67 / 70
067
しおりを挟む昨晩、布団の中で女神エンジンを閲覧していた。
それは寺子屋に関してだった。
学問はどのようなものだろうかと。
夜通し徹夜ってわけにもいかない。
夜更かしは早死にの元だ。
だからほんのすこし、おさらい程度に見て置いたのだ。
くりかえし読み上げて、いくつか暗唱できるぐらいに。
それが当日来てみて流れで口にすることになってしまった。
俺は盤次郎の顔を見に来ただけだった。
お里との約束の手前、早々に帰るつもりでいた。
あいにく盤次郎がそこに居合わせなかった。
居合わせたのは通学の他の生徒だった。
出会った小夜子の厚意で教室に顔を出すことになって。
本来文字を読めることが困難な町民の子である。
しかも7歳なんて現代でも、平仮名程度なら親が居れば不思議ではないが。
小夜子に指摘され、ハッとする。
ただ、いい気になろうと思っていたわけではないのだ。
貧乏人がこんな場所に通うことは、どういう状況を生むかを案じて。
そう、盤次郎がうまく溶け込めているのかが心配で。
来てみたのだが。
案の定、庶民であっても格差はあったか。
為吉の差し向けた卑下の言葉につい、カッとなって。
覚えたばかりの孟子の言葉を得意げにそらんじてしまった。
結果的に。
為吉と居合わせた十人の生徒が「えっ」と声を上げた。
意表をつかれたように口を吐いたのだ。
小夜子も驚いて、俺を見ながら賞賛?した。
為吉の表情を見るに、どうせ「馬鹿の一つ覚え」なのだろうと否定の色がうかがえた。生徒たちも同様にまぐれ呼ばわりをした。
だがこのままでは恥をかかせたであろうこの者たちからテストされてしまう。
瞬間そう思い、手に取った教科書を返して回れ右を決めたのだ。
そうそうに退室をしようと走り出したその時、入ってきた誰かとぶつかった。
「みんな、大変だ!」
「どうしたの、血相かえて」
どうやらここの生徒のようだ。
慌てた様子で飛びこんできたのだ。
「藤吉郎先生が大名行列に巻き込まれて、お縄になったんだ」
「何ですって? 先生に限って。どういうことなの?」
「それが勉強会にいく道中に行列があったのだが、子供を庇おうと盤次郎が余計な進言をして籠を止めたらしいのだ」
やばい。やばい状況のやつだ。
大名行列に巻き込まれた子供を庇った盤次郎はどうしたんだ?
為吉と同様に身を乗り出して状況を問いだす生徒。
「あの身の程知らずが、余計な真似を! 盤次郎はどうした?」
「勉強会には参加するように先生に言われて会場の宿場へ行ったよ」
盤次郎が向かったのは宿場。
なにか特別な催し物があるようだな。
「先生がてめえのせいで大変なのに恒例の知恵比べに出て、いい気なもんだな」
盤次郎はそんなにも認められているのか。
宿場っていえば、どのあたりだ。
「ねえ、おねえちゃん。バンさんはどこいったの?」
「勉強会といってね、他の寺子屋の生徒との交流に出かけたのよ」
「場所はどこですか?」
「カミセの宿場町にあるお座敷よ」
カミセ?
「…ツナセじゃなくて?」
「えっとね、ツナセ界隈はずっと西の方よ。ツナセまでは行かないわね」
そうなんだ。
どうやら東のエリアはカミセと言うらしい。
「それじゃあ、神社はカミノセだったりしますか?」
「え、カミノセ…神社? そんなの聞いたことないけど。いま大変なことが起きてるから構ってあげられないの、ごめんね」
「お嬢さん、先生のもとに急ぎましょう!」
俺とぶつかった生徒が小夜子に向けて言った。
この子は先生のお嬢さんのようだ。
小夜子も慌ただしく教室を出て行くようだ。
「とりあえず番所へ急ごう、為吉さんたちは自習をお願いします」
「仕方ねぇな。小夜ちゃん、藤吉郎先生のこと、しっかり頼んだぜ」
小夜子は神社の存在を知らないと言った。
こちらの方にはないのかもしれない。
確かに出て来た祠は寺のお堂だったし。
向こうがツナセでこちらがカミセなら。
神社があるとして、カミノセかと思ったものだから。
それにしてもここの先生は大変なことになったな。
いくらかの生徒が番所へ急いで行った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

『お前を異世界に配置する』
ゼルダのりょーご
ファンタジー
主人公レオ。14歳男。
14の夏に突然死が訪れた。
目の前に現れた女神は彼に告げる。
「お前を異世界に配置する」
配置されなければならない理由は身勝手で自己中心的であった。
彼に死をもたらせたのは、この女神だったから。
レオの「死」はもう動かせない事実。
彼は、コワ可愛い女神をゆるして異世界に旅立つ。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる