注いでさ)」

「とはいえ、ながれのわらしにはござらん(でも、ナガレの子供じゃ無い)」

「良きにはん。わらしはわらし。実の子には無くても、お前を慕っておるのと同じごとく、その子も愛す(良いじゃん。子供は子供。実の子じゃ無くても、お前を愛しているのと同じように、その子も愛す)」

笑みを浮かべて顔を向けると、彼女も顔を向け、常に真顔な鈴は笑みを浮かべ、開(はだ)けたその胸板に手を置いてムチュッと、唇に唇を、押し当てる。幸せだった。毎日が。こんなにも自分を愛してくれる人間は、母親以来だ。月日が経ち、女の子を妊娠した。鈴に似た綺麗な顔をした女の子だった。彼女を抱いて村を歩く中、前から歩いて来る警官たち。

「?」

警官を見ると、嫌な記憶が蘇って来る。鈴は顔を逸らし歩くと

「我が娘」

「!!!!!!!!!!!?」

目を見張り、バッと顔を向けると、警官を引き連れて歩いていたのは、父親だった。瞳が揺れ、ギュッと娘を抱いて守り、首を振る。

「鬼賀乃様。そちらの息女は(そちらの娘は)」

しかも、『様』と呼ばれている。何故逮捕された奴が、警察と共に歩き、『様』呼びされているのであろうか。

「儂の、自慢の息女じゃ(自慢の娘だ)」

ニコッと笑みを浮かべ、そう口にした。

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

蘇って来る悪夢。小さくなった瞳が酷く揺れ、ダッと走り出したのだ。

「あっ!鬼賀乃様」

「良きんじゃ良きんじゃ。女にてひいつにて育てておるんじゃ。疲れが溜まとはゐるのであらう(良いんだ良いんだ。女で一つで育てているんだ。疲れが溜まっているのであろう)」

走り続ける鈴は、ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、恐怖のあまり叫んでしまう。

「うああああああああぁ!!」

ナガレはそれを聞いて目を見張り、瞳が揺れる。

「それは誠か!?」

「与力の勝者としてちょーだい、お主臨候成りのには!(警官のトップとして、君臨しましたのじゃ!)」

囲炉裏に上がって説明する尊は、『情報屋』であるが為にとても詳しいのは当たり前。

「何ゆえ?」

「独房にて、出世したでござるらしき(独房で、出世したらしいです)」

「何でだええええええぇ~!!!?」

ガタン!と、戸を開けて入って来た鈴は、ふと、彼を見た。

「おかえり!」

「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ」

囲炉裏に子供を置き、玄関先に座る。

「凶夢じゃ。凶夢が帰とは参った(悪夢だ。悪夢が帰って来た)」

その時。察した。

「鈴平気じゃ」

彼は近寄り、後ろから抱いた。

「仲柄ござらん(関係無い)」

「我が息女と呼ばれた!あんたと輿入れしてちょーだいも!私は!私は、鬼賀乃仁導の息女には変わらん!(我が娘と呼ばれた!あんたと結婚しても!私は!私は、鬼賀乃仁導の娘には変わらん!)」

ぼろぼろと大きい雨粒のような涙を流し、くびれを捻って抱き締める。

「あぁ!ああぁ!」

「………………………………………」

彼は尊に顔を向け、彼も顔を向ける。悪夢は続く。逃げる事の出来ない悪夢。

チチチチチ。チュンチュン。庭に遊びに来る小鳥に米を撒く鈴は、縁側に座っていた。

「………………………………………」

「美~鈴♪」

囲炉裏で仰向けになるナガレは、血の繋がらない美鈴を抱き上げて遊んでいた。

「キャッキャッ!」

鬼賀乃仁導の血は全く入っていない。本当にこの子はあの仁導の娘なのだろうか。鈴は体育座りし、膝を抱える。

「………………………………………」

その時、隣に座ってきた気配が。

「娘は、大きくなったか?」

鬼賀乃だ。

「なったわ。まふ参歳八ヶお月で候(なったわ。もう3歳8ヶ月よ?)」

「抱くか?」

「えっ?」

顔を向けると、ナガレが美鈴を抱いて妻の後ろに立っていたのだ。

「ながれ」

「それがしの子なれど、お主の子でもござる(俺の子だけど、あんたの子でもある)」

この子は、鈴と仁導の子供。彼女には伝える事が出来ないが

「俺は…」

動揺が隠せない。産まれてから、自分の子を抱いていなかったのもそうだが、過ちを犯して、自分の所有物にさせる為に子供に産ませた我が子。罪が重すぎる。

「抱いてよ。父上」

ふと、鈴はその腕に触れた。何年振りだろうか。あれから、4年振りに、『父上』と呼ばれ、触れてくれた。

「鈴…」

「ほら」

すると、美鈴を差し出した。

「おじ殿何奴?(おじさん誰?)」

「母上の御父上じゃ。じぃじとは呼みて上げてくれ(じぃじって呼んで上げてくれ)」

「じぃじ!」

3歳にて人見知りも無く、人懐っこい彼女は、にへらと愛らしい笑顔になりギュッと抱き締めた。

「!!!!!!!!!!?」

「じぃじ!じぃじ!」

「………………………………………」

『父上!』

5歳くらいの時に、自分に懐いていた時の鈴と、同じ顔をしている。そっくりだ。

『父上大好き♪』

「………………………………………」

すると、子を抱き、仁導は笑みを浮かべた。

懐かしいのぉ。

その時、前髪の陰に隠れて表情は見えないが、一筋の涙を流した。

「………………………………………」

鈴は、ふと寄り添って上げ、ナガレも彼の隣に座ってニィッと嬉しそうに笑みを浮かべる。その後も、たまに遊びに来ては美鈴と遊ぶ良いおじいちゃんとなり、白鳥ナガレと鈴は、自分たちの子を作らず、3人でいつまでも幸せに暮らすのであった。
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