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15.月と星
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ルディグナは、アレムに向けて自慢げに語った。
「星だけではない。わたしは、月も手に入れたのだ」
「月を?」
その言葉にアレムが目を丸くしたので、ルディグナは、気分が良くなった。
「河の神は、この世のすべてを統べるお方。その花嫁はすべてを得る権利を持っているのだそうだ。だからこそわたしは、空に浮かぶ月も星も手に入れることができたのだ」
そんなふうに語る少女を見て、アレムは幼い子供にでも言い聞かせるような口調で言った。
「月というものは誰の手も届かない空にあるものだよ。これまで誰のものにもなったことはないし、これから先も誰かの所有物になることはない。そもそも、人間が手に入れられるわけがないんだから」
アレムはそう言ったが、ルディグナは納得しなかった。
「けれど、わたしは実際に月を持っているのだぞ?」
「だから、それはあり得ないって……」
「ならば、見るが良い!」
ルディグナは、寝台の枕元に飾られていた銀の月を取り出した。
それは、この部屋にある数々の宝物のうちでも、特に彼女が気に入っているものだった。
「これが月だ!」
「……それは、本物の月じゃないよ。ただの銀でできた皿だ。」
どこか悲しげな様子でアレムが言った。
「わたしが嘘を申しておるというのか?」
ルディグナは、少しむっとした
「……いや、どちらかと言えば、君も騙されていたという方が正しいかもしれないね。この地上でどんなに権力を持っていたとしても、空に浮かぶ月や星までは手に入れることはできないからね」
アレムは淡々とそう語った。
「何を申しておる。月はわたしの手の中にちゃんとあるではないか!?」
ルディグナは、自分の腕の中にある『月』をぎゅっと抱きしめた。
「私の言うことが信じられないというのなら、自分の目で確かめて見るかい? 本物の月は、今も天高く浮かんでいるはずだ。さあ、今から外に出て確認してみようじゃないか!」
そう言ってアレムは、ルディグナに向かって誘うように手を差し伸べた。
「……!」
するとこれまで強気な態度を崩さなかったルディグナが、はじめてたじろいだ様子を見せた。
少し考え込むように眉根を寄せながら、彼女は答えた。
「わたしはこの時間は外に出ることができぬのだ。部屋の外には巫女たちがいるし……。」
「おや? 君はわたしがどのようにしてこの部屋に入ってきたか忘れたのかい?」
少しおどけたような口調でアレムは言った。
「……?」
ルディグナは、相手の言葉の意味がわからず首をかしげた。
そんな少女に素早く近づくと、アレムはルディグナの膝の裏と背中に手を回し、彼女の体を寝台から抱き上げた。
「な、何をするのだ?!」
あわてふためいたルディグナは、思わず叫んでいた。
気を抜けば顔がつきそうになってしまう相手の胸板から身を守るようにして、手に持った自分の『月』をしっかりと 抱え込んだ。
「これから、君に本物の月を見せてあげようと思ってね」
「そなた、わたしの話を聞いていなかったのか? 外には見張りの巫女が……」
「静かにしてくれないと困る。魔法は二つ同時には使えないんだ。移動の魔法を使おうと思ったら、この部屋に張っている沈黙の結界を解かないといけない。そのとき大きな音がしたら、たちまち外に聞こえてしまう。せっかくの外出だ、邪魔されることなく楽しみたいと思わないかい?」
そう耳元でささやかれ、ルディグナは少しの間考え込んだ。
「わかってくれたかな?」
アレムの問いかけにルディグナがこっくりと頷くと、彼は安心させるようににっこりと笑いかけた。
「よしよし、いい子だね」
「星だけではない。わたしは、月も手に入れたのだ」
「月を?」
その言葉にアレムが目を丸くしたので、ルディグナは、気分が良くなった。
「河の神は、この世のすべてを統べるお方。その花嫁はすべてを得る権利を持っているのだそうだ。だからこそわたしは、空に浮かぶ月も星も手に入れることができたのだ」
そんなふうに語る少女を見て、アレムは幼い子供にでも言い聞かせるような口調で言った。
「月というものは誰の手も届かない空にあるものだよ。これまで誰のものにもなったことはないし、これから先も誰かの所有物になることはない。そもそも、人間が手に入れられるわけがないんだから」
アレムはそう言ったが、ルディグナは納得しなかった。
「けれど、わたしは実際に月を持っているのだぞ?」
「だから、それはあり得ないって……」
「ならば、見るが良い!」
ルディグナは、寝台の枕元に飾られていた銀の月を取り出した。
それは、この部屋にある数々の宝物のうちでも、特に彼女が気に入っているものだった。
「これが月だ!」
「……それは、本物の月じゃないよ。ただの銀でできた皿だ。」
どこか悲しげな様子でアレムが言った。
「わたしが嘘を申しておるというのか?」
ルディグナは、少しむっとした
「……いや、どちらかと言えば、君も騙されていたという方が正しいかもしれないね。この地上でどんなに権力を持っていたとしても、空に浮かぶ月や星までは手に入れることはできないからね」
アレムは淡々とそう語った。
「何を申しておる。月はわたしの手の中にちゃんとあるではないか!?」
ルディグナは、自分の腕の中にある『月』をぎゅっと抱きしめた。
「私の言うことが信じられないというのなら、自分の目で確かめて見るかい? 本物の月は、今も天高く浮かんでいるはずだ。さあ、今から外に出て確認してみようじゃないか!」
そう言ってアレムは、ルディグナに向かって誘うように手を差し伸べた。
「……!」
するとこれまで強気な態度を崩さなかったルディグナが、はじめてたじろいだ様子を見せた。
少し考え込むように眉根を寄せながら、彼女は答えた。
「わたしはこの時間は外に出ることができぬのだ。部屋の外には巫女たちがいるし……。」
「おや? 君はわたしがどのようにしてこの部屋に入ってきたか忘れたのかい?」
少しおどけたような口調でアレムは言った。
「……?」
ルディグナは、相手の言葉の意味がわからず首をかしげた。
そんな少女に素早く近づくと、アレムはルディグナの膝の裏と背中に手を回し、彼女の体を寝台から抱き上げた。
「な、何をするのだ?!」
あわてふためいたルディグナは、思わず叫んでいた。
気を抜けば顔がつきそうになってしまう相手の胸板から身を守るようにして、手に持った自分の『月』をしっかりと 抱え込んだ。
「これから、君に本物の月を見せてあげようと思ってね」
「そなた、わたしの話を聞いていなかったのか? 外には見張りの巫女が……」
「静かにしてくれないと困る。魔法は二つ同時には使えないんだ。移動の魔法を使おうと思ったら、この部屋に張っている沈黙の結界を解かないといけない。そのとき大きな音がしたら、たちまち外に聞こえてしまう。せっかくの外出だ、邪魔されることなく楽しみたいと思わないかい?」
そう耳元でささやかれ、ルディグナは少しの間考え込んだ。
「わかってくれたかな?」
アレムの問いかけにルディグナがこっくりと頷くと、彼は安心させるようににっこりと笑いかけた。
「よしよし、いい子だね」
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