アルデリク家の兄弟

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兄の話

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「あっ……」

 ゆっくりと指が抜かれる。その感覚に上擦った声を漏らした。

「早く挿れろ」

 酔った父の回らない呂律。掠れた声。全てが恐ろしくて身を強張らせる。弟は父の声を煩わしげに聞いていた。顔を顰め、舌打ちでもしそうなほどに。

「おい、早く挿れろよ。慣らしてやったんだろ? なら、すんなり入るはずだ」

 徐々に不機嫌さを孕む声。反射的に肩を揺らす。弟が宥めるように頬を撫でた。同時に、熱くて硬い何かが後孔に触れる。それが弟のモノだと理解し、全身に冷や汗が滲んだ。だめだ、こんなことをしてはいけない。けれど、拒絶できない。この状況下に吐き気さえ覚える。

「ぅ、う~……ッ、……!」

 ぬるりと性器が入り込んだ。粘膜に直接感じる暖かさが生々しくて、恐ろしい。僕の苦しそうな姿に、父が手を叩き喜んだ。「さすが、あの売女の息子だ。喜んでやがる」。言葉を投げられ、僕はさめざめと涙を流した。
 そうか、僕は売女の息子なのか。だから、こんな酷い目にあうのか。そうか、そうなんだ────。
 脳裏に、母の背中が浮かんだ。僕を置いて、立ち去る彼女。この現状を見て、彼女はどう思うだろうか。きっと、何も思わないだろうな。だって、いらないから置いていったんだ。そんな存在が、どうなっていようと、彼女には何の関係もない。
 悲しい。その言葉が、じわりと浮かんでは消える。悲しい。ただ、悲しい。

「ぅ……」

 声を漏らす弟を見上げた。涙で歪んだ視界の中、彼がひどく熱のこもった視線を注いでいる。

「ちゃんと中に出せよ、グランド」

 胎内に埋め込まれた性器がぴくんと蠢く。腰を掴んだグランドの手が汗ばむ。彼が昂ったのだと理解し、脳の奥がぐわんと揺れた。
 グッと奥に性器が入り込み、喉が反る。額に滲んだ汗がゆっくりと滑り落ちた。

「ん、ぅ……ぅ、う」

 突き立てる腰の動きに、ビリビリと尾骶骨が痺れる。唇の端から漏れる喘ぎが静かな部屋に響く。グランドの短い呻き声と交わり、鼓膜を撫でた。

「あ、ぅ、……っ、い、やっ……ぅッ」

 浅い位置でぬちぬちと動くグランドの性器が、僕を労っているようだった。きっと、すぐにでも奥に挿れて激しく動かしたいはずだ。けれど、彼はそれをしない。苦しんでいる僕の頬に、彼の汗が落ちた。

「おい、もっと奥まで入れろよ」

 モヤのかかった脳内に、ヘドロのような声が染み込む。それが父の声だと気がつくまで、数秒の時間を使った。グランドが小さく舌打ちをして、父を睨む。

「……これ以上は無理だよ」
「さっき、ちゃんと慣らしただろ」
「無理なものは無理だ。初めてだからきっと痛いに決まってる。兄ちゃんの反応を見たら、分かるだろ」

 上擦ったグランドの声が降り注ぐ。父が鼻で笑った。

「じゃあ、俺が慣らしてやるよ」

 父が深爪の指をくいくいと動かす。グランドが眉を歪め、勢いよく腰を奥へ叩きつけた。脳天を突き抜けるような刺激が襲いかかり、目を見開く。声も出せないまま、僕は口をはくはくと開閉させた。
 弟の苛立ちと焦りが僕にまで伝わってきた。きっとグランドは父が僕に触れることを嫌がっているのだろう。
 チカチカと点滅する脳内で、彼の愛が伝わった。

「ぅ……ッ、いだ、い……」

 自然と涙が溢れ出る。無意識に僕の腰を掴んでいるグランドの手に爪を立ててしまった。彼はその行為をあまり気にしていないようだ。ずるりと体内から性器が引き抜かれ、背中に脂汗が滲んだ。

「どうだ? 気持ちいいか?」

 父が上擦った声で僕へ声を投げた。霞んだ視界に、酒を煽りながら僕らを見下ろしている父が映る。何かを返さねば、と乾いた唇を動かす。しかし、喉からは掠れた声しか出ない。
 父が立ち上がり僕の前髪を掴んだ。ぐいと引き寄せ、顔を近づける。痛みが全身に広がり、小さく呻き声をあげる。
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