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救世主
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「……ティノ。アンタがいる環境はおかしい」
「おかしい、ですか?」
「そんなことに疑問も抱かないことが、まず異常だ。ティノ、いいか? どんなギルドでも、一人のメンバーが他人に迷惑をかけたからって、こんなことしていいはずがない。何か問題行動を起こした場合は、ルールに基づいて、それなりの対処をするんだ。ところで、アンタは一体どんな問題行動を起こしたんだ?」
「とんでもないことをするようには見えないが?」と言われ、唾液を嚥下する。エッジレイは心配性みたいだ。本当のことを告げたら、気に病むかもしれない。
けれど、真剣な眼差しに嘘をつけなかった。
「……前、ここで倒れた時に助けてくれたでしょう? 僕があなたの家にいる間、長時間屋敷を留守にしていたんです。それが、ギルド長の逆鱗に触れて……あ、で、でも、エッジレイの責任じゃないですよ、僕が体調を崩したのが悪かったので」
僕が喋るたびにエッジレイの表情が曇る。何か気分を害することを言ってしまったのだろうか、と身を縮こませた。
「長時間、留守にしてただけでこんな仕打ちを受けたのか?」
「え、えぇ……でも、今回は三日で許してもらえたんです。前回、僕がヘマした時は五日間だったので、温情をかけてもらいました」
えへへと笑う僕に、エッジレイが大きなため息を漏らした。やがて、痣ができた頬を緩やかに撫でる。彼の無骨な指先は、とても暖かい。
「……何故、そんなギルドに縋る」
そう言われ、固まる。背丈の大きな彼を、じっと見つめた。きっと、エッジレイには分からないだろう。力も無く、誰にも必要とされない人間の気持ちが。
「役立たずな僕にとって、あのギルドは僕に存在意義を与えてくれる場所なんです」
意図せず、声が震えた。父に売られ、ヒーラーとして必死にしがみついてきた。彼らが求めてくれるなら、嫌で、苦しくて、辛くて、痛いことだって、耐えてきた。彼らが────ヴァンサが喜ぶなら、と。なんでもした。文字通り、なんでもした。必要としてくれるなら、なんでも。
そうしなければ、まるで不必要となった紙切れのように丸められて捨てられると知っていたから。
「僕はもう、捨てられたくない。誰かに必要とされたい。だから、僕はあの場にいるんです」
目からポロリと涙が溢れた。自分だって、あの状況がおかしいことぐらい薄々気がついている。けれど、その抱いた疑問に蓋をして、心の奥深くに押し込めて、見てみぬフリをしているのだ。そうしなければ、壊れてしまうと分かっていたから。
ぐいと目元を拭う。しかし、涙は止まらなかった。堰き止めていた壁が崩壊し、次から次へと流れ出る。ずっと押し留めていた感情が、一気に溢れ出した。
「もう、悲しいのは嫌なんだ」
僕にはこの道しか残されていない。彼らのもとで、どんな形でもいいから使われたい。そうすることで、初めて自分の形を確認することができるのだ。
「おかしい、ですか?」
「そんなことに疑問も抱かないことが、まず異常だ。ティノ、いいか? どんなギルドでも、一人のメンバーが他人に迷惑をかけたからって、こんなことしていいはずがない。何か問題行動を起こした場合は、ルールに基づいて、それなりの対処をするんだ。ところで、アンタは一体どんな問題行動を起こしたんだ?」
「とんでもないことをするようには見えないが?」と言われ、唾液を嚥下する。エッジレイは心配性みたいだ。本当のことを告げたら、気に病むかもしれない。
けれど、真剣な眼差しに嘘をつけなかった。
「……前、ここで倒れた時に助けてくれたでしょう? 僕があなたの家にいる間、長時間屋敷を留守にしていたんです。それが、ギルド長の逆鱗に触れて……あ、で、でも、エッジレイの責任じゃないですよ、僕が体調を崩したのが悪かったので」
僕が喋るたびにエッジレイの表情が曇る。何か気分を害することを言ってしまったのだろうか、と身を縮こませた。
「長時間、留守にしてただけでこんな仕打ちを受けたのか?」
「え、えぇ……でも、今回は三日で許してもらえたんです。前回、僕がヘマした時は五日間だったので、温情をかけてもらいました」
えへへと笑う僕に、エッジレイが大きなため息を漏らした。やがて、痣ができた頬を緩やかに撫でる。彼の無骨な指先は、とても暖かい。
「……何故、そんなギルドに縋る」
そう言われ、固まる。背丈の大きな彼を、じっと見つめた。きっと、エッジレイには分からないだろう。力も無く、誰にも必要とされない人間の気持ちが。
「役立たずな僕にとって、あのギルドは僕に存在意義を与えてくれる場所なんです」
意図せず、声が震えた。父に売られ、ヒーラーとして必死にしがみついてきた。彼らが求めてくれるなら、嫌で、苦しくて、辛くて、痛いことだって、耐えてきた。彼らが────ヴァンサが喜ぶなら、と。なんでもした。文字通り、なんでもした。必要としてくれるなら、なんでも。
そうしなければ、まるで不必要となった紙切れのように丸められて捨てられると知っていたから。
「僕はもう、捨てられたくない。誰かに必要とされたい。だから、僕はあの場にいるんです」
目からポロリと涙が溢れた。自分だって、あの状況がおかしいことぐらい薄々気がついている。けれど、その抱いた疑問に蓋をして、心の奥深くに押し込めて、見てみぬフリをしているのだ。そうしなければ、壊れてしまうと分かっていたから。
ぐいと目元を拭う。しかし、涙は止まらなかった。堰き止めていた壁が崩壊し、次から次へと流れ出る。ずっと押し留めていた感情が、一気に溢れ出した。
「もう、悲しいのは嫌なんだ」
僕にはこの道しか残されていない。彼らのもとで、どんな形でもいいから使われたい。そうすることで、初めて自分の形を確認することができるのだ。
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