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しおりを挟むこの胸の内の悲痛な叫びへの返答だろうか。
姿なき輩のうす気味悪い声が、再度俺の身を襲ってきた。
『聞く以外の選択肢が今のお前にはないのだ、眼下を見れば分かるだろ!』
その声は、ズバリと現状を指摘する。
夢であって欲しい。どうか……悪い夢であって欲しかった。
自分の足元なら、とっくに目に入っている。
そこに受け入れがたい現実があるから、泣きわめいているんだよ。
「うわああああぁぁぁぁあん。枝から降りたら、ギュイーンって雲の上まで──なんで、なんで空飛んでんの? 俺……説明しろ、なんで落ちねえんだよ!」
俺は、俺に説明を求める。誰にも頼らねぇんだ。
『お前は、もう死んでいるからだよ』
状況説明を頼んだおぼえはないぞ。
なんだよ、それ。
「いったい何の話をしてるんだよぉぉぉおおおおっっ!!!」
もしかしたら、もしかする。
だけど体には痛みもないし、それなら風のいたずらだと信じたい。
これから天に召される所だなんて、誰が喜んで静観できるねん。
それは地上にどれだけの未練が残っていたのかを知る瞬間でもあった。
自分は他者に無関心だと言い聞かせてきたのに。
天邪鬼って俺自身のことかよ。
そりゃ誰もいない街には興味がないさ。
親にも周囲にも認められたい気持ちがあるんだ。
まだあそこでやり残したことが沢山あるんだよ。死ぬなんて嫌だよ。
ていうか、
「あんたは、どこのどなた様ですかぁぁぁあああああ!!?」
『私は神だ。神の住む世界から来た、太陽の女神だ』
た、太陽の……なに?
はへ……?
いったい何のお話しでしょうか?
女神さま?
死神さまの間違いじゃないのかい!!
ひどすぎる、なんで死んだんだよ俺は!? 家に帰してくれよっ!
姿なき声が、返事をした。
あの白いやつ……なのか?
ほんとに神さまと話をしちまったのか。
いまの不安や恐怖の原因は決してこの相手ではない。
この相手がいなくなれば、もう状況を知る手段はなくなる。
「死」が事実だとするなら、そのお迎えであるのかも問いたい。
いや問わねばならない。
「ていうか、やっぱり説明プリーズッ! 説明ガイダァ──ンスッ!」
おい、テメェ! とことん訊かせろやあ!
「おはようからおやすみまで、全て訊かせろやあぁぁあああああっ!
涙と鼻水が、止まだねぇええから……よおぉぉおおおおおっ!!!」
◇俺の知る状況。
腰掛けていた枝から、ひょいと飛び降りた所からだった。
この全身は螺旋の風に巻かれて、ぐいぐいと空へと上昇していった。
夢か幻だと、そう思いたかった。
女神ってやつが声明を上げた。
空耳じゃないことなど、とうに気づいていたさ。
途中、ほっぺだって何度もつねったさ。
空を飛ぶというより、強風に持ちあげられ、上空に向かうという感じだった。
抗えない状況に焦るも、独り言を繰り返した。
否定し続ける理由は若さの故だ。
人生経験の浅い俺に、これを悟れというのは無理があるだろ。
90歳過ぎのお爺じゃないんだから。
全身を持ちあげている風が止まったらと思うと、恐怖しか無かった。
地上に真っ逆さまに落ちて、即死じゃないかという恐怖しか、
無かったからだよおぉぉおおおおおっ!!!
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