異世界に落っこちたおっさんは今日も魔人に迫られています!R18版

水野酒魚。

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第二十二話 お部屋にお邪魔してもよろしいですか?

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 イリスに頼まれて、泰樹たいきは自分が好きな料理の全てを教えた。
 ハンバーグ、ハンバーガー、ナポリタン、オムライス、カレーにシチュー、きつねうどんに白米にトンカツ、ラーメン。その時食べたくなったモノを片っ端から上げていく。
 その過程で、醤油やミソ、ウスターソースなどの調味料レシピを作り出すことに成功する。
 大豆や白米は、シーモスがこの世界にもある植物を魔法で改造して作った。
 イリスの料理長は、次々と知らされる新しいレシピを良く再現してくれる。
 おかげで、泰樹は食べたいモノをいつでも食べられるようになった。

晩餐会ばんさんかいに、カレーライスは外せないでしょ。あとハンバーグ。ラーメンも美味しいし、ナポリタンは……絶対入れたい!」
「カレーならよーハンバーグのせたカレーとか、そう言うのもあるぜ! あーカツのせてカツカレーも美味いんだよなー!」
「なにそれ! 美味しそう!」

 イリスの晩餐会まで、もう一週間あまり。今日は、晩餐会のメニューを最終決定する。
 あれやこれやと食べたいモノを上げていく、イリスと泰樹。シーモスは微笑みを浮かべて、お茶のおかわりを差し出した。

「そんなに沢山お客様にお出しして、食べきれますでしょうか?」
「あ、それならよーバイキングにしちまえば?」
「バイキング?」

 聞き覚えの無い単語に、イリスが首をかしげる。毎度のことだが、地球の物事を話すと、素直に反応してくれるイリスがありがたい。泰樹はバイキング形式の食事について知っていることを説明した。

「なるほど! 立食式の晩餐会だね! それならみんな好きなお料理が食べられるし、給仕さんの数も少なくてすみそう。それに、楽しそうだしね!」
「では、晩餐会の形式は『バイキング』、といたしましょう。メニューは様々ものを用意する、と。後ほど、料理長とどの程度の種類を用意出来るか相談いたします」
「ああー! 何が食べられるのかなー? 晩餐会がこんなに楽しみだなんて、はじめて!」

 イリスは、あまり社交に熱心なタイプでは無いらしい。それゆえに、必要に迫られなければ晩餐会も開かない。とシーモスがなげいていた。
 泰樹はもちろん晩餐会という催しに参加するのは初めてだ。それに、パーティーらしいモノは詠美えみとの結婚式以来で。緊張もしているが、少し楽しみであるのも事実だ。

「晩餐会の時、俺は何すれば良いんだ?」
「えっと、ね。タイキにはお客さんにご挨拶して欲しいかな。それから、なるべく僕の側に居てね」
「それだけ?」

 何かの役に立てるかと思ったが、拍子抜けだ。まあ、魔の者たち相手に何が出来るわけで無し、大人しくしているのが無難だろう。

「うん。後はご飯食べたり、とかかなあ?」
「わかった。ようするに、『楽しめ』ってことだな?」
「そうだね!」

 イリスは両手を差し出した。彼は泰樹が教えたハイタッチを、いたく気に入ったらしい。嬉しそうに、両手を差し出してはタッチを返されて喜んでいる。

「……お二人とも、晩餐会を楽しむのは結構でございますが、くれぐれもご油断なさいませんよう。当日は大勢のお客様が見えられます。中には私どもに害意を抱いている方もおられるかも。気を引き締めて下さいませ」

 シーモスの真顔の忠告に、イリスと泰樹ははしゃぐのをやめてうなずいた。

「うん。わかってる」
「……わかった」

 浮かれていた二人の様子に、シーモスは案じ顔で息をつく。

「わかっていらっしゃるのなら、よろしいのです。……タイキ様、この前差し上げた小びんは今もお持ちでございますか?」
「あ、今は部屋に置いてある」
「当日はぜひお持ち下さい。何か、身の危険を感じられたら、遠慮無くお使い下さいね?」

 シーモスに持たされた、黒い小びん。今は使う当ても無いまま、枕元のテーブルに置いてある。使ったら何が起こるのか解らないが、そんなに持っておけというなら当日は持ち歩こう。

「さあ、晩餐会当日まで時間がございません。準備を進めて参りますよ!」

 シーモスの合図で、慌ただしく使用人たちが動く。
 屋敷中がくまなく掃除され、当然のように存在する豪華な広間には飾り付けが施される。
 晩餐会料理の試作品が毎日食卓に並び、いよいよその日が数日後に近づいた。



「タイキ様」

 夕飯が終わって客間に帰ろうとする泰樹を、シーモスが呼び止めた。

「ん? 何か用か?」

 ここ数日、シーモスを見る度に感じていた不快感はようやく薄れつつある。泰樹はのんびりと、言葉を返す。

「お部屋にお邪魔しても、よろしいですか?」
「いいけど、よ。何の用なんだよ。言っとくけど、『献血』はしねーからな」

 とりあえず、シーモスに釘を刺しておく。当のシーモスは柔らかく秘密めいた笑みを浮かべ、泰樹の耳元にささやきかけた。

「『献血』は気が向いたら、で結構です。この間、スマホ、を複製いたしましたでしょう? それの使い方で少々おたずねしたいことがございまして」

 ぞくっ。耳にかかる吐息が、くすぐったい。泰樹はびくりと肩をふるわせた。

「……み、耳元で何か言うの、やめろ……!」
「ああ、申し訳ございません。つい、癖で」

 シーモスが唇で浮かべる笑みが、ひどく艶めいて見える。なぜだか、心が、ざわついた。
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