ドラキュラは、あの子に恋をする

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ドラキュラは、あの子に恋をする

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「おっはよ~!」

「おはよう」

窓際の席に座るブロンドの短い髪の、白いワイシャツに赤と白のチェックの丈の短いスカートを身に付けて、スクールバックから教科書を取り出す鈴は、一度見たら頭にずっと残る蠱惑的な美貌の主であり、街を歩いているとモデルのスカウトマンに声を掛けられた事が何度かあり、一方で挨拶をして来たのは朧月夢だ。長い水色のツインテールの目立った存在。

「今日も『ドラキュラ』が登校して来たらしいわよ?」

「ドラキュラ?」

それに反応して彼女は顔を向けた。

「鈴知らないの~?チョー有名じゃん!3年B組のドラキュラ」

「?」

そう言われてもピンと来ない。

ドラキュラ?

ドラキュラと言えばスーツみたいな服にマントを付けていて、牙があるイメージが。そんな格好をしたのがB組に居るのだろうか。だったらとても目立つ存在だ。自分が知らない方が逆に驚かれてもおかしくはないと感じた。しかも3年B組と言う事は、自分の隣のクラスだ。

「おいドラキュラ!今日は飲まないのかよ?」

「飲まん!」

その時、教室の外から聞こえるのは、男子たちの揶揄いの言葉と、否定する男子の声。ドラキュラと呼ばれたその人は男性のようだ。

「にんにくは克服出来たか?」

「出来ん!」

「おいドラキュラ~!その牙で誰の血を吸うんだ?」

「吸わん!と言っても、鳥の『スワン』じゃないけどな?あっはっはっはっ!」

会話を聞いているととても低レベル。だがドラキュラはユーモアがある。そう言ってその場をやり過ごし、走って行く脚音が。

「おいドラキュラ待てよ~!」

「ドラキュラつまんねえぞ~!」

「ドラキュラ~!」

揶揄われているのか、人気なのか、分からない所だ。

「キャハハ!今日もまた揶揄われてる~!」

「………………………………………」

ドラキュラ。

誰の事言ってるんだろう?

頬杖を付き、ほんの少しの興味を抱く。彼女は授業が始まる前に図書室へ脚を踏み入れた。静寂の図書室に響く、音。

「?」

何かを飲んでいる音だ。音に導かれて歩いて行くと

「どうも!」

「!!!!!!!!!!!?」

窓を開けて1リットルのぶどうジュースのペットボトルにストローを差し込んで優雅に飲んで座っている、青と緑色が掛かった黒髪の、スタイルの良い性的魅力に溢れた男子生徒が。ワイシャツのボタンを全開に開けており、筋肉で引き締まった腹部が顔を出している。

「こんにちは…」

「バラさないでくれよ?飲食禁止だから怒られちゃう」

そう言い、彼はニィッと笑った。その時、口元から覗くのは立派な牙。

「!!!!!!!!!!?」

じゃない。良く見ると、愛嬌のある八重歯が。

「なら、どうしてここで飲んでるんですか?ぶどうジュースを」

「色々理由があんのよ俺にも。こそこそしてないとジュースも満足に飲めねえ」

その時。

「あっ!女と一緒に居る!」

そこへ来たのは3人組の男子生徒だ。

「あれ?愛道じゃんか」

栗色の髪の男らしい顔とは言えない、可愛らしい顔をした高身長の男の子が頬を染めてそう口にした。名は高坂竜也。

「何してるの?」

「本探しに来たの」

「あぁ。そっか、勉強熱心だな?」

そう言い、どこか大人しくなってしまう。鈴はその場から去り、男子たちは揶揄い始める。

「住処で食事?」

「誰が住処だ!鳥じゃねっつの!」

キーンコーンカーンコーン。チャイムが鳴り、授業が始まった。席に着いて授業を受ける中、ガラッと突然、黒板側の引き戸が引かれたのだ。

「先生ごめ~んね!遅れま~した!」

入って来るなり、注目を浴びる。

「!!!!!!!!!!?」

あれ?

あの人。

それは先ほど、図書室でぶどうジュースを飲んでいた男子だ。座っていたから気付かなかったが、187センチある高身長な人だった。

「白鳥。お前…」

「あれ?」

教室の雰囲気。普段いる顔じゃない生徒たち。

「あっ。教室間違えたわ」

教室から出て行き、引き戸を閉めた。ガッタンガラガラ!教室が崩壊し学校も崩れた。

キーンコーンカーンコーン。授業が終わって教室から出るなり、隣のクラスの前で逆立ちをしているドラキュラの姿が。

「!!!!!!!!!!?」

さ、逆立ちしてる!

「ドラキュラ逆立ちしてるのー?」

そこへ、F組の夢が話し掛けた。

「精神統一!」

「おい!ドラキュラ昼前だからコウモリになってるぞ?」

「うっせぇ!冷やかしに来んじゃねえ」

すると彼はそのまま横に回転して立ち、そのまま歩き出す。彼が、ドラキュラと呼ばれている生徒のようだ。

「………………………………………」

あの人が…。

廊下を歩く鈴は階段を下がって行くと

「おい愛道」

「?」

ふと話し掛けられたので顔を向ければ、彼女が良く思っていない男子たちに絡まれたのだ。

「何?」

「お前いつも一人だよな?」

「たまには俺たちが遊んで上げるぜ?」

ニヤニヤしながら言われ、鈴の顔付きが変わる。

「余計なお世話」

そう言い突っ切ろうとしたが

「待てよ愛道」

ガッと後ろから羽交締めされ、もう一人の生徒が前に移動する。

「離して」

「遊んでやるって言ってんだろう?」

後ろからワイシャツの裾を掴んで持ち上げれば、黒レースの赤い派手な下着が顔を出し

「くっ!」

カアァッと、羞恥の念で耳たぶまで真っ赤に染まる。

「うわっ!すげぇデケエ!」

「美味そうな身体してんじゃんかよ」

「この、ガキ!」

なかなかお目に掛かれない綺麗な形のほっそりした脚で腹部を蹴り飛ばしてバランスを崩せばドサッと羽交締めしてる男子も倒れる。

「テメエ!」

立たせると、ドスッ!と、余分の脂肪のない痩せて凹んだ腹部を拳で吐いた。

「がはぁ!」

目を見張り、小さく瞳が揺れ唾液を垂れ流す。

「アァ…」

俯き、ガクガクとなかなかお目に掛かれない綺麗な形のほっそりした脚が震える。

「あっ!か、はぁ!」

苦しい…!

息が…。

「このアマ。大人しくしてりゃあ痛めに遭わなくて済んだのによぉ」

ガッと、アゴを掴んで顔を向けさせるなり、彼女は絶えず涙目になっており、ギリッと歯を食い縛る。

「可愛くねえなぁ。笑いもしねえ感情のねえ女が。泣きもしねえのかよ?」

感情の無い事によって自分は男子に揶揄われていた。その時、走って来る脚音が。

「?」

見るなり、廊下を四足歩行で走り、舌を出して唾液を垂れ流し、八重歯剥き出しにして白目を剥いて走って来るドラキュラの姿が。

「うああああぁ!」

男性は悲鳴を上げるとこんなにも声が太く、生命の危機を感じる程の大きな声を出すようだ。鈴を置いて走って逃げる彼らを追うドラキュラは、着ていた青いワイシャツを彼女にバサッと掛けて上げ追い掛け続ける。

「待って!」

追い続けるドラキュラと、追われ続ける外道共。

「………………………………………」

鈴は、ドラキュラに掛けられた青いワイシャツを抱く。

「こら白鳥!暑いからってワイシャツを着ろ~!」

「ごめんねセンセー!露出狂何だわ~。ははは!」

筋肉で引き締まった上半身を曝け出して堂々と歩く彼を女子生徒たちはスマホのカメラ機能で撮る。

運動着に着替えるか。

そして、鈴のクラスの前を通るなり

「?」

後ろから割と細い筋肉質の手首を掴まれて見るなり、青いワイシャツを持って立っている愛道の姿が。

「平気か?」

「ありがとう。助けてくれて」

「あいつら外道過ぎっからよ。脅しておきゃあもうあんたに悪さしねえだろう?」

ニィッと笑えば、愛嬌のあるその八重歯も愛おしく思う。ワイシャツを手にして着、歩いて自分のクラスに入って行く。

「………………………………………」

席に着き、チーズバーガーを食べる。向き合って座る甲斐田純也は、フライドポテトを食べる。黒髪の爽やか系な、顔が整った美形であり片方の前髪が長く、女子生徒からの憧れの的の男子生徒。

「学校に来る楽しみって、早弁に限るよねぇ?」

「おい。お前、席が前だからって、俺のおやつ食うな」

「これおやつなの!?」

それを聞いて早弁だと思っていたらおやつと言われ、『あはは!』と笑ってしまう。

「そっか!これおやつ何だ~。早弁かと思ったよ」

「弁当はちゃんと持って来てる」

これとは別に弁当を持って来てるようだ。さすがは食べ盛り。胃袋が大きい。

「あはははは!すごいなぁ~君は」

そして、ポテトを食べる。

「だから人のおやつ食べんなって!」

「ねぇねぇドラキュラ~!」

そこへ夢が入って来ると机に手をついてこう口にした。

「食べてからで良いからさぁー。夢とダンスバトルして~」

その時、彼はニィッと笑った。

「良いぜ!」

やがて、何やら廊下が群がっており、鈴と、大原芽衣はその群れに興味を示す。

「何だろう?」

「前に行って見てみよう?」

彼女たちは人を掻き分けて前に行くなり、体操服を身に付けているドラキュラと夢の姿があり、それぞれ得意なダンスを見せ付ける。小柄で身長の低い彼女が得意なダンスは、良く見掛けるヒップホップなダンスだ。自分の小柄を活かした、隙のない派手なダンス。自分の好きな曲を流して繰り広げる。生徒たちは大盛り上がりだ。

「ドラキュラ!次はあんたよ?」

「ん~」

その次にドラキュラが。彼は、激しいロック系の歌に合わせて披露する。アクロバッドがとても得意であり、何よりも体が柔らかいので、人間が出来ないような歪な形に曲がったり、足の間から体を滑り込ませたり、何なら手の関節や指の関節を違う方向に曲げて遊んだりと披露する。真似など出来ない。ドラキュラが披露する人並外れたそのダンスを真似しようとするなら、体の骨が折れてしまう。とても活き活きとしており、人の目と心と脳を魅了させ、魅せる。歪で、人間離れしているのに、とても綺麗だ。ドラキュラのダンスを見て、圧倒されない人は居ない。鈴と芽衣は、驚愕のあまり瞳を揺らし、言葉を失う。

「はぁはぁ」

曲が終わると顔から綺麗な汗を流し、呼吸が乱れる。そして、生徒たちの興奮の声が上がる。その声は、学校を震わせる程の熱狂だ。

「さすが白鳥様!素敵♡」

芽衣は、唾液を垂らして情炎に身を焦がす。

「はぁはぁはぁ」

食ったばっかだから吐きそうだぜ。

「またやられたー!」

不満気に口にする夢は、頬を膨らませてムッとしていた。

「あぁ~疲れた!しんどい!腹減った!」

「また対決してね!次はまた磨くから!」

「俺も磨く。また遊ぼうぜ!夢」

ニィッと笑うと愛らしい八重歯が顔を出し、シャワーブースがあるのでシャワーを浴びに歩き出すなり

「あっ!見てくれたんだ!」

目が合った鈴に言い嬉しそうに近付く。

「あっ。人が集ってたから…」

四足歩行で走れるのも納得が出来るあのダンス。

「ありがとう!」

頬を染めニィッと笑って言い、歩き出した。

「えぇ~?鈴好まれてるの~?」

「好まれては無いだろうけど…」

「良いな良いなぁ~!ずるい鈴ばかり!白鳥様に好まれてる何てズル~い!」

「いやそんな…」

シャワーブースで筋肉で引き締まった裸体になってシャワーを浴びる彼は、人並外れて大きな男根を洗いながら髪の毛を洗っていた。

「あぁ~」

ふと、頭に浮かぶのは、一度見たら頭にずっと残る蠱惑的な美貌。

「………………………………………」

あの子やっぱ。

可愛いよな?

名前聞いておけば良かった。

キーンコーンカーンコーン。学校が終わり、彼女はスクバにノートを仕舞い帰る支度をしていた。

「………………………………………」

その時

「あ、居た」

「?」

顔を向けると、教室に入って来たドラキュラの姿が。

「ダンスバトル。カッコ良かったよ?」

「マジ!?むっちゃ嬉しいそう言ってくれると!」

ニィッと嬉しそうに笑い、頬を染め近付く。

「俺さぁ。ドラキュラって言われてるけど、名前覚えて欲しくてさ」

ふと、鈴は顔を向け、瞳が揺れる。

「ナガレって呼んで欲しい」

「ナガ、レ?」

「苗字は覚えなくて良いからさ」

ニィッと頬を染めて笑い

「じゃあな!」

そう言い、教室から出て行ったのだ。

「あっ!ナガ…レ!」

ナガレ、か…。

いきなりどうしたんだろう?

廊下を歩く彼はこう、感じた。

「………………………………………」

ヤベェ。

名前聞くの忘れた。

その夜。

シャワーを浴びる鈴は、美しく、生命感に溢れ、清潔で、セクシーな裸体姿になって髪の毛を洗っていた。グルグルと渦を巻いて吸い込んでいく排水溝が、水を誘う。

「………………………………………」

その時だった。か細い枝のように細い内腿に垂れる、鮮血。

あっ。

来ちゃった。

良かった。

授業中とかじゃなくて。

翌日。

「ドラキュラの奴!絶対に次はドラキュラよりも華麗にダンス魅せるんだからぁ~!」

どんなに磨いても、それよりも磨きを掛ける彼には勝てず、夢は不満も漏らす。

「いつかは越えられるよ」

「本当!?何だか鈴に言われたらそう思えて来た!夢頑張る!」

「そう言えば、どうしてドラキュラって呼ばれてるの?」

「あぁ。アイツぶどうジュース好きなのよ」

そう言えば、図書室で飲んでいた気がする。1リットルのペットボトルにストローを差し込んで。

「一度シャツに溢した事があって、それが血みたいに染みちゃったのよ。それでアイツ八重歯あるし、ダンスも人間離れしてるから、『ドラキュラ』って呼ばれるようになったの」

成る程。それが事の発端であり、ドラキュラが誕生した訳だ。確かにあの人間離れしたダンスと、可愛らしい愛嬌のある八重歯。そして溢したブドウジュース。これは揶揄いの原因になってもおかしくない。

「そう、何だ」

「あのシャツ、夢が洗ったんだよ?」

「夢ちゃんが?何で?」

「ほら。私たちライバルでもあるけど、一応ドラキュラにダンスバトルで遊んで貰ってるから、あの時は夢が洗ったんだ」

ダンスバトルは、自分とドラキュラとの戦い。なので、そこはフェアプレーとしての行為でワイシャツを洗って上げたようだ。スポーツマンシップとしての良い行為。

「そう何だ」

教室の前でこそこそと伺うナガレは、鈴の事を見ていた。

「今日は絶対に名前聞くぞ」

廊下を歩く生徒たちは、ドラキュラを横目に歩く。

「白鳥」

「あぁ?」

顔を向けると、甲斐田が後ろに立っていたのだ。

「おぉう!甲斐田!」

ぴょんと、驚いたのかジャンプしてしまいその肩に腕を回す。

「何やってんの?」

「それはこっちのセリフ」

にこやかな笑みを浮かべて言い

「何してるの?」

更に聞くと、ナガレは素直に喋り出した。

「今、夢と話してる金髪の可愛い子居るだろう?名前知りたくてさぁ」

「あぁ~」

「知ってる?」

「ん~。確か、『愛』。愛が付いた気がする」

「愛?あ、愛ちゃん?愛子ちゃんとか?」

「あの顔で愛子ちゃんは似合わないよ」

笑いながら言う甲斐田だが、なら『愛子』が似合う顔とはいったい。

「聞いてくれば?」

「名前聞くだけなのにドキドキして聞けねんだよ」

「何で?」

「あの子に惚れたから」

頬を染め、どこまでも自分に素直なナガレは、すっかり恋をしている顔をしていた。人は恋すると、こんなにも甘ったるく、恍惚感に似た顔をするんだと、甲斐田はそう感じた。

「ふぅん。あの子にねぇ」

愛道鈴ちゃんにねぇ。

キーンコーンカーンコーン。授業が始まり、彼は頬杖を付いて授業に挑む。

「………………………………………」

可愛い。

あの子の名前が知りてえだけなのに。

度胸がねえ。

好きな女になると消極的になっちまう。

あぁ~。

あの時の記憶が…。

それは、中学2年生の頃。

『白鳥く~ん』

手を振って走ってくるのは、2年1組の2つ結びをした美女。

『あぁ。よぉ…』

彼は立ち止まり、好きな子の顔を見るだけでも心臓がドキドキと鼓動し、消極的になってしまって喋る事すら困難になってしまう。

『白鳥くん。これ、落としたよ?』

それはシンプルな白いハンカチだった。

『あぁ。おぉ。サンキュー』

それを手にして握り、瞳が揺れる。

『じゃあね!』

手を振り、走って向かった先は

『あぁ?』

『帰ろう?』

『うん!』

彼女は、幸せそうな笑みを浮かべてカップル繋ぎして廊下を歩いて行く姿が。その、付き合っている相手と言うのが、自分の1番の親友である藤本だった。

『………………………………………』

嘘~ん。

付き合ってんの~?

マジかよおおおぉ!!

付き合ってんのかよおおぉ!

麻美ちゃ~ん!!

「………………………………………」

嫌な記憶が…。

キーンコーンカーンコーン。授業が終わり、甲斐田は振り返るなり

「白鳥。ポタト食べる?」

ふと机を見るなり、『好き』と、ボールペンで書かれた文字が。

「授業中あの子の事考えてたの?」

「ん~な訳ないだろう!?」

動揺したあまりにガタン!と机を蹴り飛ばせば倒れ、注目されてしまう。

「なななな!何で俺が!あの!金髪で!可愛くて!低身長な子を!」

カアァッと顔が熟れすぎたトマトみたいな色になり、突然1リットルのブドウジュースのペットボトルを手に、キャップを開け、ロングのストローを差し込んで飲み出す。何故こうも分かりやすいんだコイツは。

「あはははは!動揺し過ぎだよ白鳥」

「ぢゅるるるるるるる」

飲む彼は顔を染めて白目を剥いており、だらだらと顔から汗が。

「どこが好きなの?」

「全部。生きてるその存在自体が愛らしくて、歩き方とか、仕草とか、喋り方もそうだけど尊いくらいに可愛くて。惚れる事に理由は無いけど。すげぇ、好き何だよ?あの子の事」

ドラキュラは、同い年の女の子に恋をした。そのブドウジュースが良く似合う。

「ふぅん。良いじゃん。青春は学生のうちって言うからさ。沢山恋しなよ。白鳥」

机に頬杖を付きにこやかな笑みを浮かべる。

「おいドラキュラ。昼間だから顔赤くなってんのか?」

「ドラキュラ何だからカーテンにでも隠れてろよ」

「うるせぇ!俺に構うな!」

そして、いつものように男子たちに揶揄われる。

やがて、お昼を告げる放送が鳴り、流行りの曲が流れ、それぞれ友達やグループ、学校の外ではなく体育館裏などでお弁当を広げて食べる。そんな中鈴は、屋上の塔屋の影に座って一人でお弁当を広げて食べる。ミーンミンミンミン。爆発したような勢いで蝉が鳴き始める。

「………………………………………」

ご飯の時だけは一人で食べるのが彼女のルーティン。友達はいるが、わいわいと食べるのが苦手であり、黙々と食べる。その時

「眠ぃ~」

屋上に誰かが入って来た。鈴はその奥に隠れ、息を殺す。タンッタンッタンッタンッと、塔屋に登る脚音。数分もしないうちに、『ぐーぐー』と言う寝息。誰かがここで寝ているようだ。食べ終わった彼女はお弁当箱の蓋を閉じ、風呂敷に包んで立ち上がり、屋上から出て行く。やがて、学校が終わった頃には笑い声が。

「おいドラキュラ!お前何してたんだよ?」

「どこで油売ってたんだぁ?」

「………………………………………」

自分の席に座る彼は腕を組んで胡座を掻き、顔の半分だけが日焼けしており、下唇を噛み締めてイライラしていた。

何でこうなるんだえええぇ~!?

廊下を歩く鈴を待ち伏せするの、甲斐田とナガレだ。

「来るかなぁ?」

「いや今この顔見せられねえぞ?」

「気にしない気にしない。名前だけ聞いて戻って来れば良いんだからさ」

「そんな簡単に…」

その時、昇降口に歩いて来た鈴の姿が。

「あの子だよ」

「だあぁい!」

声がデカい上に、下駄箱の端に隠れているのだが、しゃがみ込んでいるのが扉に反射していて丸見えに。

「?」

「声が大きいよぉ」

「んだってさぁ。そんな勇気…」

「何してるの?」

「だあぁい!」

突然声を掛けられたものだから真横に倒れてしまい、甲斐田をも巻き込みドサッと倒れてしまう。

「あぁ!よぉ!おう」

「こんにちは♪」

にこやかな笑みを浮かべて挨拶するこの器用な男と、好きな女の子の前では消極的になってしまう不気味ような男との差が全く違う。

「!?」

その時、ナガレの顔を見て何かに気付いた。

「どうしたの!?その顔!」

「あはは!寝てたら日焼けしたらしいよ」

「余計な事言うな!」

立ち上がり、黒いボロボロのビジネスバッグを手にして歩いて昇降口から出て行ってしまう。

「も~白鳥ってば」

「何があったの?」

「ふふふ。いつか気付く時が来るよ?じゃあね?鈴ちゃん」

笑みを浮かべて手を振り、ナガレと共に歩いて昇降口から出て行く。

「?」

どんな意味で言われたのか分からず、彼女は首を傾げてしまう。

どう言う意味だろう?

「白鳥良いの?」

「悪い甲斐田」

「?」

「俺、男になれねえ」

「あははははは!そんなので落ち込むなよぉ。白鳥」

彼は肩に手を置き、いつでも支えになってあげられる親友として、彼を励ます。

「また明日だよ明日」

「明日なぁ」

明日。

名前を聞ける勇気が俺にあんのか?

切ないぜ!

翌日。

「今日こそは名前聞くぞ!」

「何で薔薇持ってるの?」

席に座る彼は赤い薔薇を一輪手にし、青いリボンで包装されていた。

「名前を聞いて、俺の気持ちを伝える為だ」

「早いよ!名前も聞けてないのに気持ち伝えたらドン引きされちゃうよ?」

「どぅーすりゃ良いんだよなら!」

「焦っちゃダメだよぉ。良い?がっつく男もそうだけど、女の子の気持ちに常に寄り添って上げなくちゃ」

「ほぉ。寄り添って上げるなぁ」

寄り添う…。

「こうか?」

席に座っている鈴の横にピッタリとくっつく彼は、こう言った大胆な行動は出来るのに、名前を聞くだけにどれ程時間を掛けているのだろうか。

「?」

彼女は、ふと顔を向けて見ていた。

何やってるの?

「あはははは!ごめんねぇ。白鳥が迷惑掛けたね?」

そう言い、彼の腕を引っ張って退却させる。

「?」

何だろう?

「何で名前聞けないくせに行動だけは大胆何だよ!ドン引きされちゃうよそんなんじゃあ!」

「お前が寄り添え言うから寄り添ったんじゃねえか!」

「違うよぉ!気持ちに寄り添って上げって言ったの」

「気持ち?」

「女の子に嫌な思いをさせないとか。女の子が嫌うことをしないとか、常に女の子の心に寄り添って上げられる男を、女の子は求めてるんだよ?」

「そうなのか!?そう言うもんなのか?女の子は!」

「そうだよ。もぉ白鳥ったら。あはははははは!」

自分に素直なのに、恋愛になると素直になれない彼と仲良くするのは、こう言った鈍感で、天然なナガレと居ると楽しいからだ。『ドラキュラ』と呼ばれて揶揄われているが、それでも自分は離れずに彼と連む。純也は最高の友達。

「よぉし!頑張るぞ!名前聞いて、ラウィン交換して、それから…」

頭の中で予定して行く計画。それを見て彼は、にこやかな笑みを浮かべる。

微笑ましいなぁ。

本当。

その夜。

「マジでやんのか?」

『何事も経験だよ?』

スマホで電話をする彼は、黒いジャージを身に付けており、上は上半身裸であり、お風呂上がりで毛先が濡れている。

「けど俺、初めてだし…」

『良いじゃん。デビューしちゃいなよ。やっちゃえやっちゃえ⭐︎』

「良し!何事も経験だ!」

ブイイイイイィン!と響くバイブ音。それが、電話越しに聞こえる。

『うおおおぉ!』

「おぉ?いった?いった?」

ベッドの上で寝転がる純也は上体を起こして胡座をなくなり、彼はこう言った。

『スゲェ!手使わなくても磨いてくれる!スゲェ!』

このブイイイイイィン!と言う音は電動歯ブラシであり、初めての電動歯ブラシに興奮する18歳。

「あはははは!良かったね白鳥。初経験が出来て」

『んおぉ!』

電動歯ブラシを使うか迷い、その為に電話をして感想を伝えるコイツはやはり暇人だ。

翌日。

「今日こそは名前を…」

教室の影に隠れるナガレは、今度はパイチョコを手にして構えていた。

「はははっ」

あぁ。

そうやって真っ直ぐで。

自分に素直な白鳥が好きだよ。

鈴は、スクールバックのファスナーを引いて教科書とノートを取り出すなり

「あの…」

声を掛けられて顔を向けると、美しい長い黒髪を一つに結び、高身長でスタイルがとても良く、目鼻立ちのきりっとした美しい顔をした女の子が立っていたのだ。

「私、3年A組の瀬長真希と言います」

頬を染めて俯く彼女は、ドキドキと鼓動していた。

「初めまして。愛道鈴です」

「知ってます…」

「?」

「あの。その…。初めましてで突然失礼な事を言いますが、愛道さんて。し、しら、白鳥くんの、彼女ですか?」

「………………………………………」

その時、鈴は持っていた教科書を落とす。

「違います」

「良かったぁ…」

ホッとしたのか、真希は喋り続ける。

「実は私、白鳥くんの事が好きで」

「!」

へ~。

ナガレって。

こう言う可愛い子にモテるんだ。

「その!これ!私の代わりに、白鳥くんに渡して下さいませんか!?」

差し出していたのは手紙だ。

「!!!!!!!!!!?」

ラブレター?

「お願いします!」

「………………………………………」

手が震えており、それを拒否する事が出来ず、受け取ってしまう。席に着いたまま、彼女は俯いていた。

何だろう?

ナガレの事はどうも思ってないのに。

何だか。

心が痛む。

どうして、だろう?

渡したくない…。

「鈴ちゃん」

「?」

顔を向けると、机の前に立つ純也の姿が。

「甲斐田」

「悩み事?」

「別に…」

瞳を揺らし、ふと、手紙を机の下に隠した。

「俺で良ければ聞くよ?」

「甲斐田だからこそ言えない悩み、かな?」

「もしかして、白鳥関係?」

そう言い、机の上に座る。

「まぁ。そう言う所かな?」

「白鳥も悩んでるからさ。今」

「悩んでるの?」

それに反応し、彼女は喰らい付く。

「話し聞いて上げて欲しいなぁ」

「………………………………………」

私に?

廊下を歩く鈴は、指定された図書室へと来た。ガチャッとドアを開けて中に入ると、奥の椅子に座ってぶどうジュースを飲むナガレの姿が。

「ナガレ…」

「?」

振り返るなり、愛しの鈴が目に入り、『ブッ』と吹き出してしまう。

「ゲホッ!ゲホッ!」

「大丈夫?」

彼女は小走りで近付き、その背中を摩って上げた。

「悪ぃ!ゲホッ!何で、ここに?」

「悩みがあるからって、甲斐田に言われてここに来たんだけど…」

「!!!!!!!!!!!?」

アイツ!

にこやかな笑みを浮かべてピースする純也が目に浮かぶ。

マジで良いやつだな!

俺の最高の親友だ!

気遣い抜群!

「悩み、聞くよ?私で良ければ」

隣に座る彼女の瞳が揺れており、いつも真顔な鈴の表情が、どこか心配した、そんな表情に見えた。

「あの、さぁ。率直に言って欲しいんだけど」

頬を染める彼は、ぶどうジュースのペットボトルを置き、こう口にした。

「好きな人とかって、居たりする?彼氏とか」

「居ないよ?」

その時、ナガレは喰らい付く。

「マジ?」

「好きな人も、彼氏も…」

「本当!?信じるよそれ!」

「信じて良いよ?それより、悩みは?」

「よおぉし!」

ガタン!と立ち上がるなり椅子が倒れ、鈴はビクッとしてしまう。

「俺もしかしたら頑張れるかもしれねえ!希望が湧いて来たぜぇ!」

そしてペットボトルを置いて走って図書室から出て行ってしまう。

「ナガレ!」

悩みって、何?

廊下を機嫌よく歩く彼に、甲斐田は話し掛けた。

「聞けた?」

「もちろん聞けたぜ!好きな人も居ないし、彼氏も居ない!狙えるぜ!」

「良かったね白鳥!それで、名前は聞けたの」

「…………………!!!!!?」

WA・SU・RE・TA!

ダメだコイツ。

3年D組の教室から出て来たのは、伊村尊(たける)だ。黒髪で、童顔な彼は制服を着て無ければ中学生にいつも間違わられてしまう。低身長で小柄であり、同級生の女の子からは『男らしく無い!』とバカにされ、男の子からも『低身長で女みたいだな』と言われながらも登校をしている。

「白鳥様どこ~?」

「?」

見るなり、ドラキュラを探す芽衣の姿が。

「誰か、探してるの?」

「愛する白鳥様を探してるの!邪魔しないで!」

「うぅ…」

邪魔って。

ただ話し掛けただけ何ですけど…。

「はい」

差し出したのは、1リットルのブドウジュースのペットボトルた。

「おわあぁい!ブドウジュースだ!サンキュー尊!」

嬉しそうにキャップを開けてストローを差し込んでぢゅるるるるるるると飲む。普段から彼に好意的としてブドウジュースを買ってドラキュラに渡すものだから、あだ名が『ドラキュラ配達員』と言う変な異名を付けられてしまったが、尊は気にしていない。

「………………………………………」

いつも思う。

何でこの1リットルのペットボトルに対して。

どこでこんなロングストローが売ってるんだ?

「あのさぁドラキュラ」

「んん?」

「そのストロー何だけど…」

「あぁ!大変だったよこのストロー作るの」

「うえええぇ!?ストロー作ったの?」

「1リットルのペットボトルに普通のストローを入れたら落ちちゃうだろ?そこで1リットル用のストローを作ったんですよお兄さん!」

「才能の無駄遣いってこう言う事言うんだろうな?」

「喧しい!俺はペットボトルの飲み口に口を付けて飲むのは嫌何だ!だがこのストローさえあれば、俺の為にジュースを吸ってくれる。俺はこのストローが手放せない」

「はぁ…」

ストローに対して熱く語るこいつは、やはり才能あるバカだった。

「………………………………………」

体育館裏で話す純也と鈴。

「めんどくさい事に巻き込まれちゃったんだね?鈴ちゃん」

彼女はコクッと頷き喋り続ける。

「それに、私が渡して良いものなのかも分からない。私が渡した所で、本人じゃないから気持ちは伝わらない。手紙を読んだとしても…」

「恋に消極的な子何だね?その子」

「だと思う…」

「悩んでるならさ、アドバイスして上げれば良いと思うよ?鈴ちゃんなりのアドバイス」

「………………………………………」

私のなりの。

アドバイス…。

伝わる伝わらないの前に。

出来ればこの手紙を。

渡したくないと思ってる自分と。

恋を応援する違う人格の自分が居て。

自分が自分を裏切る。

何てアドバイスをして良いか分からない。

何だろう?

この、複雑な気持ち…。

何でこんな、胸が痛むんだろう?

「はあぁ~。私の白鳥様は何処に?」

席に座って上体を伏せる芽依は、いつだって彼に対して身を焼き滅ぼすような想いを向け、ドラキュラを見る度に、目まいに似た恍惚感が訪れる。

「教室に居んだろう?」

それを言ったのは奈良和美嘉だ。栗色の髪にソバージュを掛けて赤い口紅が良く似合う。

「ドラキュラのどこが良いの?」

隣の席の安藤雪は聞くなり、彼女はガタン!と上体を起こした。眼鏡を掛けているのだが、外したら美人だと言う噂が。

「全て!生きてる存在全てが愛おしい!あぁ!白鳥様!私を愛してくださるなら、あなたに何でも差し上げます!ナガレ様~!」

恥ずかしくてしょうがないわ。

「昨日さぁ!」

やがて、純也が戻って来て話していると

「ナガレ」

「あぁ?」

顔を向けると、青い髪が良く似合う、目鼻立ちのきりっとした美しい顔の女が声を掛けたのだ。

「なななななな!何で!?何で教室に来たのよ!じ、自分の!自分の教室に戻れよ!?」

「はぁ?あんたが鍵持って行くのを忘れたから届けに来たんでしょうが!それが何を教室に戻れだ!偉そうに口答えしてお前はよおぉ!」

ど迫力があるにも程がある。純也はにこやかに笑っており、尊は瞬時にその場から消えた。

「ごめんごめんごめんごめんごめん!いやぁ!ほら!まさかさぁ。姉貴が来るとは思ってなかったからさ」

それは、双子の姉である白鳥小栄だ。3年E組で自分とは離れたクラスにいるが、187センチの弟に対して、彼女は177センチと高身長であり、将来はファッションモデルとしての夢を描いている。

「ありがとうは?」

「ありがとうございます」

鍵を受け取るなり、小栄は歩いて教室から戻って行く。そのど迫力に、生徒たちは机の下に避難していた。

「小栄ちゃん。大迫力だったね?」

そして尊も戻って来た。

「はっ!ガツンと言ってやったぜ!」

「お前が言われたんだろう!?」

「うるせぇ!お前は直ぐに仲間売って逃げたくせに!根性無し!」

「逃げるが勝ちって言うだろ~!?」

ぎゃあぎゃあケンカし出し、彼は笑みを浮かべたまま頬杖を付く。

白鳥兄弟。

本当、好きだなぁ~。

弟と仲良くなれて俺。

幸せ感じてるよ♪

キーンコーンカーンコーン。

「愛道さん!」

そこへ、真希が入って来た。

「あの。伝えて頂きましたか?」

「ナガレは、自分の口から伝えてくれる子が好きだと思う。人からじゃなくて、本人の口から…」

席に着いたまま、鈴は瞳を揺らしてそう、口にした。

「自分の、口から…」

そう言われ、彼女の決意が固まる。

「頑張ります!私、頑張って自分の口から伝えます!」

「!!!!!!!!!!?」

アドバイスしちゃって。

応援もしてないのに。

そんな事言って…。

胸が痛い。

何でだろう?

心のどこかでは。

フラれて欲しいって思ってる自分がいる。

最低だよ。

本当…。

何が自分を。

こんなにも胸を痛めさせるの?

手紙ではなく、真希はドラキュラがいる教室に入り、挑んだ。

「白鳥くん!」

「?」

教室の中で、大胆になれた。純也は教室から出ていたものの、一部始終を見ていた。

「………………………………………」

鈴は、教室から出るなり

「愛道さん!」

「!!!!!!!!!!?」

彼女の瞳が揺れ、立ち止まる。ドクッドクッドクッドクッと、ひどくゆっくりと鼓動する心臓。張り裂けそうになってしまうのは何故なのか分からず、真希はこう言った。

「付き合う事は出来ないけど、友達になろうって言われた」

「そう…」

何だか、ホッとした。心臓の鼓動が収まり、体の中に異様な緊張が満ち溢れていたものが安堵した事によって全てが解れた。

「ありがとう!勇気を持たせてくれて!」

頬を染めて笑みを浮かべる彼女は、頭を下げ、走ってその場から去って行く。

「………………………………………」

「ねぇねぇ」

「?」

振り返ると、純也とナガレの姿が。

「これから予定ある?」

それを言ったのは純也だ。

「無いけど、どうして?」

「一緒にさぁ…」

3人で木桜街のセイザリヤに寄った。純也はデミグラスオムライスを注文し、ナガレはハンバーグ。そして彼女は、いくらとサーモンのクリームパスタを注文した。食べ盛りの男子たち。オムライスを食べた後に今度はたらこのパスタを食べ、ハンバーグをペロッと平らげた後にLサイズのピザを注文した。一人だけ浮くと思っていたら、そうでもなく3人で話す事が出来た。何故自分を誘ってくれたのかは分からないが、楽しかった。やがて食べ終え、それぞれが家に帰って行く。

「はぁ。やっぱ可愛いなぁ」

「ねぇ白鳥」

「んん?」

「また聞けなかったね?名前」

その時、彼は立ち止まった。

また…。

また名前聞くの、忘れたああぁ~!

翌日。

「白鳥様愛してます!ん~。ナガレ様!私はあなたが全てです!何か。ストーカーっぽい?」

「どれもストーカー発言には変わりないだろう?」

自分の席に座る芽衣の机に座る美嘉は胡座をかいておりそう口にした。

「えぇ~?じゃあ美嘉は何て言う?」

「そんなの、『好き』。その一言だよ」

「オトナ~」

その隣で雪は読書を楽しんでいた。

「そんなストレートに言えたらこんなに考えてないよ!」

ストレートに伝えられない人は、こんなストーカー発言のような言葉になってしまうのだろうか。そもそも彼女に関しての恋愛基準が少し違う気がする。それって言わば、アイドルや男性ユニットのメンバーに向けて咲かせる言葉みたいなものだ。

「白鳥様好き。白鳥様好き。好き。白鳥様好き」

ストレートに言ったとしても、やはりストーカー発言のようになってしまうのは変わりは無い。

「今日こそ。名前を聞くぜ」

教師の陰に隠れてしゃがむナガレは、鈴の姿を捉えていた。彼女は雪と真希と一緒にいて話していた。そう言えば、出会って間も無いが、鈴の笑顔を見た事がない。誰かと話していても、何をしても、彼女は真顔だ。なのにどこか、楽しそうなのは伝わる。不思議だ。

「名前を聞けないのに、大胆だね?白鳥は」

椅子の背もたれを前にして向き合って座る純也はそう口にした。

「俺は決めたんだ!あの子に告白する」

名前を聞く前から告白って、やはり大胆だ。なのに何故名前だけは聞けないのか本当に不思議だ。

「告白するのは構わないけどさぁ」

「とにかく!俺は彼女に告白する。男らしく堂々と!教室の中で告白して見せるぜ!」

「頑張って見る事は、良いと思うよ?応援してるよ。白鳥♪」

「おう!」

席に座る鈴は、自分の気持ちを考えてみた。何故こうもナガレと一緒に居て楽しいのかや、真希の事に関して気持ちが揺らいだのかを。

「………………………………………」

答えが分からない。どうすればまた答えを知る事が出来るのか。授業中、そんな事ばかり考えていた。そんな中、ナガレでは。

「ぢゅるるるるるるるる」

ぶどうジュースのペットボトルにストローを差し込んで飲むナガレは、鈴の事を想っていた。

「………………………………………」

名前を知らないくせに。

接点だけはある。

不思議な感じだぜ。

瀬長って子に告白された時。

直ぐにあの子の顔が浮かんだ。

あの子は俺と違って。

勇気のある子だった。

なら俺も頑張れるはずだ!

名前は聞けなくとも!

あの子に告白する事は出来る!

「じゃあここを、白鳥…」

「よぉし!」

ガタン!と立ち上がるなり、ガッツポーズをする。

「頑張んぞおおぉ~!」

注目する生徒たち。

「そんなにやる気なら!頑張って、読んでくれ!」

「へっ!?」

素っ頓狂な声を上げ、キョロキョロと見る。純也は前を向いたままクスクスと笑う。

また甘い夢でも見てたのかなぁ?

やっぱ、面白い。

キーンコーンカーンコーン。

「またね~鈴!」

「また明日」

「また…」

教室から出て行った夢と真希。放課後はいつも一人になる。

「………………………………………」

スクールバックにノートを仕舞う中

「よぉ!」

「?」

顔を向けると、ナガレの姿が。

「ナガレ。昨日は、誘ってくれてありがとう。楽しかった」

「良かった!楽しんで貰えたなら」

甲斐田!

お前の心遣い!

感謝致す!!

「また誘ってね?」

そう言って立ち上がり、スクールバックを肩に掛けて歩き出す。

「………………………………………」

話していたい。

いたいけど、私の脚が。

この場から逃げようとする。

留まらせてくれない…。

頬を染め、俯く彼女の脚は、とても軽かった。その時ナガレは追い掛けるなり、鈴の肩に手を置いた。

「?」

振り返るなり、彼の瞳が揺れており、唇に唇を、押し当てた。カチッカチッカチッカチッカチッ。時計の秒針が、教室内に響く。それだけ室内は静かであり、2人きりの空間を作り上げる。やがて、ソッと離れた際、ナガレはこう、口にした。

「好きだ」

その時、初めて彼女は笑みを浮かべ、瞳を揺らす。

「私も、好き…」

自分の気持ちに、やっと気付く事が出来た。自分に素直な男の子と、自分の気持ちに気付かない女の子との出会いは、これ以来、大きく変えてくれた。

「おはよう!」

「おはよう」

席に座る鈴の前に来て話し掛けるナガレと彼女は楽しそうに話す。互いに右手の薬指に銀色のオーソドックスな指輪を嵌めて。いつしか、左手の薬指に移り変わるのを夢見て。

「白鳥様~!」

ぼろぼろと大粒の涙を流す芽衣と、負けて悔しいが、お似合いな2人を見て心から喜ぶ真希。

「おめでとう!白鳥!」

そして何より喜んでくれている純也は、廊下を歩く彼の肩に腕を回す。

「お前のお陰で付き合う事が出来た!本当に感謝してる!」

ニィッと笑って喜ぶナガレの八重歯が、とても愛らしく、甲斐田が広めた『ドラキュラ』としても活かされる。

「あはは!大袈裟だよ白鳥。やっぱり名前で呼び合ってるの?」

「実はよぉ。まだ名前聞けて無いんだよ!」

その時、いつでもにこやかな笑みを浮かべて会話をする彼から笑顔が消え、真顔になる。

「えっ!?付き合ってるのに?」

「聞くよ!ちゃんと!」

「ドン引きされる前に聞いた方が良いよ?」

「いやぁ聞こうと思ってたら、その前に付き合っちゃってさぁ。あはは!」

「あはははははは!白鳥らしい~!」

ぶどうジュースを溢した際に、『ドラキュラみた~い』と言って笑ったのがきっかけで始まったのだが、それでも親友として、ナガレは彼を離さなかった。

それから9年後。

「ほら京牙!座って食べろ!」

「パパァ!今日学校終わったら遊んで!」

7歳の息子の京牙と、8歳の娘の美鈴を儲けた。椅子に座って大人しく食べる娘は、目玉焼きを食べてり、彼は食べ終えてデザートのプリンを食べていた途中に椅子から降りてパパであるナガレにちょっかいを出していた。京牙はパパ似てイケメンな子であり、美鈴はママに似てとても美人。

「美鈴!京牙!今日学校から帰ったらラーメン憩いで、食い行くぞ?」

「マジ!?ラーメン憩いで!?」

「やったぁ~!」

喜ぶ子供たちを目に、鈴は笑みを浮かべた。指輪は、左の薬指に移り変わっていた。あの時、ナガレがバイト代で溜めたお金で購入したあの指輪が、子どもたちの成長や家庭の愛に増し加えて、光輝く。輝き続ける。
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