ラーメン憩い

小豆あずきーコマメアズキー

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ラーメン憩い 一日目

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一日目。

「はぁ」

カツッカツッカツッカツッカツッカツッ。と、夜の街をヒールの踵を鳴らして歩く、白いシャツにスーツの紺色のスカート。そして、薄い黄色いトレンチコートを身に付けた栗色の髪の女性。島谷美幸が歩いていた。細身で低身長であり、なかなかお目にかかれない綺麗な形をした美脚がスカートから伸び、歩くのにも嫌気が差していた。取り敢えず早く座りたい。座りたくて、ため息が吐く。

「疲れたなぁ」

最近は、残業残業ばかりが続いて、心身疲れが滲み出ていた。その時ふと、脚を止めれば

「?」

気付いたらシャッター街に迷い込んでおり、こじんまりとしたラーメンの赤い暖簾が。暖簾には、『ラーメン憩い』と黒い習字で書かれていた。

ラーメン屋かぁ。

換気扇から流れるこの、ラーメン独特の油の匂い。

「お腹空いたなぁ」

ラーメンの匂いには誰もが誘惑されてしまう。入った事ないが、ガラッと磨りガラスの引き戸を引いた。

「いらっしゃい!」

カウンターの前に立つのは、シルバーの髪を一つで結えた青いシャツに白いズボンを身に付け、腰には黒いエプロンをした40代前半程の、性的魅力に溢れた高身長でスラリとした体型の男が。

「いらっしゃいませ」

その隣には、黒いシャツに青いデニムショートパンツを身に付けたモデルのようにスタイルの良い、一度見たら頭に残る蠱惑的な美貌の、20代前半程のブロンドの短い髪の女性が。

「何名様ですか?」

「1人…」

美幸は、人差し指で人数を表した。

「一名様!カウンター席にどうぞ!って、カウンター席しかないんだけどね?あはははは!」

確かにカウンター席が8席程しか無い。通路は広いのに、テーブル席が無い。男性はとてもフレンドリーな方であり、その一方で女性はとてもクールだ。彼女は歩き、無難な1番奥のカウンター席に座った。自分は、黒いビジネスバックを持っていた。

荷物荷物…。

荷物を置く場所を探していると

「これ!使って!」

「?」

横から出て来たのは、荷物置きにしている茶色いカゴを手にして差し出した、水色の長いツインテールをした黒いシャツに丈の短い黒いスカートを身に付けて白い腰のエプロンをしている女の子だ。見た目16~7の女の子だ。

「あっ。ありがとうございます」

個性的な人が集まっている。

「何にする?」

彼女はメモ帳と黒いボールペンを手にして注文を聞く大勢に入る。

「あっ!えっと」

メニューは壁に貼られている白い大きめの紙から選ぶようで、ラーメン以外にも餃子や唐揚げ、枝豆にチャーハン。生姜焼きなどもあり、値段も安い。ラーメン一杯600円。トッピングは50円のようだ。

「味噌ラーメンで」

「味噌ラーメンね。トッピングは?」

書き込みながらトッピングを聞く。

「あっ」

女の子のペースだ。美幸は、トッピングを見て決める。

「もやしとキャベツ。あと、玉子」

「硬さは?」

「普通で」

「油は?」

「少なめで」

「は~い」

そして、オーダーを通す。

「味噌ラーメンでトッピングもやしキャベツ卵。油少なめ硬さ普通」

「はい喜んで!」

居酒屋か。

「夢ちゃん。お客様にお冷やとおしぼりを」

「アイアイサ~」

ブロンドの髪の女性に指示を受け、お水とおしぼりを用意しに行く。

「家族ぐるみで営業してるんですか?」

関係性が知りたくて聞くと、男は答えた。

「今のツンテールはバイトの子で、ここに居て補助をしてるのが妻の鈴」

あのブロンドの髪の女性は、彼の奥さんのようだ。

「えっ!?奥さん!何ですか?」

「良く驚かれますよ。ははは!」

麺を煮る彼は喋りながらだが、お客さん好みの麺に調整する。

「はい。水とおしぼり」

すると夢は水とおしぼりを置いた。おしぼりは熱く、顔を拭くサラリーマンには最高。

「夢。お客様には敬語」

「分かってるよ~!」

すると彼女は不満だったのか、頬を膨らませる。

「夫婦で営んでるんです」

「ナガレさん。こっちの準備は出来ました」

どんぶりにニンニクと油を調達し、報告する。

「おう!」

オーナーであるナガレと、それを支える鈴。そして、バイトの夢。それぞれが個性的だ。そして、湯切りで麺を切り、どんぶりに投入し、スープを入れてトッピングを乗せて完成。

「お待ち!」

ドン!とどんぶりを置けば、味噌と油が絡まって食欲が唆る色と匂い。トッピングのもやしとキャベツ、そして卵が。その他にノリと、分厚い焼豚が。

「海苔と焼豚はサービス」

「あっ!ありがとうございます!」

割り箸を手に、パキッと割り

「頂きます」

挨拶をしてから、麺を掬う。麺は太麺で、見るなからに食べ応えがありそうだ。髪の毛を耳に掛けて啜る。

「!」

ただの味噌ラーメンではない。何だろう。味噌ラーメン何だが、こってりはしてなく、このさっぱりした味に惚れて来る女性は沢山居るだろう。この味の虜にならない人はいない。麺もとてもコシがあり、ズルズルと啜る。啜っても啜っても、その手を止める事はない。どんなに経っても、麺は伸びないであろう。もやしもシャキシャキで、キャベツはくたくたじゃない。歯応えがある。そして、玉子は半熟であり、とろりと黄身が溢れる。焼豚も分厚くて、噛んだとたんに分厚いのにとろける程柔らかく、堪らない。ノリは浸して食べる。美味い。絶品だ。味噌ラーメンでこんなにも虜にされたら、他の麺も試したくなる。どんぶりを手に、汁を飲む。ゴクッゴクッ。汁を残す何てもったいない。やがて

「はぁ」

飲み干し、心もお腹も満足が出来るこのラーメンに、最後は虜になる。

「美味しかったです!」

「良かった!良い食べっぷりだった」

「またいらして下さい」

「はい!また来ます!」

「ナガレ~!夢も味噌ラーメン食べた~い!」

味噌ラーメン食べてる自分を見たら、夢も食べたくなってしまったようだ。

「自分で作って食え!」

「何でよぉ~!」

オーナーとバイトとの日常会話。

「ふふふ」

美味しいラーメンを食べた後に、心がほっこりした。

「ご馳走さまでした!また来ます!」

疲れが癒えていた。それを自分は、気付いてなかった。最初はため息を吐いていたのに、家族の一員のように、この空間とラーメンの美味しさと人の良さの虜になっていた。

「またお待ちしております!」

「まったね~♪」

「ありがとうございました」

引き戸を引いて出、ガラガラと閉めた。

美味しかったな~。

また明日も行こう♪

カツッカツッカツッカツッカツッカツッ。美幸は、頬を染めて鼻歌を口遊みながら歩いて帰る。

あれ?

不思議。

その時、彼女は立ち止まりこう、感じた。

疲れてないや。

歩く脚も、軽くなっていた。
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