もう一度、彩りを

こっそりと。

正式に直人と百合が付き合い始めて2年が経った。
直人の息子、翔かけるにはすぐに付き合う事を報告したが百合の2人の子供である廉と百々にはまだ言わずにいた。
年齢的にも思春期の息子と娘に余計な刺激は与えたくなかったからだ。
そして、病院内にももちろんバレないように。
院内ではSNSでのやり取りしかしなかった。

しかし、忙しい中でも同じ院内にいるとやはり気になってしまう。
2人は休憩時間に無言のビデオ通話をするようになった。
医師と看護師なため毎日はできなかったがそれでも2人は満足だった。
直人は院長室での休憩、百合は総合病院のイートスペースの隅で。
人が来たら指を2回トントンと机に叩くとどちらかがビデオ通話を切る。
たまにメモを見せて会話をしたりした。
なかなかスリルのあるこのやりとりを2人は楽しんでいた。

翔に交際を告げてからは、直人の家で寄り道をして帰るようになった。
百々はいつも放課後は早く家に帰り、ビデオ通話しながら勉強会をしているようだ。
夕飯は帰宅後に次の日の分を用意してきたり、百合は子供たちのことも手抜きしなかった。
「なんか職場でコソコソ私たち悪い事してるみたいね！」
「なんだか、それが楽しくて」
笑いながら話していると、翔が帰ってきた。
「あ、百合さんどうも」
「おかえり」
「おかえりなさい、翔くん。もうそんな時間なのね！帰らないと」
「もう21時か。百々ちゃん1人でご飯だったかな？」
「百々ちゃんは廉ちゃんを待って食べるから大丈夫よ。最近、百々ちゃんの方は気づいてるみたいなのよね。廉ちゃんはまったくだけど。」
「女の子は勘が鋭いからね～」
「廉ちゃんは全く気づく気配なくて、逆にびっくりよ。」
「いつ気づくか楽しみだね」
「たぶん、報告するまで気づかないわね」

百合を家まで送った直人はすれ違った少年が廉とは気づかないまま家路についた。