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王子の秘密
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◇
森を駆ける。木々が視界を遮るそこは、寂しい場所だった。芦毛の馬に乗るフォールが数メートル先にいた。その背中を必死に追いかける。近づきすぎず、そして離れすぎず。見失わないようにと目を凝らす。
やがて、視界に何かが見えてきた。それは塀に覆われた屋敷である。朱色の屋根は、この緑色が犇く森で異質に見えた。
彼が馬から降り、近くの木に手綱を巻いた。慣れたその手順を見終えた俺は馬を止め、息を殺す。
フォールは屋敷の門を潜り、中へ消えていく。俺は馬から降り手綱を木へ結び、急いで走った。門の縁へ身を隠し、顔を出した。中を覗き込むと、広々とした庭が広がっている。丁寧に整えられたそこは、まるで砂漠にある泉のようだった。
「────……」
フォールと、そのそばにはメイドが立っていた。フォールより幾分か年上のメイドは彼と会話をしている。内容は聞き取れないが、察するに彼女が想い人である確率は低く見えた。何故なら、そこまで親しげではないからだ。彼女に促され、フォールは屋敷内へ消える。その後を追うのは無理だと判断し、俺は踵を返して屋敷を外から眺めた。
不意に、二階の窓にある人物を発見する。
亜麻色の髪、青藤色の瞳。真白い肌をした男性(青年にも、あるいは少年のようにも見える容姿だった)が窓辺から外を眺めていた。俺は咄嗟に身を屈め、木々の影に隠れる。しかし、彼は俺に気がつくことなく、ぼんやりとした表情をしていた。
虚ろな目をした彼に、妙な違和感を覚える。
────何処かで。
見たことがある顔の造形をしていた。記憶の奥底にしまった引き出しの埃を払ってみたが、どうも思い出せない。
うむうむと唸りながら、男を眺める。瞬間、誰かが背後から抱きしめた。
────フォールだ。
思わず息を呑む。抱きつかれた彼は朗らかに微笑み、フォールの腕を愛おしげに撫でていた。そのまま、フォールが亜麻色の髪に鼻を埋めたり、頬にキスをしたり、まるで恋人のような振る舞いをしている。
────本命はここにいたのか。
俺は口元に手を当て、呆然とした。二人の行為から目が離せないまま、唾液を嚥下する。
「あんな顔できるんだ」
ポツリと出た言葉が風に消える。相手が男という点よりも先に、あんな穏やかな表情をできるのかと驚愕した。
男を見つめる蕩けるような瞳、弛んだ頬と上がった口角。今まで見たことのないその顔に、動揺を隠せない。
森を駆ける。木々が視界を遮るそこは、寂しい場所だった。芦毛の馬に乗るフォールが数メートル先にいた。その背中を必死に追いかける。近づきすぎず、そして離れすぎず。見失わないようにと目を凝らす。
やがて、視界に何かが見えてきた。それは塀に覆われた屋敷である。朱色の屋根は、この緑色が犇く森で異質に見えた。
彼が馬から降り、近くの木に手綱を巻いた。慣れたその手順を見終えた俺は馬を止め、息を殺す。
フォールは屋敷の門を潜り、中へ消えていく。俺は馬から降り手綱を木へ結び、急いで走った。門の縁へ身を隠し、顔を出した。中を覗き込むと、広々とした庭が広がっている。丁寧に整えられたそこは、まるで砂漠にある泉のようだった。
「────……」
フォールと、そのそばにはメイドが立っていた。フォールより幾分か年上のメイドは彼と会話をしている。内容は聞き取れないが、察するに彼女が想い人である確率は低く見えた。何故なら、そこまで親しげではないからだ。彼女に促され、フォールは屋敷内へ消える。その後を追うのは無理だと判断し、俺は踵を返して屋敷を外から眺めた。
不意に、二階の窓にある人物を発見する。
亜麻色の髪、青藤色の瞳。真白い肌をした男性(青年にも、あるいは少年のようにも見える容姿だった)が窓辺から外を眺めていた。俺は咄嗟に身を屈め、木々の影に隠れる。しかし、彼は俺に気がつくことなく、ぼんやりとした表情をしていた。
虚ろな目をした彼に、妙な違和感を覚える。
────何処かで。
見たことがある顔の造形をしていた。記憶の奥底にしまった引き出しの埃を払ってみたが、どうも思い出せない。
うむうむと唸りながら、男を眺める。瞬間、誰かが背後から抱きしめた。
────フォールだ。
思わず息を呑む。抱きつかれた彼は朗らかに微笑み、フォールの腕を愛おしげに撫でていた。そのまま、フォールが亜麻色の髪に鼻を埋めたり、頬にキスをしたり、まるで恋人のような振る舞いをしている。
────本命はここにいたのか。
俺は口元に手を当て、呆然とした。二人の行為から目が離せないまま、唾液を嚥下する。
「あんな顔できるんだ」
ポツリと出た言葉が風に消える。相手が男という点よりも先に、あんな穏やかな表情をできるのかと驚愕した。
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