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しおりを挟む公園で紙芝居を見ていたはずだった。
それは真夏のいつも通りの日常。俺は人との関わりが大の苦手。
他者との距離は十分にとっていた。
俺の心の中のつぶやきに対し、語りかける声……なのか。
それは不思議とこの耳にだけ届くんだ。
下半身は薄っすらとしていて身長はよく分からないが、若い顔だった。
不意に見慣れぬ顔が、ぬっと目の前に突き出されたという印象をうけた。
この目に映った限りの情報から、全身をまっしろなシーツで包んでいるようにも思えた。その状況を憶測で無理に整理するなら、心霊現象と解釈するしかない。
内心では、ゾッとしている。
◇
よその町の見物客か。
べつにどうでもいい。
公園は同じ学区内の小中学生で賑わっている。
夏になると、行商人のおじさんが紙芝居をだしに駄菓子を売りにやって来るのだ。
「俺の好物は水飴せんべいだよ」
あいよ、と小気味の良い返事で、それを目の前で作ってくれている。
割りばしの先に水飴をたっぷりと絡めると、麩菓子のような薄くて丸いせんべいで挟むのだ。
そこに泥ソースとイチゴジャムをせんべいの両面にたっぷりと塗って出来上がり。
甘辛い駄菓子の間から、柔らかな水飴がむにっと口の中に広がる。
通常の菓子屋には売っていない。おじさんの発明品らしい。
おじさんは町の人気者。周囲はいつも子供らで埋め尽くされる。
二十円で買った水飴せんべいを片手に木陰にはいる。
なーに、ちょいと木に登って枝に腰掛けるだけさ。
さっきの白いやつはというと。
薄っすらとしている部分で霊的なものを連想させてくる。
見てはいけないものを見てしまったのか。
わーわーと歓声が上がり、蝉がシャンシャンと鳴きしぐれている。
周囲は下町の夏のありきたりの日常に包まれていた。
おじさんは話が上手で、子供好きという印象。人懐っこくて聞き上手。
おじさんの前には、あっという間に長蛇の列が出来上がっていく。
子供らは、紙芝居のおじさんに甘えながら、次々と商品を注文していく。
甘いおやつが口の中でゆっくりと溶けていく……夢の時間だ。
この視線の先は、多くの手の中でたわむれる駄菓子スイーツと紙芝居だけさ。
麦わら帽子を被ったおじさんが、ランニングシャツの上に薄手のポロシャツを羽織っているのが見える。
気取った花柄の派手なアロハシャツなんかじゃない。
無地でブラウンの落ち着いた大人の雰囲気だ。
それに俺は、他人には一切興味が湧かない。
だからいつも他人からはこうして距離を置くのさ。
そんな俺は名もなき民。
俺は名もなき民だ!
べつにそれを声に出して、誰に宣告する訳でもない。
単なる心のつぶやきだ。
誰に縛られるわけでもない一匹狼だと言いたいのだ。
一度も誰にも言えていないが。
だが飲食をするついでに息が漏れる程度に無意識につぶやいてしまった。
「誰だよ、あんた? 目の前に立たれちゃ、紙芝居が見れないでしょ?」
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