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*第三十五.五話 アルダーの頼み事

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『大書庫』から帰宅したその日の夜半に、コンコンと扉をノックする音がした。すでに着替えてベッドに入っていた泰樹たいきは、横着してそのままの体勢で返事をする。

「? あーどうぞ? 入れよ」

 扉を開けて入ってきたのは、アルダーだった。

「タイキ、こんな夜更けにすまんな」
「ん? どした? 何か用か?」

 何かを思いめたような表情で、アルダーは顔を伏せている。その様子にただならぬモノを感じて、泰樹はベッドの上に起き上がった。

「……その、お前に頼みたいことが、ある」

 アルダーは何だが歯切れが悪い。泰樹から目を反らしたまま、ベッドの脇までやって来てそこで足を止めた。

「なんだよ? 俺に出来ることなら力を貸すぜ?」
「あ、その……俺は魔人に、なった。それで、魔人は、人を食う」
「うん」

 それは知っている。イリスやシーモスも、何らかの形で人を『食っている』。

「そ、それで、俺もやはり、食わなければならない。だが、俺にはまだ『奴隷』がいない。それで、シーモスに相談したら……その……お前に、『頼ってはどうか』と言われた」
「俺に?」

 まあ、頼られて悪い気はしない。そもそもアルダーは恩人だ。

「ああ。その……『体液』を、わけて欲しい」
「俺に『献血』しろってことか? いいぜ。ちょっとくらいなら」

 恩人に『献血』してやるくらい、何でも無い。泰樹が腕を差し出すと、アルダーは困ったように眉を寄せた。

「あ、いや……血は、いらない。試してみたが駄目だった。匂いだけで吐き気を催してしまうんだ。だから……」
「……別のモノが、欲しい?」
「……ああ」

 ああ。アルダー、アンタもか。泰樹は困惑して、ガリガリと髪をかき回した。

「……ま、良いぜ。それでアンタの助けになるならな!」
「すまん、タイキ。『奴隷』を選ぶまでで良い。食わせてくれ」

 すでに空腹なのだろうか。アルダーはしょんぼりとした顔で、タイキを見下ろした。

「……じゃあ、さ。まずは唾液から、試してみるか?」
「ああ」

 二人は視線をそらして、向かい合う。何だか、互いに気恥ずかしい。
 アルダーはベッドに膝をついて、身をかがめた。どちらとも無くおずおずと手を伸ばして、そっと唇を触れあわせる。
 シーモスは性別の関係なく美形だと思うが、この男は顔が良い。彫りも深いし紫の瞳は神秘的で、いい男だと同性の泰樹からみてもそう思う。
 舌先を絡め合うようなキスをして、たっぷりと唾液を流し込んでやる。アルダーはそれを飲み込んで、小さく息をついた。

「ん……」
「は、……ぁ……甘い……」

 がっつくように、アルダーは再び唇を求めてくる。やべえ、なんだが妙な気分になってきた……雰囲気に流されて、泰樹は目をつぶった。

「タイキ。これだけじゃ、足りない……」

 耳元に、甘く低い声がささやいてくる。ぞくっ。それが、背骨にひびく。

「……っ……! そ、それじゃ、好きにしろよ……っ」
「……いいのか?」
「ん、いいよ。……でも、何だかあの司書さんには悪いけど、な」

 くすと泰樹が微笑むと、アルダーは渋い表情をした。

「イクサウディ殿か。どうして筆頭司書殿に悪いんだ?」
「……え、アンタ、あの司書さんの態度見てれば解るだろ?」

 まさか、気付いてなかったのか?
 泰樹が、驚いてアルダーを見る。アルダーはますます表情を険しくして、ため息をついた。

「……俺は……あの方の思いには応えられない。だから、あの方に何かをはばかることは無い」

 きっぱりと、アルダーは告げる。あーあ。アイツ、かわいそうになあ。こんな所で振られてやんの。
 内心で泰樹は手を合わせ、ちらとアルダーを見上げた。

「……ん。変なこと言って、ごめん。腹減ってんだろ? 好きなだけ、食って良い、から……っ」

 緊張の中に、情欲の欠片がアルダーの瞳にひらく。

「タイキ……ありがとう」

 礼を言って、アルダーは丁重な手つきで泰樹の自身をむき出しにした。
 アルダーが先端にそっと口付ける。その唇が、微かに震えている。
 コイツ、こんなこと、したこと無いんだろうな。泰樹はそう感じた。
 舌先で舐め上げていく様子はぎこちなく、けっして上手いとは言えない。
 それでも懸命に、アルダーは口淫を続ける。

「ん……は……っ」
「んっ、……っごめ、ん……アルダー、それじゃ、イけねえ……」
「あ……っタイキ……?」
「あ、の……後、いじって……その方がきっと、早えから……っ」

 もどかしい。たどたどしい前への刺激だけでは、達しきれない。
 泰樹は枕元のサイドテーブルから、潤滑剤の小びんを取り出した。それをアルダーへあずけると、彼はきょとんとした表情でビンを見つめた。

「……そのまんまじゃ、濡れねえから……っそれつかって、中、いじってくれ……」
「あ、ああ……」

 アルダーは戸惑いながらも、蓋をあけた小瓶を傾ける。ひんやりとした液体を指先にからめて、そっと後ろの穴へと押し当ててきた。

「ひぁ……っ」

 ぬるりと入り込んできた異物感に、思わず声が出る。

「大丈夫、か?」
「あ……う……大丈夫、だから……そのまま、続けてくれ」
「分かった」

 アルダーは慎重に、内部を探るように指を動かしていく。内壁を傷つけないようにか、優しく丁寧に解されていく。

「……あ……あぁ……ん……っ」
「気持ち良い、のか?」
「ああ……その、もう少し奥まで、入れてくれ…… そこらへん……コリってしたトコ……分かるか?」
「ここ、か?」
「あっ! ……うん……あ……そ、れ……っ!」

 アルダーの指先が、一点をかすめる。それだけでビリっと電流のような快感が走って、泰樹はびくびく身体を震わせた。

「はぁ……っ! ……ぅ、アルダー、も、もうちょっと、強くして良いから……もっと、触って……っ」
「こうか……?」
「ふ、ぁああ……っ!」

 ぐりっと、感じるポイントを強く押されて、泰樹は大きく仰け反った。いつの間にか自身は痛いほど張り詰めていて、先端からは透明な液が流れ出している。

「あ、あ……っやべぇ……きもちい……っ」
「タイキ……お前、なんだか可愛い」
「な、なんだよソレ……っ」
「いや、すごく……色っぽい」

 アルダーの声が、興奮している。それは泰樹も同じだった。

「んぁ……は、早く……っ食っていいから……っ」

 泰樹は膝裏を抱えて、脚を大きく開いた。恥ずかしさよりも、今は快楽が欲しい。

「ん……」

 アルダーは躊躇ためらいがちに、泰樹の自身を口に含んだ。熱い粘膜に包まれて、ゾワリと全身があわ立つ。

「く……っアルダー、歯はたてない、で、くれ……」
「ん……」
「そう……ゆっくり、動いて……」

 泰樹の指示通り、アルダーはゆっくりと動き出す。最初はぎこちなかった口淫が徐々にスムーズになり、的確に弱い箇所かしよねらってくる。

「あ……っ! ……や、だめ……っあ、あ……っ」
「タイキ……すごいな……どんどんあふれてくる」
「言うなよぉ……っ」

 恥ずかしくて仕方がない。けれど、それすらも心地よくて、泰樹は身をよじった。

「んっ、んんっ……! は、あ……っ」
「ん……んぐ……」

 じゅぷ、ぴちゃ。淫猥いんわいな水音が部屋に響く。泰樹は、羞恥を誤魔化すように枕に顔をうずめて声を殺した。

「く、ぅ……あ、アルダー……おれ、も、出る……っ」
「ん……」
「あぁっ、も、でるからぁ……っ! アルダー……っ!!」

 泰樹はアルダーの頭を押さえつけて、精を放った。びゅくりと勢い良く白濁した体液が飛び出して、アルダーの口内を満たしていく。

「あ……あー……っ」

 射精後の気怠けだるさに、泰樹はベッドに身を沈めて脱力した。
 アルダーは口の中のものを飲み込んで、ほうっと息をつく。

「タイキ……」
「な、何だよ」
「まだ足りない。もっと、食べたい」

 アルダーの紫の瞳には、『食欲』がギラついていた。

「お、おう……好きにして良いぜ?」

 泰樹は頬を引きつらせて言った。アルダーは嬉しそうな顔をすると、再び泰樹の後孔へ指を伸ばす。

「う、ぁ……」

 今度は二本まとめて入れられて、先程よりも性急に出し入れされる。潤滑剤のおかげで痛みは無いものの、圧迫感はあった。

「あ、あっ、やっ、そこ……ッ!」

 ぐりっと、内壁の一点を指先でこすられる。ビリビリと痺れるような快感に、泰樹は腰を浮かせた。

「タイキ、ここ、気持ち良いのか……?」
「あぁっ、そ、それ……ダメだってぇ……っ」
「嫌なのか? 気持ちが良いんだろう?」
「あ、あ……っう、ん……きもち、良い……っ」
「そうか。じゃあ、もっと気持ち良くなってくれ」

 アルダーは指を増やした。三本になったそれがバラバラに動いて内壁を押し広げ、さらに敏感な部分を集中的に責め立てる。

「ひゃあっ! あ、あ……っ! あ、あ……ッ!」
「ん……ここが、好きなんだな……」
「あ、あ……っ! やめ……っ! あぁあッ!」

 感じる場所を指で挟むようにして強く刺激されると、目の前がチカチカして何も考えられなくなる。泰樹の自身はまた硬度を取り戻して、ダラダラと透明な液体を流し続けていた。

「待って……っ待ってくれ、アルダーっ」
「どうした? 痛かったか?」
「いや、違う、けど……っその、アンタ、これ……っ」

 泰樹は上目遣いにアルダーを見つめながら、彼の股間に触れた。そこはズボン越しでも分かるほど熱を持っていて、ドクンドクンと脈打っている。

「ああ……大丈夫だ。気にしないでくれ」
「いや、気にすんなって方が無理だろ!?」

 泰樹はガバッと起き上がると、アルダーの下腹部へと手を伸ばした。

「タイキ……っ」
「これは流石に、放っておけないって」

 ズボンに手をかけると、アルダーは少し恥ずかしそうに目をらした。

「……ちょ、ちょっと待ってな……」

 泰樹はベルトを外すと、前をくつろげた。そして下着の中から現れたものに思わず絶句する。

「で、デカいな……」
「そうだろうか……」

 泰樹のモノよりかなり大きい。ソレは体格に見合った立派なものだった。

――コレ、ハメられたら……

 想像してしまった途端、ゾクリとしたものが背筋を走る。

「あのさ……」

 泰樹はごくりと唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。

「俺も……めてみていい?」
「な……っ!」
「だめ……か?」

 泰樹は四つんいになると、アルダーの前に顔を寄せた。間近で見ると更に大きく見える。それに興奮している自分がいることに気づいて、泰樹は苦笑した。

「タイキ……」
「ん……」

 アルダーの自身を握って、先端を口に含む。ビクビクと震えていて、熱い。

「んぅ……」
「う……くっ」

 ゆっくりと奥まで飲み込んでいく。全て入りきらなくて、喉の奥に当たって苦しくなる。それでも必死に舌を動かしながら頭を上下させた。

「んぅ……んぐ……」
「く、ぅ……っ」

 アルダーの感じている声が頭上から聞こえてくる。それが嬉しくて、泰樹は夢中で奉仕を続ける。
「んぐ……ん、ん……っぷは……」
「は……っ」

 いったん口を離すと、アルダーの自身が唾液でてらてらと光っていた。それを見下ろして、アルダーがゴクリと生唾を飲むのが分かった。

「タイキ……っ」
「ん……なあ、アルダー。これ、欲しい……っ」

 泰樹は自分の後孔を広げて見せた。先程アルダーによって散々いじられていたせいで、ヒクついているのがよくわかる。

「なあ、頼むよ……もう我慢できねぇからぁ……っ」
「……いい、のか? 本当に……」
「うん……」

 アルダーは泰樹を抱き寄せると、そのままベッドに押し倒した。

「あ……」
「すまん、余裕が無いんだ……」
「へへ、良いぜ。来てくれ、アルダー」
「ああ……っ」

 泰樹の両脚を持ち上げて、アルダーは自身の熱を泰樹の後孔にあてがった。

「あ……ぁ、あ……っ」
「タイキ……っ」
「あぁああっ!!」

 ずっ、ずにゅう。一気に貫かれて、泰樹は言葉にならない悲鳴を上げる。

「あっあっあっ!」
「タイキ……っ」
「あ、あ……っ! は、激し……っ」

 揺さぶられて、突き上げられる。激しく打ち付けられる腰に、泰樹はシーツを握り締めた。

「あっあっあっあっ! あーっ!」
「ん、は……っ、すごいな……っ絡み付いてくる……」
「やっ、言うなってぇ……!」

 泰樹は恥ずかしくなって、腕で顔をおおってしまう。すると、アルダーがそれを引きがしてきた。

「隠さないでくれ……もっと見せて欲しい……」
「う……わ、わかった……」

 泰樹が素直に従うと、アルダーの顔が近づき唇が重なる。すぐにそれは深いものになり、互いの舌をからめ合う。

「ん、ふぁ……あぁっ」
「は……っ」
「あっあっあっ! そこぉ……っ」

 良いところを突き上げられ、泰樹は涙を浮かべながらあえいだ。気持ち良くて気持ち良くて。頭がおかしくなりそうだ。

「は、ここが良いのか……っ」
「んっんっ、ソコ、イイッ気持ちい……っ」
「は、は……っ」

 アルダーの動きが激しくなる。絶頂が近いのだろう。泰樹も限界だった。

「あ、も、イク……ッ」
「はっ、は……っああ、俺も出そう、だ……っ」
「出して……っ中にいっぱい……っ」
「は……っ」

 アルダーは泰樹の中に熱を放った。同時に泰樹も達して、自分の腹の上に白濁を吐き出す。

「は……は……」
「はぁ……」

 2人揃って息を整える。泰樹が落ち着くのを待って、アルダーは自身をズルリと引き抜いた。

「ん……っ」
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」

 泰樹は身体を起こすと、まだ少し痛む後孔に触れた。その指にはアルダーの出したものがまとわりつく。

「たくさん出したなー」
「え!? い、いやそれは、その……っ」
「はははっ、照れるなってっ!」

 泰樹は笑うと、自分の後孔を広げてみせた。中からはアルダーの放った精液が流れ出てくる。

「アルダーのソレ、すげぇ良かった……また、今度、して欲しいって言ったら?」
「……タイキ」
「冗談だって。怒るなよ」
「怒ってなどいない。ただ……」

 アルダーは泰樹の手を掴んで引き寄せると、再び押し倒し覆い被さってきた。

「もう1回だけ……」
「は……?」

 結局2人は明け方近くまで抱き合っていた。
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