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*第三十五.五話 アルダーの頼み事
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『大書庫』から帰宅したその日の夜半に、コンコンと扉をノックする音がした。すでに着替えてベッドに入っていた泰樹は、横着してそのままの体勢で返事をする。
「? あーどうぞ? 入れよ」
扉を開けて入ってきたのは、アルダーだった。
「タイキ、こんな夜更けにすまんな」
「ん? どした? 何か用か?」
何かを思い詰めたような表情で、アルダーは顔を伏せている。その様子にただならぬモノを感じて、泰樹はベッドの上に起き上がった。
「……その、お前に頼みたいことが、ある」
アルダーは何だが歯切れが悪い。泰樹から目を反らしたまま、ベッドの脇までやって来てそこで足を止めた。
「なんだよ? 俺に出来ることなら力を貸すぜ?」
「あ、その……俺は魔人に、なった。それで、魔人は、人を食う」
「うん」
それは知っている。イリスやシーモスも、何らかの形で人を『食っている』。
「そ、それで、俺もやはり、食わなければならない。だが、俺にはまだ『奴隷』がいない。それで、シーモスに相談したら……その……お前に、『頼ってはどうか』と言われた」
「俺に?」
まあ、頼られて悪い気はしない。そもそもアルダーは恩人だ。
「ああ。その……『体液』を、わけて欲しい」
「俺に『献血』しろってことか? いいぜ。ちょっとくらいなら」
恩人に『献血』してやるくらい、何でも無い。泰樹が腕を差し出すと、アルダーは困ったように眉を寄せた。
「あ、いや……血は、いらない。試してみたが駄目だった。匂いだけで吐き気を催してしまうんだ。だから……」
「……別のモノが、欲しい?」
「……ああ」
ああ。アルダー、アンタもか。泰樹は困惑して、ガリガリと髪をかき回した。
「……ま、良いぜ。それでアンタの助けになるならな!」
「すまん、タイキ。『奴隷』を選ぶまでで良い。食わせてくれ」
すでに空腹なのだろうか。アルダーはしょんぼりとした顔で、タイキを見下ろした。
「……じゃあ、さ。まずは唾液から、試してみるか?」
「ああ」
二人は視線をそらして、向かい合う。何だか、互いに気恥ずかしい。
アルダーはベッドに膝をついて、身をかがめた。どちらとも無くおずおずと手を伸ばして、そっと唇を触れあわせる。
シーモスは性別の関係なく美形だと思うが、この男は顔が良い。彫りも深いし紫の瞳は神秘的で、いい男だと同性の泰樹からみてもそう思う。
舌先を絡め合うようなキスをして、たっぷりと唾液を流し込んでやる。アルダーはそれを飲み込んで、小さく息をついた。
「ん……」
「は、……ぁ……甘い……」
がっつくように、アルダーは再び唇を求めてくる。やべえ、なんだが妙な気分になってきた……雰囲気に流されて、泰樹は目をつぶった。
「タイキ。これだけじゃ、足りない……」
耳元に、甘く低い声がささやいてくる。ぞくっ。それが、背骨に響く。
「……っ……! そ、それじゃ、好きにしろよ……っ」
「……いいのか?」
「ん、いいよ。……でも、何だかあの司書さんには悪いけど、な」
くすと泰樹が微笑むと、アルダーは渋い表情をした。
「イクサウディ殿か。どうして筆頭司書殿に悪いんだ?」
「……え、アンタ、あの司書さんの態度見てれば解るだろ?」
まさか、気付いてなかったのか?
泰樹が、驚いてアルダーを見る。アルダーはますます表情を険しくして、ため息をついた。
「……俺は……あの方の思いには応えられない。だから、あの方に何かをはばかることは無い」
きっぱりと、アルダーは告げる。あーあ。アイツ、かわいそうになあ。こんな所で振られてやんの。
内心で泰樹は手を合わせ、ちらとアルダーを見上げた。
「……ん。変なこと言って、ごめん。腹減ってんだろ? 好きなだけ、食って良い、から……っ」
緊張の中に、情欲の欠片がアルダーの瞳に閃く。
「タイキ……ありがとう」
礼を言って、アルダーは丁重な手つきで泰樹の自身をむき出しにした。
アルダーが先端にそっと口付ける。その唇が、微かに震えている。
コイツ、こんなこと、したこと無いんだろうな。泰樹はそう感じた。
舌先で舐め上げていく様子はぎこちなく、けっして上手いとは言えない。
それでも懸命に、アルダーは口淫を続ける。
「ん……は……っ」
「んっ、……っごめ、ん……アルダー、それじゃ、イけねえ……」
「あ……っタイキ……?」
「あ、の……後、いじって……その方がきっと、早えから……っ」
もどかしい。たどたどしい前への刺激だけでは、達しきれない。
泰樹は枕元のサイドテーブルから、潤滑剤の小びんを取り出した。それをアルダーへあずけると、彼はきょとんとした表情でビンを見つめた。
「……そのまんまじゃ、濡れねえから……っそれつかって、中、いじってくれ……」
「あ、ああ……」
アルダーは戸惑いながらも、蓋をあけた小瓶を傾ける。ひんやりとした液体を指先にからめて、そっと後ろの穴へと押し当ててきた。
「ひぁ……っ」
ぬるりと入り込んできた異物感に、思わず声が出る。
「大丈夫、か?」
「あ……う……大丈夫、だから……そのまま、続けてくれ」
「分かった」
アルダーは慎重に、内部を探るように指を動かしていく。内壁を傷つけないようにか、優しく丁寧に解されていく。
「……あ……あぁ……ん……っ」
「気持ち良い、のか?」
「ああ……その、もう少し奥まで、入れてくれ…… そこらへん……コリってしたトコ……分かるか?」
「ここ、か?」
「あっ! ……うん……あ……そ、れ……っ!」
アルダーの指先が、一点をかすめる。それだけでビリっと電流のような快感が走って、泰樹はびくびく身体を震わせた。
「はぁ……っ! ……ぅ、アルダー、も、もうちょっと、強くして良いから……もっと、触って……っ」
「こうか……?」
「ふ、ぁああ……っ!」
ぐりっと、感じるポイントを強く押されて、泰樹は大きく仰け反った。いつの間にか自身は痛いほど張り詰めていて、先端からは透明な液が流れ出している。
「あ、あ……っやべぇ……きもちい……っ」
「タイキ……お前、なんだか可愛い」
「な、なんだよソレ……っ」
「いや、すごく……色っぽい」
アルダーの声が、興奮している。それは泰樹も同じだった。
「んぁ……は、早く……っ食っていいから……っ」
泰樹は膝裏を抱えて、脚を大きく開いた。恥ずかしさよりも、今は快楽が欲しい。
「ん……」
アルダーは躊躇いがちに、泰樹の自身を口に含んだ。熱い粘膜に包まれて、ゾワリと全身が粟立つ。
「く……っアルダー、歯はたてない、で、くれ……」
「ん……」
「そう……ゆっくり、動いて……」
泰樹の指示通り、アルダーはゆっくりと動き出す。最初はぎこちなかった口淫が徐々にスムーズになり、的確に弱い箇所を狙ってくる。
「あ……っ! ……や、だめ……っあ、あ……っ」
「タイキ……すごいな……どんどん溢れてくる」
「言うなよぉ……っ」
恥ずかしくて仕方がない。けれど、それすらも心地よくて、泰樹は身をよじった。
「んっ、んんっ……! は、あ……っ」
「ん……んぐ……」
じゅぷ、ぴちゃ。淫猥な水音が部屋に響く。泰樹は、羞恥を誤魔化すように枕に顔を埋めて声を殺した。
「く、ぅ……あ、アルダー……おれ、も、出る……っ」
「ん……」
「あぁっ、も、でるからぁ……っ! アルダー……っ!!」
泰樹はアルダーの頭を押さえつけて、精を放った。びゅくりと勢い良く白濁した体液が飛び出して、アルダーの口内を満たしていく。
「あ……あー……っ」
射精後の気怠さに、泰樹はベッドに身を沈めて脱力した。
アルダーは口の中のものを飲み込んで、ほうっと息をつく。
「タイキ……」
「な、何だよ」
「まだ足りない。もっと、食べたい」
アルダーの紫の瞳には、『食欲』がギラついていた。
「お、おう……好きにして良いぜ?」
泰樹は頬を引きつらせて言った。アルダーは嬉しそうな顔をすると、再び泰樹の後孔へ指を伸ばす。
「う、ぁ……」
今度は二本まとめて入れられて、先程よりも性急に出し入れされる。潤滑剤のおかげで痛みは無いものの、圧迫感はあった。
「あ、あっ、やっ、そこ……ッ!」
ぐりっと、内壁の一点を指先で擦られる。ビリビリと痺れるような快感に、泰樹は腰を浮かせた。
「タイキ、ここ、気持ち良いのか……?」
「あぁっ、そ、それ……ダメだってぇ……っ」
「嫌なのか? 気持ちが良いんだろう?」
「あ、あ……っう、ん……きもち、良い……っ」
「そうか。じゃあ、もっと気持ち良くなってくれ」
アルダーは指を増やした。三本になったそれがバラバラに動いて内壁を押し広げ、さらに敏感な部分を集中的に責め立てる。
「ひゃあっ! あ、あ……っ! あ、あ……ッ!」
「ん……ここが、好きなんだな……」
「あ、あ……っ! やめ……っ! あぁあッ!」
感じる場所を指で挟むようにして強く刺激されると、目の前がチカチカして何も考えられなくなる。泰樹の自身はまた硬度を取り戻して、ダラダラと透明な液体を流し続けていた。
「待って……っ待ってくれ、アルダーっ」
「どうした? 痛かったか?」
「いや、違う、けど……っその、アンタ、これ……っ」
泰樹は上目遣いにアルダーを見つめながら、彼の股間に触れた。そこはズボン越しでも分かるほど熱を持っていて、ドクンドクンと脈打っている。
「ああ……大丈夫だ。気にしないでくれ」
「いや、気にすんなって方が無理だろ!?」
泰樹はガバッと起き上がると、アルダーの下腹部へと手を伸ばした。
「タイキ……っ」
「これは流石に、放っておけないって」
ズボンに手をかけると、アルダーは少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「……ちょ、ちょっと待ってな……」
泰樹はベルトを外すと、前を寛げた。そして下着の中から現れたものに思わず絶句する。
「で、デカいな……」
「そうだろうか……」
泰樹のモノよりかなり大きい。ソレは体格に見合った立派なものだった。
――コレ、ハメられたら……
想像してしまった途端、ゾクリとしたものが背筋を走る。
「あのさ……」
泰樹はごくりと唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。
「俺も……舐めてみていい?」
「な……っ!」
「だめ……か?」
泰樹は四つん這いになると、アルダーの前に顔を寄せた。間近で見ると更に大きく見える。それに興奮している自分がいることに気づいて、泰樹は苦笑した。
「タイキ……」
「ん……」
アルダーの自身を握って、先端を口に含む。ビクビクと震えていて、熱い。
「んぅ……」
「う……くっ」
ゆっくりと奥まで飲み込んでいく。全て入りきらなくて、喉の奥に当たって苦しくなる。それでも必死に舌を動かしながら頭を上下させた。
「んぅ……んぐ……」
「く、ぅ……っ」
アルダーの感じている声が頭上から聞こえてくる。それが嬉しくて、泰樹は夢中で奉仕を続ける。
「んぐ……ん、ん……っぷは……」
「は……っ」
いったん口を離すと、アルダーの自身が唾液でてらてらと光っていた。それを見下ろして、アルダーがゴクリと生唾を飲むのが分かった。
「タイキ……っ」
「ん……なあ、アルダー。これ、欲しい……っ」
泰樹は自分の後孔を広げて見せた。先程アルダーによって散々弄られていたせいで、ヒクついているのがよくわかる。
「なあ、頼むよ……もう我慢できねぇからぁ……っ」
「……いい、のか? 本当に……」
「うん……」
アルダーは泰樹を抱き寄せると、そのままベッドに押し倒した。
「あ……」
「すまん、余裕が無いんだ……」
「へへ、良いぜ。来てくれ、アルダー」
「ああ……っ」
泰樹の両脚を持ち上げて、アルダーは自身の熱を泰樹の後孔にあてがった。
「あ……ぁ、あ……っ」
「タイキ……っ」
「あぁああっ!!」
ずっ、ずにゅう。一気に貫かれて、泰樹は言葉にならない悲鳴を上げる。
「あっあっあっ!」
「タイキ……っ」
「あ、あ……っ! は、激し……っ」
揺さぶられて、突き上げられる。激しく打ち付けられる腰に、泰樹はシーツを握り締めた。
「あっあっあっあっ! あーっ!」
「ん、は……っ、すごいな……っ絡み付いてくる……」
「やっ、言うなってぇ……!」
泰樹は恥ずかしくなって、腕で顔を覆ってしまう。すると、アルダーがそれを引き剥がしてきた。
「隠さないでくれ……もっと見せて欲しい……」
「う……わ、わかった……」
泰樹が素直に従うと、アルダーの顔が近づき唇が重なる。すぐにそれは深いものになり、互いの舌を絡め合う。
「ん、ふぁ……あぁっ」
「は……っ」
「あっあっあっ! そこぉ……っ」
良いところを突き上げられ、泰樹は涙を浮かべながら喘いだ。気持ち良くて気持ち良くて。頭がおかしくなりそうだ。
「は、ここが良いのか……っ」
「んっんっ、ソコ、イイッ気持ちい……っ」
「は、は……っ」
アルダーの動きが激しくなる。絶頂が近いのだろう。泰樹も限界だった。
「あ、も、イク……ッ」
「はっ、は……っああ、俺も出そう、だ……っ」
「出して……っ中にいっぱい……っ」
「は……っ」
アルダーは泰樹の中に熱を放った。同時に泰樹も達して、自分の腹の上に白濁を吐き出す。
「は……は……」
「はぁ……」
2人揃って息を整える。泰樹が落ち着くのを待って、アルダーは自身をズルリと引き抜いた。
「ん……っ」
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
泰樹は身体を起こすと、まだ少し痛む後孔に触れた。その指にはアルダーの出したものがまとわりつく。
「たくさん出したなー」
「え!? い、いやそれは、その……っ」
「はははっ、照れるなってっ!」
泰樹は笑うと、自分の後孔を広げてみせた。中からはアルダーの放った精液が流れ出てくる。
「アルダーのソレ、すげぇ良かった……また、今度、して欲しいって言ったら?」
「……タイキ」
「冗談だって。怒るなよ」
「怒ってなどいない。ただ……」
アルダーは泰樹の手を掴んで引き寄せると、再び押し倒し覆い被さってきた。
「もう1回だけ……」
「は……?」
結局2人は明け方近くまで抱き合っていた。
「? あーどうぞ? 入れよ」
扉を開けて入ってきたのは、アルダーだった。
「タイキ、こんな夜更けにすまんな」
「ん? どした? 何か用か?」
何かを思い詰めたような表情で、アルダーは顔を伏せている。その様子にただならぬモノを感じて、泰樹はベッドの上に起き上がった。
「……その、お前に頼みたいことが、ある」
アルダーは何だが歯切れが悪い。泰樹から目を反らしたまま、ベッドの脇までやって来てそこで足を止めた。
「なんだよ? 俺に出来ることなら力を貸すぜ?」
「あ、その……俺は魔人に、なった。それで、魔人は、人を食う」
「うん」
それは知っている。イリスやシーモスも、何らかの形で人を『食っている』。
「そ、それで、俺もやはり、食わなければならない。だが、俺にはまだ『奴隷』がいない。それで、シーモスに相談したら……その……お前に、『頼ってはどうか』と言われた」
「俺に?」
まあ、頼られて悪い気はしない。そもそもアルダーは恩人だ。
「ああ。その……『体液』を、わけて欲しい」
「俺に『献血』しろってことか? いいぜ。ちょっとくらいなら」
恩人に『献血』してやるくらい、何でも無い。泰樹が腕を差し出すと、アルダーは困ったように眉を寄せた。
「あ、いや……血は、いらない。試してみたが駄目だった。匂いだけで吐き気を催してしまうんだ。だから……」
「……別のモノが、欲しい?」
「……ああ」
ああ。アルダー、アンタもか。泰樹は困惑して、ガリガリと髪をかき回した。
「……ま、良いぜ。それでアンタの助けになるならな!」
「すまん、タイキ。『奴隷』を選ぶまでで良い。食わせてくれ」
すでに空腹なのだろうか。アルダーはしょんぼりとした顔で、タイキを見下ろした。
「……じゃあ、さ。まずは唾液から、試してみるか?」
「ああ」
二人は視線をそらして、向かい合う。何だか、互いに気恥ずかしい。
アルダーはベッドに膝をついて、身をかがめた。どちらとも無くおずおずと手を伸ばして、そっと唇を触れあわせる。
シーモスは性別の関係なく美形だと思うが、この男は顔が良い。彫りも深いし紫の瞳は神秘的で、いい男だと同性の泰樹からみてもそう思う。
舌先を絡め合うようなキスをして、たっぷりと唾液を流し込んでやる。アルダーはそれを飲み込んで、小さく息をついた。
「ん……」
「は、……ぁ……甘い……」
がっつくように、アルダーは再び唇を求めてくる。やべえ、なんだが妙な気分になってきた……雰囲気に流されて、泰樹は目をつぶった。
「タイキ。これだけじゃ、足りない……」
耳元に、甘く低い声がささやいてくる。ぞくっ。それが、背骨に響く。
「……っ……! そ、それじゃ、好きにしろよ……っ」
「……いいのか?」
「ん、いいよ。……でも、何だかあの司書さんには悪いけど、な」
くすと泰樹が微笑むと、アルダーは渋い表情をした。
「イクサウディ殿か。どうして筆頭司書殿に悪いんだ?」
「……え、アンタ、あの司書さんの態度見てれば解るだろ?」
まさか、気付いてなかったのか?
泰樹が、驚いてアルダーを見る。アルダーはますます表情を険しくして、ため息をついた。
「……俺は……あの方の思いには応えられない。だから、あの方に何かをはばかることは無い」
きっぱりと、アルダーは告げる。あーあ。アイツ、かわいそうになあ。こんな所で振られてやんの。
内心で泰樹は手を合わせ、ちらとアルダーを見上げた。
「……ん。変なこと言って、ごめん。腹減ってんだろ? 好きなだけ、食って良い、から……っ」
緊張の中に、情欲の欠片がアルダーの瞳に閃く。
「タイキ……ありがとう」
礼を言って、アルダーは丁重な手つきで泰樹の自身をむき出しにした。
アルダーが先端にそっと口付ける。その唇が、微かに震えている。
コイツ、こんなこと、したこと無いんだろうな。泰樹はそう感じた。
舌先で舐め上げていく様子はぎこちなく、けっして上手いとは言えない。
それでも懸命に、アルダーは口淫を続ける。
「ん……は……っ」
「んっ、……っごめ、ん……アルダー、それじゃ、イけねえ……」
「あ……っタイキ……?」
「あ、の……後、いじって……その方がきっと、早えから……っ」
もどかしい。たどたどしい前への刺激だけでは、達しきれない。
泰樹は枕元のサイドテーブルから、潤滑剤の小びんを取り出した。それをアルダーへあずけると、彼はきょとんとした表情でビンを見つめた。
「……そのまんまじゃ、濡れねえから……っそれつかって、中、いじってくれ……」
「あ、ああ……」
アルダーは戸惑いながらも、蓋をあけた小瓶を傾ける。ひんやりとした液体を指先にからめて、そっと後ろの穴へと押し当ててきた。
「ひぁ……っ」
ぬるりと入り込んできた異物感に、思わず声が出る。
「大丈夫、か?」
「あ……う……大丈夫、だから……そのまま、続けてくれ」
「分かった」
アルダーは慎重に、内部を探るように指を動かしていく。内壁を傷つけないようにか、優しく丁寧に解されていく。
「……あ……あぁ……ん……っ」
「気持ち良い、のか?」
「ああ……その、もう少し奥まで、入れてくれ…… そこらへん……コリってしたトコ……分かるか?」
「ここ、か?」
「あっ! ……うん……あ……そ、れ……っ!」
アルダーの指先が、一点をかすめる。それだけでビリっと電流のような快感が走って、泰樹はびくびく身体を震わせた。
「はぁ……っ! ……ぅ、アルダー、も、もうちょっと、強くして良いから……もっと、触って……っ」
「こうか……?」
「ふ、ぁああ……っ!」
ぐりっと、感じるポイントを強く押されて、泰樹は大きく仰け反った。いつの間にか自身は痛いほど張り詰めていて、先端からは透明な液が流れ出している。
「あ、あ……っやべぇ……きもちい……っ」
「タイキ……お前、なんだか可愛い」
「な、なんだよソレ……っ」
「いや、すごく……色っぽい」
アルダーの声が、興奮している。それは泰樹も同じだった。
「んぁ……は、早く……っ食っていいから……っ」
泰樹は膝裏を抱えて、脚を大きく開いた。恥ずかしさよりも、今は快楽が欲しい。
「ん……」
アルダーは躊躇いがちに、泰樹の自身を口に含んだ。熱い粘膜に包まれて、ゾワリと全身が粟立つ。
「く……っアルダー、歯はたてない、で、くれ……」
「ん……」
「そう……ゆっくり、動いて……」
泰樹の指示通り、アルダーはゆっくりと動き出す。最初はぎこちなかった口淫が徐々にスムーズになり、的確に弱い箇所を狙ってくる。
「あ……っ! ……や、だめ……っあ、あ……っ」
「タイキ……すごいな……どんどん溢れてくる」
「言うなよぉ……っ」
恥ずかしくて仕方がない。けれど、それすらも心地よくて、泰樹は身をよじった。
「んっ、んんっ……! は、あ……っ」
「ん……んぐ……」
じゅぷ、ぴちゃ。淫猥な水音が部屋に響く。泰樹は、羞恥を誤魔化すように枕に顔を埋めて声を殺した。
「く、ぅ……あ、アルダー……おれ、も、出る……っ」
「ん……」
「あぁっ、も、でるからぁ……っ! アルダー……っ!!」
泰樹はアルダーの頭を押さえつけて、精を放った。びゅくりと勢い良く白濁した体液が飛び出して、アルダーの口内を満たしていく。
「あ……あー……っ」
射精後の気怠さに、泰樹はベッドに身を沈めて脱力した。
アルダーは口の中のものを飲み込んで、ほうっと息をつく。
「タイキ……」
「な、何だよ」
「まだ足りない。もっと、食べたい」
アルダーの紫の瞳には、『食欲』がギラついていた。
「お、おう……好きにして良いぜ?」
泰樹は頬を引きつらせて言った。アルダーは嬉しそうな顔をすると、再び泰樹の後孔へ指を伸ばす。
「う、ぁ……」
今度は二本まとめて入れられて、先程よりも性急に出し入れされる。潤滑剤のおかげで痛みは無いものの、圧迫感はあった。
「あ、あっ、やっ、そこ……ッ!」
ぐりっと、内壁の一点を指先で擦られる。ビリビリと痺れるような快感に、泰樹は腰を浮かせた。
「タイキ、ここ、気持ち良いのか……?」
「あぁっ、そ、それ……ダメだってぇ……っ」
「嫌なのか? 気持ちが良いんだろう?」
「あ、あ……っう、ん……きもち、良い……っ」
「そうか。じゃあ、もっと気持ち良くなってくれ」
アルダーは指を増やした。三本になったそれがバラバラに動いて内壁を押し広げ、さらに敏感な部分を集中的に責め立てる。
「ひゃあっ! あ、あ……っ! あ、あ……ッ!」
「ん……ここが、好きなんだな……」
「あ、あ……っ! やめ……っ! あぁあッ!」
感じる場所を指で挟むようにして強く刺激されると、目の前がチカチカして何も考えられなくなる。泰樹の自身はまた硬度を取り戻して、ダラダラと透明な液体を流し続けていた。
「待って……っ待ってくれ、アルダーっ」
「どうした? 痛かったか?」
「いや、違う、けど……っその、アンタ、これ……っ」
泰樹は上目遣いにアルダーを見つめながら、彼の股間に触れた。そこはズボン越しでも分かるほど熱を持っていて、ドクンドクンと脈打っている。
「ああ……大丈夫だ。気にしないでくれ」
「いや、気にすんなって方が無理だろ!?」
泰樹はガバッと起き上がると、アルダーの下腹部へと手を伸ばした。
「タイキ……っ」
「これは流石に、放っておけないって」
ズボンに手をかけると、アルダーは少し恥ずかしそうに目を逸らした。
「……ちょ、ちょっと待ってな……」
泰樹はベルトを外すと、前を寛げた。そして下着の中から現れたものに思わず絶句する。
「で、デカいな……」
「そうだろうか……」
泰樹のモノよりかなり大きい。ソレは体格に見合った立派なものだった。
――コレ、ハメられたら……
想像してしまった途端、ゾクリとしたものが背筋を走る。
「あのさ……」
泰樹はごくりと唾を飲み込むと、意を決して口を開いた。
「俺も……舐めてみていい?」
「な……っ!」
「だめ……か?」
泰樹は四つん這いになると、アルダーの前に顔を寄せた。間近で見ると更に大きく見える。それに興奮している自分がいることに気づいて、泰樹は苦笑した。
「タイキ……」
「ん……」
アルダーの自身を握って、先端を口に含む。ビクビクと震えていて、熱い。
「んぅ……」
「う……くっ」
ゆっくりと奥まで飲み込んでいく。全て入りきらなくて、喉の奥に当たって苦しくなる。それでも必死に舌を動かしながら頭を上下させた。
「んぅ……んぐ……」
「く、ぅ……っ」
アルダーの感じている声が頭上から聞こえてくる。それが嬉しくて、泰樹は夢中で奉仕を続ける。
「んぐ……ん、ん……っぷは……」
「は……っ」
いったん口を離すと、アルダーの自身が唾液でてらてらと光っていた。それを見下ろして、アルダーがゴクリと生唾を飲むのが分かった。
「タイキ……っ」
「ん……なあ、アルダー。これ、欲しい……っ」
泰樹は自分の後孔を広げて見せた。先程アルダーによって散々弄られていたせいで、ヒクついているのがよくわかる。
「なあ、頼むよ……もう我慢できねぇからぁ……っ」
「……いい、のか? 本当に……」
「うん……」
アルダーは泰樹を抱き寄せると、そのままベッドに押し倒した。
「あ……」
「すまん、余裕が無いんだ……」
「へへ、良いぜ。来てくれ、アルダー」
「ああ……っ」
泰樹の両脚を持ち上げて、アルダーは自身の熱を泰樹の後孔にあてがった。
「あ……ぁ、あ……っ」
「タイキ……っ」
「あぁああっ!!」
ずっ、ずにゅう。一気に貫かれて、泰樹は言葉にならない悲鳴を上げる。
「あっあっあっ!」
「タイキ……っ」
「あ、あ……っ! は、激し……っ」
揺さぶられて、突き上げられる。激しく打ち付けられる腰に、泰樹はシーツを握り締めた。
「あっあっあっあっ! あーっ!」
「ん、は……っ、すごいな……っ絡み付いてくる……」
「やっ、言うなってぇ……!」
泰樹は恥ずかしくなって、腕で顔を覆ってしまう。すると、アルダーがそれを引き剥がしてきた。
「隠さないでくれ……もっと見せて欲しい……」
「う……わ、わかった……」
泰樹が素直に従うと、アルダーの顔が近づき唇が重なる。すぐにそれは深いものになり、互いの舌を絡め合う。
「ん、ふぁ……あぁっ」
「は……っ」
「あっあっあっ! そこぉ……っ」
良いところを突き上げられ、泰樹は涙を浮かべながら喘いだ。気持ち良くて気持ち良くて。頭がおかしくなりそうだ。
「は、ここが良いのか……っ」
「んっんっ、ソコ、イイッ気持ちい……っ」
「は、は……っ」
アルダーの動きが激しくなる。絶頂が近いのだろう。泰樹も限界だった。
「あ、も、イク……ッ」
「はっ、は……っああ、俺も出そう、だ……っ」
「出して……っ中にいっぱい……っ」
「は……っ」
アルダーは泰樹の中に熱を放った。同時に泰樹も達して、自分の腹の上に白濁を吐き出す。
「は……は……」
「はぁ……」
2人揃って息を整える。泰樹が落ち着くのを待って、アルダーは自身をズルリと引き抜いた。
「ん……っ」
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
泰樹は身体を起こすと、まだ少し痛む後孔に触れた。その指にはアルダーの出したものがまとわりつく。
「たくさん出したなー」
「え!? い、いやそれは、その……っ」
「はははっ、照れるなってっ!」
泰樹は笑うと、自分の後孔を広げてみせた。中からはアルダーの放った精液が流れ出てくる。
「アルダーのソレ、すげぇ良かった……また、今度、して欲しいって言ったら?」
「……タイキ」
「冗談だって。怒るなよ」
「怒ってなどいない。ただ……」
アルダーは泰樹の手を掴んで引き寄せると、再び押し倒し覆い被さってきた。
「もう1回だけ……」
「は……?」
結局2人は明け方近くまで抱き合っていた。
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その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。
彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。
……あ。
音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。
しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。
やばい、どうしよう。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
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