アルデリク家の兄弟

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弟の話

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 兄と関係を持ったのは、兄が十五歳で俺が十三歳の頃だ。あの日のことは、忘れることができない。記憶に焼き付き、今でも鮮明に思い出すことができる。

「ほら、早く挿れろ」

 酔った父親の、回らない呂律。いつもは頭痛がするほど大嫌いなその声が、甘美な媚薬のように思えた。どろりと鼓膜を這い、頭蓋にまで広がったその甘い誘惑に、俺はゴクリと唾液を嚥下する。
 俺に組み敷かれた兄────ティエリはぐずぐずと泣いていた。左目付近の皮膚は青く変色し、口の端は切れて赤くなっている。開脚された足はなにも身に纏っておらず、陰部があらわになっていた。
 俺も彼と同様、下半身には何も身につけていなかった。ただ、兄と違うのは、言い逃れができないほど立派に勃った陰茎だろう。(兄は可哀想なほどくたりと萎えていた。色の薄いそこに、俺はとても惹かれた)
 俺はまだ十三歳だったが、兄の身長に追いつきそうなほど成長していた。体格も良かったから、すぐに兄を押し倒せた。兄は最初は拒むような仕草と表情を見せていたが俺の手際の良さを見て、徐々に状況を受け入れ始めていた。
 カーペットの上に散るブロンドの髪が、この家には相応しくないほど綺麗で思わず見惚れる。まだ少年だと言うのに妙な色香を漂わせる兄は、すでにこの家から立ち去った、あの女性のようだった。

「おい、早く挿れろ。慣らしてやったんだろ? なら、すんなり入るはずだ」

 黒ずんだベージュのソファにどかりと座り、楽しげに俺たちを煽っていた父が途端に不機嫌な声になった。その音に、兄が大袈裟なくらい肩を揺らす。怖がらなくていいと伝えたくて、頬を静かに撫でた。
 勃ったペニスを兄の後孔に押し当てる。ぴくんと小さく揺れた体が可哀想でもあり、ひどく愛おしくも感じた。

「ぅ、う~……ッ、……!」

 ぬるりと入った亀頭。ティエリの反応を見た父が手を叩いて喜ぶ。小刻みに震える薄い体を見て興奮したのか、醜い声色をした罵声が飛んだ。

「さすが、あの売女の息子だ。喜んでやがる」

 どこをどう見たら喜んでいるように見えるのだろうか。ぼんやりした脳内の中で、冷静な俺が突っ込んだ。
 兄は眉を歪め、唇を噛み締め、涙を止めどなく流している。色白の顔はいつも以上に血の気を無くしているし、呼吸は浅い。
 けれど、俺は性器を抜こうとは思えなかった。暖かな彼の内部が俺をきゅうきゅうと包み、心地よさで口の端から涎が垂れそうになる。

「ちゃんと中で出せよ、グランド」

 父から血の繋がっていない兄を抱けと言われた時、俺は一切の嫌悪感を覚えなかった。むしろ、その言葉に心臓が高鳴り、体温が上昇し、全身に汗が滲んだ。相反して、兄は絶望的な顔をしていた。拒絶したら父に折檻されると知っていたから、口を閉ざしていたのだろうけれど、纏う空気は緊張感を孕んでいた。
 俺は彼の弟として失格なのかもしれないと思った。けれど、そんな兄の横顔が春を売る蠱惑的な妖婦のように見えたのだ。

「ん、ぅ……ぅ、う」

 兄の泣き声は、俺を魅了し、酩酊させる。腰を数ミリでも動かすと、その薄い腹が痙攣する。捲し上げたTシャツの裾を握りしめ、目を瞑った彼はとても美しい。

「あ、ぅ、……っ、い、やっ……ぅッ」

 控えめな拒絶が唇から溢れた。けれど、俺は間抜けなほどに腰をヘコヘコと動かした。奥にまでは挿入できていないそれは、浅い位置でピストン運動をしている。不快感と圧迫感で苦しいのであろう、ティエリの額には無数の汗が滲んでいた。

「おい、もっと奥まで入れろよ」

 兄の美しい顔を見ていると、醜いヘドロのような声が降り注ぐ。青々とした晴天に突如訪れた曇天に、俺は内心舌打ちをした。
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