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ヨウくんとまひろくん
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「あれぇ、先生がいないね」
沸々とした考えを置き去りにして、俺たちは保健室へ辿り着いた。ドアを開けると、中には誰もいない。ひんやりとした空気が頬を撫でる。効きすぎたクーラーが火照った体を冷やした。
「ベッドで寝ようか?」
「えっ」
俺を案じての発言だと思うが、妙に変換してしまい自分を恥じる。大人しくベッドへ横になった俺に、まひろが蓋のあいたペットボトルを差し出した。「元気になってね」と穏やかに微笑まれ、俺は胸を射抜かれた。「ありがとう」とぶっきらぼうに受け取りスポーツドリンクを嚥下した。そのまま、ベッドに横になる。
「……ごめんねぇ」
ベッド脇で項垂れたまひろが、悲しげな声を漏らした。「何が?」と返すと、まひろが眉を下げて無理に笑った。
「さっき、不機嫌にさせちゃってごめんね。僕、余計なことしちゃったかも……」
「そのせいで、出水くんが揶揄われちゃった」と凹んでいる。俺は上半身を起こして慌てて訂正した。
「いや、蓮音。お前は余計なことはしてない」
「そうなの?」
「あぁ、俺はこういう性格なんだ。不機嫌とかではない。それに、あぁいう身内ノリだから気にすんなよ」
「よかったぁ」と笑うまひろが、やがて後頭部を掻いた。打ち明けるようにひとりごちる。
「僕って、バカだからさ。みんなに弄られるのはもう慣れっこなんだ。でも、僕のせいで他の人が嫌な思いするのは、すごく嫌いなんだぁ」
悲しげに、けれどそれを隠して語るまひろはとても健気だった。今すぐにでも抱きしめてしまいたい衝動に駆られ、我慢する。
「お前はバカじゃないよ。そんなこと言う奴ら、俺がぶっ飛ばしてやる」
「出水くん、強そうだもんねぇ」
肩を竦めた彼が、嬉しそうにしている。「たのもしいー」と舌足らずな口調で笑う彼を見て、俺が守らなければという気持ちが頭を擡げる。
「……蓮音」
「どーしたの?」
「俺のこと、ヨウって呼んでいいから」
「えー!」
まひろはびっくりしたように目をまん丸とさせた。まひろと俺はあまり共通点がない。絡む友達も違うし、俺が彼に好意を寄せているだけで、まひろが俺に好意を寄せているとは思えなかった。
だからこそグンとこの瞬間に距離を縮めたかった。
「分かったー。えーっと」
まひろの唇が動く。自分の名前を呼ばれるのだと思うとウズウズした。
「ヨウくん、でいいのかな」
形のいい唇が自分の名前を紡ぐ。それだけで失神してしまいそうだった。しかし、この場で倒れてしまえば、まひろが心配するだろう。ペットボトルを落とさないように握りしめる。「……うん、それでいいけど」とぶっきらぼうに答えることしかできない自分が、本当に嫌いになりそうだ。
沸々とした考えを置き去りにして、俺たちは保健室へ辿り着いた。ドアを開けると、中には誰もいない。ひんやりとした空気が頬を撫でる。効きすぎたクーラーが火照った体を冷やした。
「ベッドで寝ようか?」
「えっ」
俺を案じての発言だと思うが、妙に変換してしまい自分を恥じる。大人しくベッドへ横になった俺に、まひろが蓋のあいたペットボトルを差し出した。「元気になってね」と穏やかに微笑まれ、俺は胸を射抜かれた。「ありがとう」とぶっきらぼうに受け取りスポーツドリンクを嚥下した。そのまま、ベッドに横になる。
「……ごめんねぇ」
ベッド脇で項垂れたまひろが、悲しげな声を漏らした。「何が?」と返すと、まひろが眉を下げて無理に笑った。
「さっき、不機嫌にさせちゃってごめんね。僕、余計なことしちゃったかも……」
「そのせいで、出水くんが揶揄われちゃった」と凹んでいる。俺は上半身を起こして慌てて訂正した。
「いや、蓮音。お前は余計なことはしてない」
「そうなの?」
「あぁ、俺はこういう性格なんだ。不機嫌とかではない。それに、あぁいう身内ノリだから気にすんなよ」
「よかったぁ」と笑うまひろが、やがて後頭部を掻いた。打ち明けるようにひとりごちる。
「僕って、バカだからさ。みんなに弄られるのはもう慣れっこなんだ。でも、僕のせいで他の人が嫌な思いするのは、すごく嫌いなんだぁ」
悲しげに、けれどそれを隠して語るまひろはとても健気だった。今すぐにでも抱きしめてしまいたい衝動に駆られ、我慢する。
「お前はバカじゃないよ。そんなこと言う奴ら、俺がぶっ飛ばしてやる」
「出水くん、強そうだもんねぇ」
肩を竦めた彼が、嬉しそうにしている。「たのもしいー」と舌足らずな口調で笑う彼を見て、俺が守らなければという気持ちが頭を擡げる。
「……蓮音」
「どーしたの?」
「俺のこと、ヨウって呼んでいいから」
「えー!」
まひろはびっくりしたように目をまん丸とさせた。まひろと俺はあまり共通点がない。絡む友達も違うし、俺が彼に好意を寄せているだけで、まひろが俺に好意を寄せているとは思えなかった。
だからこそグンとこの瞬間に距離を縮めたかった。
「分かったー。えーっと」
まひろの唇が動く。自分の名前を呼ばれるのだと思うとウズウズした。
「ヨウくん、でいいのかな」
形のいい唇が自分の名前を紡ぐ。それだけで失神してしまいそうだった。しかし、この場で倒れてしまえば、まひろが心配するだろう。ペットボトルを落とさないように握りしめる。「……うん、それでいいけど」とぶっきらぼうに答えることしかできない自分が、本当に嫌いになりそうだ。
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