もう一度、彩りを

白うさぎ

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初めて会った時

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伊月いつきさん、ちょっと。」
白山総合病院の院長、白山直人しろやまなおとは、最近気になっている伊月百合いつきゆりを院長室に呼んだ。
「忙しいのにごめんね。」
「いえ。何か...」
「その腕の傷長いけど、どこで怪我したの?まさか院内?」
「いえ、プライベートで...」
「こないだはこめかみに怪我してたよね?」
「あ、息子と喧嘩しちゃって...」
「息子さんいくつ?」
「今、10歳です」
「元気な盛りだから大変だね」
「...はい...」
「患者さんが心配してたから、なるべく怪我しないように気をつけてね」
「すみません」
「じゃあ、仕事に戻ってもらっていいよ。忙しいとこごめんね」
「はい、失礼します」
直人はこの時百合の表情、アザの原因についての話、動揺でDVだとすぐに悟った。

そして、直人が百合を呼び出した二週間後百合の娘がわずか8歳にして勇敢に兄である廉を連れて警察に行った事で虐待とDVで逮捕と離婚が決まったという話が直人の耳まで届いた。
特に直人も百合も何もなく、百合は旧姓の笹原百合ささはらゆりに名前が戻ったこと、住居が新しくなったこと以外変わりはなく月日が流れた。

百合の離婚から2年後、直人は15歳だった次男そらを交通事故で亡くした。
脇見運転、信号無視による事故で即死だった。
直人は次男、空が生まれてすぐに元妻の浮気で離婚していた。
離婚後は自身の両親の手を借りつつ、長男、かける、次男である空の2人を懸命に育てた。
大切な2人息子の1人が星になった。
それが悲しくて直人は荒れそうになった。
しかし、それをみていた百合は直人にまだ翔くんがいるじゃないか。先生が荒れたら翔くんは誰に哀しみをぶつけたらいいかわからなくなる。話は聞くから、先生頑張ってのりこえてください。
そう言って、廉と百々が寝た後、電話で話を聞いてくれた。

そんな優しい百合に直人は次第に惹かれていった。
「笹原さん、今晩子供たちが寝た後時間をもらえないかな」
「?はい。少しなら大丈夫ですよ。」
「ありがとう。じゃあ、家の前まで迎えに行くよ。」
「ありがとうございます。」
帰り際こっそりそんな会話をして2人は一度家路についた。



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