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第二十七話 たどり着いた村
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「あー! あれは!?」
「村だ、な」
森を抜けて。泰樹とアルダーは、小さな村にたどり着いた。喜びいさんで駆けていきたいが、足が言うことをきかない。アルダーの肩を借りて、ゆっくりゆっくりと村に近づく。村の家々の大半はすでに明かりが消えていたが、酒場らしき場所は騒がしく、明るかった。
限りなく全裸に近い泰樹とアルダーが、酒場に入る。村人たちは二人の出現に驚いているようで、黙って動きを止めている。
「追い剥ぎにやられた。命だけは助かったが、身ぐるみ剥がされた。俺は『慈愛公』様の配下だ。『慈愛公』様に連絡してくれれば褒美を賜れるぞ!」
アルダーは正々堂々とした態度で、村人たちに呼びかける。
村人たちは顔を見合わせる。一瞬後、蜂の巣をつついたように酒場の中は騒がしさを取り戻した。
「それは大変難儀でしたなあ! 『慈愛公』のご家人様! まずはこちらで酒でもいかがです?」
「その前にまず着る物だろ。そっちの人は怪我してるみたいだしな!」
「おおい、村長呼んでこいー! 薬屋もだー!」
泰樹とアルダーは酒場に招き入れられて、手厚い歓待を受けた。
「……なるほど。あなた方は『慈愛公』様のご家人なのですね? 『慈愛公』様のお使いから戻る途中に災難に遭われたと」
村長と言う男は、てっぺんがはげ上がった白髪頭の老人だった。就寝中に叩き起こされたというのに、困ったように笑いながら対応してくれる。
泰樹とアルダーは、村人に服を貸してもらった。地味な色の上着とツギの当たったズボン、それから丈夫そうな木靴。服を着ると、ようやく人心地がついた。
それから、二人は酒場で飯をご馳走になり、村長の家まで連れてこられたのだ。
「ああ。そうだ。俺は『慈愛公』様の配下だ。『慈愛公』様にタイキ様が、アルダーを連れて到着したと伝えてくれ。この村は『王都』から遠いのか? 『王都』と連絡するための魔具はあるか?」
アルダーは、テキパキと村長に指示している。その態度を見ていると、コイツは課長とか部長とか、現場長とか、そんな『長』のつく役職にいたのでは無いかと泰樹はふと思った。
「この村から、王都は魔獣車を使って三時間と言った所でございます……通信魔具は、隣の町にはございます。朝一番で隣町に参りましょう」
「わかった。すまないが俺とタイキ様に部屋を用意してくれ。出来れば何か身体を拭う物も。一刻も早く、タイキ様を休ませたい。この方は歩き馴れてらっしゃらないのだ」
「では湯を沸かしてお届けしましょう。お部屋は、我が家の客間をお使い下さい。狭い部屋で大変恐縮ですが……」
アルダーまで丁寧な調子で自分のことを語る物だから、泰樹は調子が狂ってしまう。
だがもう、疲れ果てて、泰樹は片足を眠りの世界に突っ込んでいる。不思議だとは思いつつも、交渉ごとは全部アルダーに丸投げした。
「あ゛ぁ゛あー……」
村長の客間のベッドに寝転がって、泰樹はマヌケな声をもらした。
ベッドとは、なんと心地が良いモノだろう。あーこのままぐっすり眠りたい。何もかも忘れて……
「タイキ」
上から声が降ってくる。薄目を開けると、アルダーが真顔でのぞき込んでいた。
「……いろいろ、ありがとな。アルダー」
「まだ、眠ってもらっては困る。俺は、あと数時間でいつもの姿に戻る。そうなったら交渉ごとは、お前がやらなければならない」
それも、そうだった。泰樹はベッドの上に起き上がって、姿勢を正す。
「村長には、お前は世間知らずの高貴な身分で、『慈愛公』の客人だと言ってある。それなら多少言動が皆と違っていてもそんなモノかと思われるだろう」
「……う。そこまで考えてくれてたのかよー」
気配りの鬼か。あーコイツ、デキる男ってヤツだ、きっと!
「俺は日の出前に出立したことにして、俺が魔獣に戻ったら、飼い犬が追いついたことにしろ」
「わかった」
「それから……通信魔具の合い言葉を覚えろ。合い言葉を聞かれたら、『コルトフンド・アルボ』と答えるんだ」
「コルト、フンド……?」
聞き覚えが無いと小首をかしげる泰樹に、アルダーはため息をついて肩をすくめて見せる。
「意味は知らない。シーモスが決めた今月の合い言葉だ」
そんなのあったのか。アルダーはよく覚えてるな。泰樹は感心しつつ唇を尖らせる。
「……俺、そんなの知らされてねーぞ」
「おかしいな。月の初めにシーモスが言っていたはずだが?」
「……うーん。もしかしたら、聞かされてた、かも」
記憶は曖昧だが、どうせ一人では外出しないのだから、とスルーしたような気もする。
「……今度は、覚えたか?」
「覚えるから、もっかい言ってくれ」
アルダーは根気強く、泰樹に合い言葉を覚えさせる。
「よし! 覚えた! ……多分」
「……」
アルダーはこちらを心配するような顔で、ため息をついた。
「いいか、タイキ。何か飯を出されたら、まず俺に食わせろ。俺の様子が変わらないのを確認してからお前も食え。飲み物も同様だ。屋敷に着くまで酒は我慢しろ」
「わかった」
「生水は絶対飲むな。知らないヤツにほいほい着いていくな。それから……」
「あーもー良い!! わかった! わかったから!!」
お前は俺の母親かー!!泰樹は、そう叫びたい衝動をどうにかこらえる。面倒見が良いのは有り難いが、これではあまりにも自分が頼りないように思えてしまう。
「ああ、そうだな……すまん。お前は小さな子供では無かったな……」
アルダーはしょんぼりと、肩を落とした。そうしていると、何だかいつもの魔獣の時の姿が重なって見えるようだ。ああ、やっぱコイツとあの魔獣は同じ『モノ』なんだ。
そんな感慨が、タイキの頭によぎる。
泰樹は胸を叩いて、アルダーを安心させようと自信たっぷりに笑ってみせた。
「おう! まかせろよ、アンタが魔獣に戻っても、ちゃんとイリスんとこに帰り着いてやるからさ!」
「村だ、な」
森を抜けて。泰樹とアルダーは、小さな村にたどり着いた。喜びいさんで駆けていきたいが、足が言うことをきかない。アルダーの肩を借りて、ゆっくりゆっくりと村に近づく。村の家々の大半はすでに明かりが消えていたが、酒場らしき場所は騒がしく、明るかった。
限りなく全裸に近い泰樹とアルダーが、酒場に入る。村人たちは二人の出現に驚いているようで、黙って動きを止めている。
「追い剥ぎにやられた。命だけは助かったが、身ぐるみ剥がされた。俺は『慈愛公』様の配下だ。『慈愛公』様に連絡してくれれば褒美を賜れるぞ!」
アルダーは正々堂々とした態度で、村人たちに呼びかける。
村人たちは顔を見合わせる。一瞬後、蜂の巣をつついたように酒場の中は騒がしさを取り戻した。
「それは大変難儀でしたなあ! 『慈愛公』のご家人様! まずはこちらで酒でもいかがです?」
「その前にまず着る物だろ。そっちの人は怪我してるみたいだしな!」
「おおい、村長呼んでこいー! 薬屋もだー!」
泰樹とアルダーは酒場に招き入れられて、手厚い歓待を受けた。
「……なるほど。あなた方は『慈愛公』様のご家人なのですね? 『慈愛公』様のお使いから戻る途中に災難に遭われたと」
村長と言う男は、てっぺんがはげ上がった白髪頭の老人だった。就寝中に叩き起こされたというのに、困ったように笑いながら対応してくれる。
泰樹とアルダーは、村人に服を貸してもらった。地味な色の上着とツギの当たったズボン、それから丈夫そうな木靴。服を着ると、ようやく人心地がついた。
それから、二人は酒場で飯をご馳走になり、村長の家まで連れてこられたのだ。
「ああ。そうだ。俺は『慈愛公』様の配下だ。『慈愛公』様にタイキ様が、アルダーを連れて到着したと伝えてくれ。この村は『王都』から遠いのか? 『王都』と連絡するための魔具はあるか?」
アルダーは、テキパキと村長に指示している。その態度を見ていると、コイツは課長とか部長とか、現場長とか、そんな『長』のつく役職にいたのでは無いかと泰樹はふと思った。
「この村から、王都は魔獣車を使って三時間と言った所でございます……通信魔具は、隣の町にはございます。朝一番で隣町に参りましょう」
「わかった。すまないが俺とタイキ様に部屋を用意してくれ。出来れば何か身体を拭う物も。一刻も早く、タイキ様を休ませたい。この方は歩き馴れてらっしゃらないのだ」
「では湯を沸かしてお届けしましょう。お部屋は、我が家の客間をお使い下さい。狭い部屋で大変恐縮ですが……」
アルダーまで丁寧な調子で自分のことを語る物だから、泰樹は調子が狂ってしまう。
だがもう、疲れ果てて、泰樹は片足を眠りの世界に突っ込んでいる。不思議だとは思いつつも、交渉ごとは全部アルダーに丸投げした。
「あ゛ぁ゛あー……」
村長の客間のベッドに寝転がって、泰樹はマヌケな声をもらした。
ベッドとは、なんと心地が良いモノだろう。あーこのままぐっすり眠りたい。何もかも忘れて……
「タイキ」
上から声が降ってくる。薄目を開けると、アルダーが真顔でのぞき込んでいた。
「……いろいろ、ありがとな。アルダー」
「まだ、眠ってもらっては困る。俺は、あと数時間でいつもの姿に戻る。そうなったら交渉ごとは、お前がやらなければならない」
それも、そうだった。泰樹はベッドの上に起き上がって、姿勢を正す。
「村長には、お前は世間知らずの高貴な身分で、『慈愛公』の客人だと言ってある。それなら多少言動が皆と違っていてもそんなモノかと思われるだろう」
「……う。そこまで考えてくれてたのかよー」
気配りの鬼か。あーコイツ、デキる男ってヤツだ、きっと!
「俺は日の出前に出立したことにして、俺が魔獣に戻ったら、飼い犬が追いついたことにしろ」
「わかった」
「それから……通信魔具の合い言葉を覚えろ。合い言葉を聞かれたら、『コルトフンド・アルボ』と答えるんだ」
「コルト、フンド……?」
聞き覚えが無いと小首をかしげる泰樹に、アルダーはため息をついて肩をすくめて見せる。
「意味は知らない。シーモスが決めた今月の合い言葉だ」
そんなのあったのか。アルダーはよく覚えてるな。泰樹は感心しつつ唇を尖らせる。
「……俺、そんなの知らされてねーぞ」
「おかしいな。月の初めにシーモスが言っていたはずだが?」
「……うーん。もしかしたら、聞かされてた、かも」
記憶は曖昧だが、どうせ一人では外出しないのだから、とスルーしたような気もする。
「……今度は、覚えたか?」
「覚えるから、もっかい言ってくれ」
アルダーは根気強く、泰樹に合い言葉を覚えさせる。
「よし! 覚えた! ……多分」
「……」
アルダーはこちらを心配するような顔で、ため息をついた。
「いいか、タイキ。何か飯を出されたら、まず俺に食わせろ。俺の様子が変わらないのを確認してからお前も食え。飲み物も同様だ。屋敷に着くまで酒は我慢しろ」
「わかった」
「生水は絶対飲むな。知らないヤツにほいほい着いていくな。それから……」
「あーもー良い!! わかった! わかったから!!」
お前は俺の母親かー!!泰樹は、そう叫びたい衝動をどうにかこらえる。面倒見が良いのは有り難いが、これではあまりにも自分が頼りないように思えてしまう。
「ああ、そうだな……すまん。お前は小さな子供では無かったな……」
アルダーはしょんぼりと、肩を落とした。そうしていると、何だかいつもの魔獣の時の姿が重なって見えるようだ。ああ、やっぱコイツとあの魔獣は同じ『モノ』なんだ。
そんな感慨が、タイキの頭によぎる。
泰樹は胸を叩いて、アルダーを安心させようと自信たっぷりに笑ってみせた。
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