孤独な屋敷の主人について[完]

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王子の秘密

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「……うわっ」

 思わず声を上げてしまった。彼らがキスをしていたからだ。フォールが亜麻色の髪を掻き乱し、愛おしげに口付けを交わし合っている。その時ようやく、現実味が襲ってきた。本当にそういう関係なのかと痛感し、急激に見てはいけないものを見ていると自覚した。
 しかし、目が離せない。フォールが一度でもこちらを向けばバレる状況だったにも関わらず、俺は動けなかった。
 何度も唇を寄せては離し、亜麻色の髪をした男が苦しそうに抵抗しても強引に頬を手繰り寄せたりしていた。呼吸を奪い合うように唇を擦り合わせ、唾液を交換し合う姿は男同士の逢瀬であるにも関わらず心臓がムズムズとする。
 ────どうしてあんな……。
 遠くからでもわかるほど、フォールは愛おしいものを離さんと躍起になる男の表情をしていた。口付けを交わし合っているのに目を瞑っていない彼に、背筋が震える。
 相手の動作や表情を一秒でも見逃すまいとしているフォールは、愛情深さゆえの恐ろしさを感じた。
 やがて、彼らの姿が消える。キスをしながら倒れるように体を傾け、視界から外れた。
 ────口付け以上のことをしているのだろうか。
 見えなくなった彼らがその後、何をしているのか考えてしまい、妙な気分に陥る。俺は踵を返し、木に結んでいた馬の手綱を解いた。そのまま背中に乗り、立ち去る。
 脳内を先ほどの光景がぐるぐると巡り、唇を噛み締めた。



「……これ……」

 下町の図書館へ向かい、棚から引き摺り出した資料集を机に広げた。ページを捲り、目的の箇所を見つけた俺は声を漏らした。指先でなぞった場所に載った写真をまじまじと眺める。そこには我が国の女王であるイザベルが写っていた。
 ────似てる。
 屋敷の窓から見えた、そしてフォールと仲睦まじくしていた男と見た目が似ていた。穏やかな笑みを浮かべた彼女を凝視し、唸る。
 ────彼は一体、何者なのだろうか。
 イザベラはフォールを産んでその後に他界した。この国の王子はフォール一人だし、兄弟は存在しない。

「……まぁ、他人のそら似……だよな」

 これ以上、深掘りするのは気が引けた。資料集を閉じ、息を吐き出す。静かな館内に俺のため息が漂った。
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