56 / 70
056
しおりを挟むあいつ……。
あんなにスゴい忍術持ってる忍びが、街道に出てまで確認を取るんだな。
そりゃ、そうだろうな。
自分の手で確実に葬った祠が、目の前に再び登場したわけだから。
街道の脇道から入ってきて、祠を破壊した後、西へ歩いていたら、また祠だ。
見覚えのある、例の祠だ。
近づいて隈なく見定めると、その驚きもさることながら、まさかと振り返れば街道への細道が視界に飛びこんで来るのだから。
同一の場所のものであるかは、その時、背後を見て疑いを強くしたのなら。
確認すれば良いだけのことだ。
俺の時も背後には、ツナセ街道への細道があったのだから。
駒次郎も同じ手順を踏む様だ。
俺の思考は正しい行動をもたらしていたな。
確認が大事だ。
俺もここまで来て、まさかと思いながらも驚きはあった。
ますます謎が深まるばかりだ。
この場所は何かがおかしい。
でも、その謎解きがいま重要かは判断できない。
考えられることがあるとすれば、べつの忍者が結界でも張っているのかも!?
幻術みたいなものを見ているのかと思っている。
女神の力で再生された可能性が一番有力だろうけど。
元の位置に戻される意味がわからん。位置が戻らない方が女神にとって好都合のはずでしょ。ここに誰かが近づけば近づくほど異界の扉を開きづらくなるし、人目を遠ざけた場所から出て来る甲斐がない。
それはそうと、
駒次郎が戻って来るまえに、今度こそ確認を怠らないようにしたい。
身を屈めながら、細心の注意を払って祠に近づく。
この祠の下の木組みの台座の隙間に目をやった。
あれを確認しなくちゃいけない。
さっき駒次郎が破壊したものが元通りの姿を取り戻しているのなら。
ならば、あるのかもしれない。
時間がないので身を屈めてのぞき込むだけにする。
「……ッ!」
あ、あった!
マジかよ。しかし……ここで取り戻しておくのはマズいかもな。
この先であいつと会わなければいけないから。
任命書はこのまま此処において置くことにする。
だけど、また「流し素麺」喰らわせられたら厄介だから。
俺はここで登場しとかなければいけない気がする。
彼の帰りを祠のまえで待つ事にした。
駒次郎がすぐにも折り返して来るだろう。
あいつも街道の出入り口に何か目印でも付けているだろうか。
忍びは、曲がり角や入り口の手前に目印を置くクセがあるはず。
必ずしもではないか。
仲間がいる時の繋ぎとかに使うんだったな。
俺は、成り切るために真似事をしていてクセになっただけだが。
前方に意識を集中した。
うん、駒次郎の足音が聞こえてくる。
俺はふと思った、駒次郎はどんな目印を置くんだろうな……。
そうじゃない、俺……置石を回収していないよ。
そこの出口にまだあるのなら、駒次郎が気づかないワケないよな。
あわわわ、わっ!
目の前に駒次郎が現れた!
「葵の御紋にちなんで、石を三つ巴に置いたんだ。
それが、置いてあるってことは……」
やばいっ!!
まずい、まずいっ!
いますぐ引き返して、回収しなきゃ!
いやもう遅いわ、駒次郎が正面に来てるし。
「あの方だよ、あの方が傍にいるんだよ。こんなところによ。
参拝客なんて一人もすれ違った覚えはないぞ、だから絶対にあの方に違いない」
駒次郎がまたぶつくさ言いながらこっちへ来る。
「くっそー!」
なんで俺はこんなに抜けてんだよ。
俺は顔をすかさず腕で覆って、身をひるがえした。
木の陰に隠れた。
焦るあまり、思わず逃げてしまった。
そんなもの見つかったって、白を切れば良いものを。
「──誰だッッ!?」
駒次郎に見つかった!
反射的に木の陰を転々とした。
なぜ隠れてしまったんだ。
身体をひねり、また飛びのく所だった。
なんでだ。
なんでこの身体はこんなに俊敏なんだよ。
ヤバいと思った瞬間、無意識に隠れようと身体が勝手に動くみたいだ。
忍びの身体に染みついた業のようなものか。
駒次郎もいつか思わず隠れたと言っていたな。
元の忍者も隠れて生きて来たんだろうな。
いけない、駒次郎はすでにこちらを不審者扱いしている。
この場所はたしか、駒次郎の敵対者が潜む所だったっけ。
ちがう、ちがうんだ!
ズドドドドド──ドーンッ!!!
やめてくれっ! その流し素麺だけは!!
この心の叫びは彼には届かず。
条件反射という奴で、身を隠すために飛んだことが仇になった。
祠をぶっこわした忍術を木々の隙間に放って来た!
敵対者に対する攻撃の手に容赦がなかった。
会うためにステルスも解いたものだから、技をまともに喰らった。
今のダメージは少なくはない。
俺の所在地を今さら隠せない。
お互い、忍具を持ち合わせていない。
だから忍術を打ち込んでくるのか。
「待って……コマさん……」
お願い、話を聞いて……コマさん……。
言いながらも身体は恐怖で背を向けてしまう。
振り向いて顔を見せたいけど、もう一度喰らったら相当やばいっ!!
ズザザザザザ──ザーンッ!!!
彼の方が圧倒的に上手だ。
俺は戦う意思を捨ててしまっている。
イシツブテとステルスしかない俺。負傷したため、足も取られている!
目にも止まらぬ速さで俺に到達した彼の手が、俺の首を背後から締め付けるのだ。
捕まってしまった。
首筋に激痛が走る!
心拍数が乱れ、ドクドクが鳴りやまない。
一瞬、呼吸が止まった。
喉に渇きが走る。口の中も焼け付くように渇く。
その指先はかぎ爪のようにがっつり首に喰い込む。
このままでは首が千切られる。
「おい、お前っ! 一体どこから湧いて来やがった!?」
敵を殺ルと決めたら一気に間合いを詰める。
一気に致死を連想させる。何一つ手抜きはしない。
まるで、敵に施すものは殺意だけだと言わんばかりだ。
逃げたからには、追われる。非情な世界。
相手が誰かも確認しないで、こんな……。
加減を知らないのか? 敵じゃなかったらどうするんだ。
これが闇に生きる者達なのか。
どこから湧いた?
そうか……忍者の身でも惑わされた場所だ。
街道以外の出入り口がないということか。
ここはいま、袋小路みたいになっているから。
どうやって存在しているのか、と。
ずっと潜伏し、様子をうかがい、後をつけていたと言う事を悟り、訊いているんだな。
「…その身のこなし、どこの忍びだ!?」
この屈強の彼をこれまで無条件で監視下に置いていたということになる。
彼の憤りは半端ない。
返事をしたくても息が苦しくて、とても声が出せる状況ではない。
頼む、駒次郎……その手を弛めてくれないか。
誤解なんだよ。誤解なんだよ……。
意識が……遠のいていく。
駄目だ。
このままでは……俺は。
まったく間の悪いやつだな俺は。
置石のことを忘れていて、こんな時に思い出してしまうとは……な。
彼の右手が俺の首根っこを背後から絞め、その左手は前方に。
俺の胸元に絡みついている。
途轍もなく強い力で。
目に映っていた青い空に墨汁でもこぼしたように、視界が塞がれていった。
無念だ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜
あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。
そんな世界に唯一現れた白髪の少年。
その少年とは神様に転生させられた日本人だった。
その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。
⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。
⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる