29 / 35
秘密は柑橘の匂い
2
しおりを挟む「どうやら、ヘスティアさん達は無事プレイヤー達の避難を終え、一斉砲火の準備が整ったみたいです。五分後に────中央大陸の集中砲火が開始されます」
さ、さすがは『紅蓮の夜叉』。めちゃくちゃ早い。
『まだ別れてから一時間も経っていないのに』と驚愕しつつ、私は地上を見下ろす。
ウチのメンバーも、きちんと避難しただろうか?
空中に待避しているメンバーはさておき、地上で活動しているメンバーは心配だなぁ……特にシムナさん。
避難誘導を呼び掛ける『紅蓮の夜叉』のメンバーに、めっちゃ反抗してそう。
さすがに手は出ていないと思うけど……説得に時間は掛かってそうだなぁ。
「念のため、結界を二重に張っておきますね。ヘスティアさんの火力は計り知れませんから」
アヤさんは人差し指をクルクル回して、私達を覆う結界の外にもう一つ結界を展開させた。
元々あったものより分厚いソレを前に、アヤさんはふと顔を上げる。
「あと三秒で約束の五分です。3、2、1……一斉砲火開始」
その言葉を合図に、地上は真っ赤な炎で覆われた。
かと思えば、ゴーレム達は次々と光の粒子へ変化していく。
その光景はまさに圧巻だった。
「うわぁ~、瞬殺じゃ~ん」
「火炎魔法に多少耐性のあるファイアゴーレム以外は、ほとんど瞬殺ですね。アイスゴーレムなんて、炎に触れた瞬間、光の粒子に変わっていますし」
「さすが炎帝って、感じだね~」
「少しやり過ぎな気もしますけどね」
ヘスティアさんの……いや、『紅蓮の夜叉』の無双っぷりに肩を竦めるアヤさんは、どこか呆れたような表情を浮かべる。
火焔地獄とも言うべき状態に、若干引いているのだろう。
この調子だと、一瞬で片が付きそう。
炎耐性のあるファイアゴーレムでも、ここまで高温の炎に焼かれれば倒れるだろうし。
などと思いつつ、私はゲーム内ディスプレイに目を向けた。
時刻は深夜の二時半。
ナイトタイム及びイベント終了まで、あと一時間半……それだけ時間が余っていれば、充分だ。
「な~んか、苦労した割に呆気ない終わり方だね~」
「ゴーレム討伐に勤しんでいた徳正さん達には、そう感じるかもしれませんね。でも────あなた方がここで一生懸命頑張ってくれたから、“今”があるのです。中央大陸で奔走した過去は、無駄じゃありません」
「ま、それもそうだね~。ラーちゃんが治療しなかったら、死んでいたプレイヤーも大勢居るだろうし~。他のプレイヤーだって、生き残るために剣を振るい続けたから、“今”がある。生存率を上げるっていう観点では、充分な働きをしたかな~」
確かに。私達は私達なりに、精一杯頑張ったよね。
『何かしら意味のあるものだったんだ』と納得する中────不意に機械音声が流れる。
『おめでとうございます。只今を持ちまして、ゴーレム討伐イベントクリアとなります。詳しい説明は『箱庭』から、送られたメールをご確認くださいませ』
そう言うが早いか、メールの受信を知らせる通知音が響いた。
と同時に、中央大陸を覆っていた炎が跡形もなく消える。
だけでは終わらず、失われた筈の草木を、割れた大地を元通りにした。時間を巻き戻すが如く。
また、爆破された大陸を繋げる橋や干上がった海も元の姿を取り戻す。
「イベント後の修復作業は一応やるんだね~」
「そうみたいですね。この様子だと、破壊の限りを尽くした街の方も修復されていそうです」
「復旧作業とか面倒なことがなくて、助かったよ~。街の復興が済むまで、野宿とか勘弁だも~ん」
「……まあ、街や建物の復旧作業が終わっても────失われた人達は戻って来ませんけどね」
空中をタップしていたアヤさんは、悲しそうに呟いた。
かと思えば、空中をタップしていた手が不意に止まる。
「────限界突破って、どういうこと……?」
さ、さすがは『紅蓮の夜叉』。めちゃくちゃ早い。
『まだ別れてから一時間も経っていないのに』と驚愕しつつ、私は地上を見下ろす。
ウチのメンバーも、きちんと避難しただろうか?
空中に待避しているメンバーはさておき、地上で活動しているメンバーは心配だなぁ……特にシムナさん。
避難誘導を呼び掛ける『紅蓮の夜叉』のメンバーに、めっちゃ反抗してそう。
さすがに手は出ていないと思うけど……説得に時間は掛かってそうだなぁ。
「念のため、結界を二重に張っておきますね。ヘスティアさんの火力は計り知れませんから」
アヤさんは人差し指をクルクル回して、私達を覆う結界の外にもう一つ結界を展開させた。
元々あったものより分厚いソレを前に、アヤさんはふと顔を上げる。
「あと三秒で約束の五分です。3、2、1……一斉砲火開始」
その言葉を合図に、地上は真っ赤な炎で覆われた。
かと思えば、ゴーレム達は次々と光の粒子へ変化していく。
その光景はまさに圧巻だった。
「うわぁ~、瞬殺じゃ~ん」
「火炎魔法に多少耐性のあるファイアゴーレム以外は、ほとんど瞬殺ですね。アイスゴーレムなんて、炎に触れた瞬間、光の粒子に変わっていますし」
「さすが炎帝って、感じだね~」
「少しやり過ぎな気もしますけどね」
ヘスティアさんの……いや、『紅蓮の夜叉』の無双っぷりに肩を竦めるアヤさんは、どこか呆れたような表情を浮かべる。
火焔地獄とも言うべき状態に、若干引いているのだろう。
この調子だと、一瞬で片が付きそう。
炎耐性のあるファイアゴーレムでも、ここまで高温の炎に焼かれれば倒れるだろうし。
などと思いつつ、私はゲーム内ディスプレイに目を向けた。
時刻は深夜の二時半。
ナイトタイム及びイベント終了まで、あと一時間半……それだけ時間が余っていれば、充分だ。
「な~んか、苦労した割に呆気ない終わり方だね~」
「ゴーレム討伐に勤しんでいた徳正さん達には、そう感じるかもしれませんね。でも────あなた方がここで一生懸命頑張ってくれたから、“今”があるのです。中央大陸で奔走した過去は、無駄じゃありません」
「ま、それもそうだね~。ラーちゃんが治療しなかったら、死んでいたプレイヤーも大勢居るだろうし~。他のプレイヤーだって、生き残るために剣を振るい続けたから、“今”がある。生存率を上げるっていう観点では、充分な働きをしたかな~」
確かに。私達は私達なりに、精一杯頑張ったよね。
『何かしら意味のあるものだったんだ』と納得する中────不意に機械音声が流れる。
『おめでとうございます。只今を持ちまして、ゴーレム討伐イベントクリアとなります。詳しい説明は『箱庭』から、送られたメールをご確認くださいませ』
そう言うが早いか、メールの受信を知らせる通知音が響いた。
と同時に、中央大陸を覆っていた炎が跡形もなく消える。
だけでは終わらず、失われた筈の草木を、割れた大地を元通りにした。時間を巻き戻すが如く。
また、爆破された大陸を繋げる橋や干上がった海も元の姿を取り戻す。
「イベント後の修復作業は一応やるんだね~」
「そうみたいですね。この様子だと、破壊の限りを尽くした街の方も修復されていそうです」
「復旧作業とか面倒なことがなくて、助かったよ~。街の復興が済むまで、野宿とか勘弁だも~ん」
「……まあ、街や建物の復旧作業が終わっても────失われた人達は戻って来ませんけどね」
空中をタップしていたアヤさんは、悲しそうに呟いた。
かと思えば、空中をタップしていた手が不意に止まる。
「────限界突破って、どういうこと……?」
8
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる