異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

文字の大きさ
上 下
55 / 73

第四十九話 お疲れ様でございました

しおりを挟む
「……はーっ」

 帰りの魔獣車の中で。いつもの姿に戻ったイリスは、大きなため息をついた。

「お疲れ様でございました。イリス様」

 イリスに飲み物を差し出して、シーモスは晴れやかに笑みを浮かべた。

「はーっ」
「はあ……」

 もう二人、ため息をついたのは、泰樹たいきとシャルだった。

「イリス、めちゃくちゃだったなあ。ホントに強いんだなー」
「……うん。僕は、強いよ。……僕のこと、怖い? 嫌いになった? タイキ……」

 恐る恐る、イリスは身を縮めて泰樹を見つめる。

「ううん。驚いたし、イリスを本気で怒らすとすげーんだなって思ったけどさ。嫌いになんてなるわけがねえ!」

 泰樹はいつも通りに笑って、イリスの頭をわしわしとでる。イリスは、ようやく安堵したようにくしゃりと笑った。

「それにしてもよー。驚いたぜ! イリスが魔の王様になっちまうなんてよー!」



「……僕、は…………うん。引き受ける、よ。魔竜王様がお許し下さるなら、僕は、魔の王様になるよ!」

『決闘裁判』の会場で、決心を固めたイリスはひざまずくナティエにそう告げた。

「僕が王様になったら、もっとみんなが仲良く暮らせるように、する。そのために法律も作るし、いっぱい、頑張る。ナティエちゃんは、そのお手伝いをして欲しい。いいかな?」
「はい。『慈愛公』。いいえ。『慈愛王』。私は持てる力の全てを貴方様に捧げます。魔竜王様、ご照覧あれ!」

 ナティエはイリスの手を取って、遊色の唇でそっと触れる。敬意を表すための口付け。その瞬間に、イリスが天を仰いだ。声が聞こえる。それは大勢の魔の者たち、人間たちがひしめく会場の中で、たった一人、イリスにだけ聞こえた声。

「……うん。はい。解りました。魔竜王様。僕の命が尽きるまで、僕は魔の王様になります」

 一人うなずいたイリス見上げて、ナティエはその紅い瞳を輝かせる。

「天啓が下されたのですね? 魔竜王様は何と?」
「『汝に力を与える。生殺与奪の権を与える。新たなる幻魔を生み出す権を与える』って。それから、『汝の命の燃え尽きるまで、次の魔の王は定められぬと知れ』だって」
「おお! 諸君、天啓は下された!! 今ここに、新たなる魔の王陛下の誕生だ!!」

 ナティエが、高らかに歌うように宣言する。
 観客たちがそれに唱和するように歓声を上げ、手を打ち鳴らす。
 それを見渡していたイリスに、シーモスがマントを着せかけてひざまずいた。

「……ありがと、シーモス」
「おめでとうございます。イリス様」

 シーモスは内心の喜びを隠せないのか、微笑みながら盟友を見上げる。

「……僕が王様になっても、君は僕の友達?」
「はい。私は貴方様の忠実な友。そして下僕でございます。イリス様。いいえ、魔の王陛下」
「……君は、何がホントか解らないとき、あるからなあ。……シーモス、君を王付の筆頭側仕えとする。これからも、僕を色々助けて欲しい」
「はい。かしこまりました」

 シーモスが一礼して後に下がると、イリスはナティエを見てうなずいた。

「ナティエちゃん。しばらくの間は君が『幻魔議会』の議長をやってくれる? 僕が新しい王様になったから、色々やらなきゃいけない事があるんでしょ?」
「はい。陛下。まずは戴冠式たいかんしきの日取りを決めましょう。些事さじは我々『議会』にお任せ下さいませ」
「うん。頼んだよ。僕はいったん自分のお家に帰るよ。今日は少し疲れた」

 それだけ言って、イリスは騒がしい会場を後にした。



「……ナティエちゃんがどうして僕を王様にしたいのか、解らないけど……僕、ちょっと思ったんだ。僕が王様になったら、この『島』の人たちを外に出さないようにできるかな、って。そしたら外にいるレーキにも迷惑をかけなくてすむかなって」

魔獣車の中で、シーモスから受け取ったジュースを飲みながら、イリスはそんな事を言う。

「それに、僕が王様になったら、奴隷のコたちをいじめたり、殺して食べちゃったりするのをやめさせたり出来るかなって。シャルのお母さんを食べちゃった人を探すのも、楽になるかなって」

 イリスが魔の王になることを承知したのは、そんな理由があったのか。
 やはりイリスは、本質的に変わらない。

「ねえ、僕は……ホントに王様になって良いのかな?」

 不安げに眼を伏せて、イリスは自分の腕を抱いた。

「もちろんですとも! イリス様は魔竜王様の啓示を受けられました。誰にはばかることがございましょう!」

 シーモスは喜色を隠せずに、そんなイリスを勇気づけるように肩に手を置いた。

「……そう、だよね……僕が王様になっても、良いよね?」

 すがるように、イリスの視線が泰樹に向く。イリスも、この急展開には戸惑っているのか。泰樹は少し口ごもってから、こくりとうなずいた。

「……俺には、王様になるーとか社長になるーとかそう言うことは良く解んねーけどさ」

 そう前置きして、泰樹はイリスに向き直った。

「アンタがそうしたいと決めたんなら、思いっきりやってみたら良いんじゃねーか? 俺は、イリスは向いてると思うぜ。王様に」
「うん。前にもタイキは、そう言ってたね。……そうだよね、僕は選ばれた。だから、王様になってもいい。……僕、頑張る、ね!」

 ほっと息をついたイリスは、嬉しそうに笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...