傘華 -黒き糸-

時谷 創

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第22話 茶会

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リビングに入ると、琴音の提案でお茶会をする事になった。

俺と琴音は席に座り、響と沙耶がお茶会の準備をする。

「響の気持ちも少しずつ戻りかけているみたいだし、良かったな」

琴音のおかげで、場の雰囲気が良化してきている。

闇を祓いし者は、怪異を退治する事はできるが、万能ではないので、
琴音のように冷静に状況を見る人物が必要なのかもしれない。

「どうかした?」

琴音が心配して声をかけてきたので、俺は「大丈夫」と笑顔で応え、
すぐに気持ちを切り替える。

「東城様、準備をしている間に治療を致しますので、手をお出しください」

琴音と約束したので、おとなしく響に手を見せて治療をしてもらう。

「痛みはない?」

「もう痛みは引いてるから大丈夫だ。こう見ても結構頑丈な体をしてるからな」

あいている右腕で力こぶを見せると、治療が終わったようで
響は再びキッチンに戻っていく。

「あと弔いの件は、俺も賛成だ。
 前を向くと言っても無関係な人物を巻き込んだ事実は変わらないけど、
 本人にとっても、みんなにとっても気分的に違うからな」

「弔いは共同のお墓を建てて、お経をあげてもらえばいい?」

「他の地域で被害にあった際も、その形で進めてたな。
 被害にあった方々とよく話あって決めるといい」

本当なら全ての灰を集めて、それぞれの墓に納められるといいのだが、
区別ができないので不可能なのだ。

「響が手を貸してしまった件についてだが……」

「それは、響に任せる」

琴音の目を見れば、その後の対応も考えているのが分かるし、
任せておく事にしよう。

「そうだな。よく考えた上で結論を出すといい」

「お待たせ致しました。東城様には、極上の珈琲を」

「私は琴音様に極上の紅茶をご用意致しました」

伏見兄妹は揃って畏まった表情で飲み物を持ち、
テーブルの上においてくれる。

「私の手作りケーキも用意してたのですが、
   食べられない状態になっていたので。
 いつか絶品のケーキを東城様にも味わって頂きたいです!」

「あはは、楽しみにしておくよ。
 それに沙耶ちゃんが元気そうで良かった」

「ありがとうございます。
 私も体調が気になっていましたが、大丈夫みたいです」

「一応明日検査に行く予定です」と、沙耶が言うと、みんな一緒に席に着く。

「それでは、お茶会を始めさせて頂きます。
 琴音様、何か一言お願いしたいのですが」

響の言葉に琴音が立ち上がり、ゆっくりと頭を下げる。

「私の監督が行き届れば、もう少し状況が変わっていたと思う」

それを聞いて響が何かを言おうとするが、俺は手で響を制止する。

「でも今回の件で結束を固める事の重要さが分かりました。
 今後はみんなで話あって決めていきましょう」

琴音はこれまでより口数が増しただけでなく、
言葉に気持ちが乗っていたため、俺の心に直接響いてくる。

「何かあったら俺の電話番号を後で教えるから、まずは乾杯しようぜ!」

「東城様、お茶会では乾杯しませんよ」

冗談で言った訳ではなかったが、皆の笑い声を合図にお茶会が始まる。

「やっぱ響の入れる珈琲は、メチャメチャうまいな」

「沙耶の紅茶も美味しい」

伏見兄妹が「ありがとうございます」と声を揃えて言う。

「それで東城様にお聞きしたかったんですが、
 傘華使いとはどのようなものですか?」

「ええと、俺もじいさんに聞いた範囲でしか知らないが、
 俺の家系は代々傘、昔なら番傘とかを使って、
 怪異と戦ってたみたいなんだよ。
 だから怪異にも傘華使いの存在は知られているみたいだが」

「そのような家系がある事を初めて聞きました。
 その……怪異に狙われたりもするのですか?」

沙耶が心配そうな表情で、そう問いかけてくる。

「いや、傘華使いと言っも、怪異に対して万能ではないから、
 直接狙いすまして攻撃してくる事はほとんどないな」

「ほとんどと言う事は少しはあると言う事ですか?」

今度は響が俺の言葉に対して問いかけてくる。

「まあ、少しはな。それより俺が気になるのは、
 怪異の事件に巻き込まれやすい体質なようで、
 大学4年生なのにまだ内定がない訳だよ」

そう言って俺は笑い声をあげるが、
正直そろそろ決まらないのはやばいのが実情だったりする。

「そう」

琴音さん、そんな短い言葉でそうと言われると、虚しくなってきますよ!

やはりそう言う事はあまり人には言わない方が良いのだろうな。

「でも響は、結構筋が良いと思うぞ。
 もう少し本腰を入れて護身術なりを磨くと、良いかもしれんぞ」

「東城様には全く歯が立たなかったですが、
 そう言われると嬉しいですね」

俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべる響。

執事をしてると言っても響もまだ若者だからな。

まあそう言う俺も、まだ若者ではあるのだが。

「響と沙耶が交互に仕事すれば、習って来ても良い」

「琴音様、ほんとですか!? あ、でも」

「私の事は気にしなくてもいいよ。
 それよりお兄ちゃんの生き生きしてる姿が、久々に見れてなんか嬉しいな」

沙耶の言葉に響は笑顔で応える。

やはりこの日常を乱す存在は、許しておくべきではないと改めて思い直した。

「それじゃ申し訳ないけど、そろそろここを出ようと思う。
 空も晴れて来たみたいだし、山道を歩けるうちに移動しておきたい」

「もう行ってしまわれるのですか? 
 まだ道も乾いていない所もあると思うので、
 今日は泊まって頂ければ、友人宅まで車でお送りするのですが」

「お兄ちゃんの言う通りですよ。私も東城様の話を色々聞きたいですし」

二人の気持ちは嬉しいけど、今日中に友人宅に着いて、
明日の朝10時までにデータをアップロードしないと、
単位を落としてしまうのだ。

「誠、困ってる。連絡先だけ教えて」

琴音は携帯をもっていないとの事なので、響と電話番号を交換する。

「落ち着いたら連絡して。何かあったら誠に連絡する」

「了解。あまり話す時間が無かったし、俺は歓迎だからな」

寂しそうな顔をする琴音に、
「いつでも会える」と笑顔で言って、玄関に足を向ける。

「お見送りします」

響の案内に従い、みんなで別荘から外に出る。
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