40 / 70
040
しおりを挟む「いやぁ、困ったことになったな…」
と言いつつ、あんまり困ってもいなかったりするのか。
どっちだよ、俺。
久しぶりに俺は、俺に説明を求めていた。
困ったというのは、駒次郎が一向に見つからないってわけだ。
「あいつ、もしかして方向音痴とかじゃないよなぁ」
宿屋から駒次郎に案内された芝居小屋は、一本道だった。
通りの裏は、道が細くて人通りが少ないと言っていた。
だけどけっこう荷車が通るから、それで人が嫌がって避けがちなだけだと。
そういうことなら、駒次郎、お前も通らないよな。
そういや、地元の人間というのは、よそ者に本当に普段から使用している道を教えたりしないらしいんだ。
俺だって、たまには新聞ぐらい読んでいたさ。
なんかの事件の記事だったと思う。それはさておき。
死ぬと肝心なときに記憶をなくすのかな、3秒後の俺?
死んで間もねぇから分かんないよ、3秒前の俺!
「どこをほっつき歩いているんだよ、まったくもう」
道を行き交う人間は数知れずだ。
芝居小屋までの道を駒次郎に付き添われて、教わったんだ。
つーか、東に真っすぐ一本道なんだけど。
表参道みたいな道ですこし裏通りより、道幅が広いんだよ。
それなのに、行き交う人に聞くんか、3秒後の俺?
知っていることをわざわざ聞いてどうする、3秒前の俺ぇ!
結果、芝居小屋までの道が分かるだけだ。
分かっていることを尋ねても、情報の更新はないとわかる。
空しくなるから誰にも尋ねなかった。
生前となんら変わりない日常だな。
だから俺に尋ねたのか、死後の俺?
未だに駒次郎と宿屋の人間ぐらいしか口利いてないんだよ、…生前の俺。
ヤクザは畜生だから数にいれない。
道はわかっているんだ、駒次郎の居場所が分かんねぇんだわ。
それを聞いて歩くにはリスクがあるかと思い、踏みとどまっている。
宿を出る際にすれ違いで帰ったんなら、この耳が聞き逃すはずはない。
つまりその線はない。
帰り道も一本道だし。
考えられることはひとつだけだ。
道中、身を隠さねばならない事態が彼を待っていた。
すでにさらわれた可能性も無きにしも非ずだが。
宿屋の玄関先にいたゴロツキたちは駒次郎を血眼になり探していた。
増員していたのが何よりの証拠だ。
手分けして探していたやつらが居たとするなら先に連れて行かれたか。
あるいはその遭遇で危険を察知して、身を隠したのかもな。
どっちにしても、めんどくせぇな。
「連れて行かれたんなら…」
もう一度、屋根の上から裏通りも見渡していこうや、死後の俺?
見回り同心がいるから昼間はやめておこうぜ、生前の俺。
こんなとき二手に分かれられたら便利なのにって昔の俺は思っていた。
せっかく忍者なんだから、分身とかできたら超便利なのに。
そう思わないか、今の俺?
「分身できたら、上下に分かれようぜ?」
は?
何喋ってんだ、どういう分身なんだよ!
ぜったいカッコ悪いやつやろ、それェ!
ちなみにこっちの俺は、ブサ顔の上半身引き受けてやるから、な。
二手になったら、屋根の上と下の道に分かれて探すんだよ、そこの俺?
そっちかい、ワレェ!
◇
まじめにどうするのか。
闇雲に動き回らないほうがいいだろう。
それなら、ひとまず女神といた祠へ行くとするか。
この任命書だって今後、暴れたりしていたら紛失して、流出したらやばいから。
たしか出て来たとき、扉のチェックをするのに振り返った。
その折に祠の下に隙間があるのが見えたんだ。
その辺りなら女神の力が働いていると思うから、これほどの安全地帯はない。
指が一本はいる程度の隙間だが、すこし奥へ突っ込んでおこう。
取り出す時は、細い針金でも突っ込んで引っ掛ければ、大丈夫だ。
「引き返し、芝居小屋へ行って見よう」
駒次郎が追われの身になった、そのように仮定するなら。
俺の居場所へ来るのが一番安全と悟れるはずだ。
芝居小屋なら人の目も多い。
彼が宿に案内してくれる時も、そうした方が安全だと提案してくれたんだ。
わかっているよな、駒次郎なら。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

『お前を異世界に配置する』
ゼルダのりょーご
ファンタジー
主人公レオ。14歳男。
14の夏に突然死が訪れた。
目の前に現れた女神は彼に告げる。
「お前を異世界に配置する」
配置されなければならない理由は身勝手で自己中心的であった。
彼に死をもたらせたのは、この女神だったから。
レオの「死」はもう動かせない事実。
彼は、コワ可愛い女神をゆるして異世界に旅立つ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる