39 / 70
039
しおりを挟むきっと気づくに違いないと信じたい。
だが気づいたとして、俺のようには行かないからやっぱり不安だ。
盤次郎はいま玄関先だ。
彼の動向を探りたいのだが。
駒次郎に何かあったら、そちらは探しようがない。
俺の知らない町だからな。
命までは取られないとしても、また鉱山に幽閉されたら時間的に面倒だ。
盤次郎か、駒次郎か。
どちらを選ぶ。
駒次郎が正解かな。
盤次郎は宿からそう遠くへは行かないだろうし。
夕飯が済むまで客も店も賑わっているから、滅多なことは起こさない。
「よし。芝居小屋までの道のりをなぞってみるか」
俺は宿を後にしようと思った。
ついでに町を広く見回って、通行人に鉱山への道や周辺のことを聞くのもいい。
旅人が結構いるようだったから、周辺の情報も入手できるかもしれない。
この身体能力で俺の居た街を移動できたら最高だったのにな。
さて屋根伝いに行き過ぎると、泥棒だと誤解を招くので道を行こうかと。
十手持ちの見回り同心が先ほどの帰り道にも見えたからな。
俺は少しでも稼ぎになるかと思い、薬箱を担いで外に出る。
ついでに忍者の任命書はどこか別の場所に移して置こうと思う。
役人の見回りは暇なイメージがある。
何も起こらない日常で、手柄欲しさに無実の人をなんだかんだと疑ってかかるかもしれないから、絡まれたとき、荷物を調べられるのは厄介だからだ。
時代劇だと隠密は、よく神社の灯篭やお堂に何かを隠すよな。
とりあえずあの書簡は隠しに行かねば、やばいだろう。
◇
一応、玄関先の様子も見に行った。
ゴロツキどもがまだいやがる。
数人だが、見かけない顔ぶれも居るぞ。
人員を補給したようだ。
俺が痛めつけた連中は、ご大層にも顔などに包帯を巻いている。
これ見よがしに怪我をしていますと言うアピールはしないのがヤクザの筈だけど。通行人がクスクス笑いをしていく。
「笑うんじゃねぇ! 見せもんじゃねぇぞ!!」
コテンパンにやられて敗北しました。
負けて泣き帰ってきました。
と顔に書いてるわけだから、仕方ないじゃない。
それ、まさか駒次郎にやられたとか言わないよね。
「おい、盤次郎っ! 駒次郎のやつが帰って来ただろ?」
え、やっぱり。
まだ駒次郎を追いかけてるの?
「何を言ってるんですか、親分さん。あいつが鉱山から逃げ出したとでも言うんですか?」
「ああ、その通りだ!」
盤次郎が賢明にハッタリをかましている所かな。
そしていま話をつけようと来ているのが親分なんだな。街道には居なかったな。
出て行って、倒すのは簡単そうなのだが。
死なせるわけにはいかないからな。
息がある限り何度でもくる。
その堂々巡りがヤクザ者の怖いところだ。
盤次郎を助けるという名分で、ポイントは稼げるかもしれないが。
駒次郎が戻る前に、俺が戻っていることを駒次郎に知られる恐れがある。
それがどうにも駒次郎を騙したみたいな罪悪感で、後ろ暗い気持ちになるのだ。
事実、騙したんだけど。
ヤクザ者と駒次郎に見つかったら、ここの宿には居られなくなってしまう。
駒次郎と俺は、あいつらに見つかってはダメなんだ。
盤次郎の悩みの種を増やさないことは、金蔵破りへの助長になるが。
かえってそれで何かが見えて来るかもしれないからな。
「よし、行こう」
駒次郎を探しに。
それと、任命書の隠し場所はどこであろうと不安だから。
女神の祠までひとっ走りして、そばに隠して来よう。
内容はもう覚えたから、いっそのこと、火に入れてもいいんだけど。
綱の印が気になってしまって。
百両は見送るとしても、あわよくばの欲望を捨てきれないんだ。
思いついたことを思う存分やって行けばいい。
楽しみがなければ、旅人も忍者もつまんなくなるからな。
芝居小屋の道をまず辿るか。
駒次郎を先に見つけても合流せず、見届けようと思う。
危機に陥ったら、姿を見せずに援護して逃がせばいいのだ。
風車の人みたいにな。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~
桂
ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。
そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。
そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

『お前を異世界に配置する』
ゼルダのりょーご
ファンタジー
主人公レオ。14歳男。
14の夏に突然死が訪れた。
目の前に現れた女神は彼に告げる。
「お前を異世界に配置する」
配置されなければならない理由は身勝手で自己中心的であった。
彼に死をもたらせたのは、この女神だったから。
レオの「死」はもう動かせない事実。
彼は、コワ可愛い女神をゆるして異世界に旅立つ。

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~
トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。
旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。
この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。
こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる