孤独な屋敷の主人について[完]

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みずいらず

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 兄と致すときはいつも初夜のような気持ちにさせられる。何度抱いても彼は穢れを知らない子供のように体を強張らせる。潤んだ瞳でおずおずとこちらを見上げ、次に与えられるふれあいに身構えるのだ。
 そんな兄がたまらなく愛おしい。そして、自分自身の汚さに嫌悪する。

「無口くん」

 薄暗がりの部屋の中、月明かりが差し込むベッドの上に兄は寝転がっていた。湯上がりの体が火照っていて、俺の奥底にある熱を燻る。先程身につけたばかりの寝巻きへ手を伸ばす。ゆるい生地のそれは脱がせやすくて、ほくそ笑んだ。
 そのまま胸元へ近づき、晒された突起を舐める。唾液の多い舌で甚振ると、兄が甲高い声を上げた。赤子のように吸い付くと、シーツを握る手に力が籠る。

「はっ、はっ、あぅ、……んっ、ぅ……!」

 顔を真っ赤にしている彼が可愛くて、わざと音を立てて吸う。その度に背中が反り、汗ばんだ。

「だめ、っ、やだ、へんになっちゃう」

 口の端から唾液を垂らしながら、俺の肩を掴み剥がそうとする兄。嫌じゃないくせに、と意地悪な言葉を吐きたかったが、口を噤む。宥めるようにキスをすると、彼は大人しく従った。手のひらで頬を包み込み、角度を変え何度も触れる。薄く開いた唇の間に舌を入れ込むと、兄が震える舌を伸ばす。触れ合ったそこが妙に熱くて、無我夢中で舌に吸い付いた。彼がゴクリと俺の唾液を嚥下する。その音が耳に届き、脳の奥がぼんやりとした。
 ────兄が俺の体液を飲み下している。
 唾液が彼の体内に入り込み、胃へ収まるという事実に背筋がゾクゾクとした。
 兄の全てを侵食したい。食い尽くして、貪って。その骨さえも噛み砕いてしまいたいとさえ思う。
 そんな暴力的な思考が、兄の小さな喘ぎによって揉み消された。唇を離し、カルベルを見つめる。虚ろとした、焦点の合わない瞳が俺を見つめていた。

「くるしいよ」

 舌足らずな口調でそう言われ、もう一度口づけをした。舌を奥深くまで捩じ込み、柔らかい部分を撫でる。瞬間、彼の体が地上へあげられた魚のように跳ねた。同時に、醜い音が喉から漏れる。俺はそんな小さな体を押さえつけ、舌を伸ばした。
 もっと深く。彼を探りたい。下半身の張り詰めた熱を擦り合わせながら、必死に抵抗する兄の振動を味わう。
 兄を大切にしたいという気持ちと、相反して激しく嬲りたいという気持ちが鬩ぎ合った。

「ん゛、ぐ、……! ん、ん゛ッ」

 苦しさのあまり顔を背けようとした彼を逃さないように、頬を掴んでいた手に力を込める。柔い肉が歪み、それさえも興奮を招いた。
 不意に、熱い何かが手に触れる。それが兄の涙だと知り、咄嗟に体を離した。
 彼は顔を真っ赤にし、肩で呼吸を繰り返しながら涙を流している。

「はっ、はぁっ、む、むくちくん、こわいよ」

 嗚咽を漏らしながら泣く彼に、申し訳なさと情欲が擽られた。
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