11 / 35
みずいらず
2
しおりを挟む
「主人、大丈夫です。休暇を満喫したら、すぐに戻りますから。私が不在の間、えっと……無口くんが主人のお世話をしてくださります」
「無口くんが?」
カルベルの顔色がパッと明るくなる。その表情を見て、胸が締め付けられた。愛くるしさに頬が緩む。今すぐにでも抱きしめたい衝動に襲われ、それを押し殺した。
「はい。無口くんが私の代わりを務めます」
「そうなんだ。嬉しいな」
朗らかに微笑むカルベルを見て、レジューもつられて頬を緩めた。
「レジューは屋敷を離れて、何処へ行くの?」
「えっと……」
「あ、ご両親の元へ行くんだね。ずっと、手紙のやり取りをしてたもんね。きっと喜ぶよ」
レジューの体が強張るのが、他人の目から見ても分かった。レジューがこの場へ拉致されたのは、カルベルの存在が外へ漏れないためである。国の端に生息している民族の娘なら他言しないであろう、情報を漏らさないであろう、という理由で彼女は家族────いや、外部から関係を強制的に遮断され、人生を奪われた。
しかし、どうやらレジューは家族と文通をしていたらしい。内容がどうか定かではないが、その中にカルベルのことが含まれていたら俺は立場上、彼女を処罰しなければいけなくなる。
レジューが恐る恐ると言いたげに俺を見上げた。バレてはいけない事柄を、カルベルがあっさりと話してしまった故、妙な緊張が場に孕む。
けれど、俺にとってはどうでも良いことだった。そもそも、彼女の人権などを考えると、家族との文通ぐらいなんてことない。
肩を竦めて見せると、レジューは何処かホッとしたような表情を見せた。
カルベルは相変わらず、ニコニコしている。
「確か、妹さんに子供が生まれたって言ってたよね。見に行くの?」
「えっ……えぇ。はい、その予定です」
心なしかレジューの声は小さい。カルベルはレジューと家族の文通内容を知っているようだ。今日のように太陽が燦々と降り注ぐ晴れた日に、窓際で日向ぼっこをしながらレジューが読み上げる手紙の内容を愉快げに聞くカルベルを想像し、自然と口角が上がった。
「お見送りするよ」
「ありがとうございます。では、行きましょうか」
俺たちは部屋を抜け、玄関まで向かう。途中、階段を降りるカルベルを支えながら歩んだ。ありがとう、無口くん。そう告げられ、俺は全身の血が沸るように燃えた。嬉しくて、彼の手を強く握ってしまう。不意に視線を感じ、レジューの方へ目を遣る。彼女はなんとも言い難い表情をしており、途端に恥ずかしさが芽生えた。
性行為まで彼女に見られているのに、今更何を恥ずかしがることがある。そうは思うものの、礼を言われるだけで赤面してしまう自分が情けなくなった。しかし、彼に言葉をかけられるだけで舞い上がってしまうほど、俺は兄に溺れているのだ。仕方がないだろう。
火照った頬を鎮めるため、かぶりを振る。
「無口くんが?」
カルベルの顔色がパッと明るくなる。その表情を見て、胸が締め付けられた。愛くるしさに頬が緩む。今すぐにでも抱きしめたい衝動に襲われ、それを押し殺した。
「はい。無口くんが私の代わりを務めます」
「そうなんだ。嬉しいな」
朗らかに微笑むカルベルを見て、レジューもつられて頬を緩めた。
「レジューは屋敷を離れて、何処へ行くの?」
「えっと……」
「あ、ご両親の元へ行くんだね。ずっと、手紙のやり取りをしてたもんね。きっと喜ぶよ」
レジューの体が強張るのが、他人の目から見ても分かった。レジューがこの場へ拉致されたのは、カルベルの存在が外へ漏れないためである。国の端に生息している民族の娘なら他言しないであろう、情報を漏らさないであろう、という理由で彼女は家族────いや、外部から関係を強制的に遮断され、人生を奪われた。
しかし、どうやらレジューは家族と文通をしていたらしい。内容がどうか定かではないが、その中にカルベルのことが含まれていたら俺は立場上、彼女を処罰しなければいけなくなる。
レジューが恐る恐ると言いたげに俺を見上げた。バレてはいけない事柄を、カルベルがあっさりと話してしまった故、妙な緊張が場に孕む。
けれど、俺にとってはどうでも良いことだった。そもそも、彼女の人権などを考えると、家族との文通ぐらいなんてことない。
肩を竦めて見せると、レジューは何処かホッとしたような表情を見せた。
カルベルは相変わらず、ニコニコしている。
「確か、妹さんに子供が生まれたって言ってたよね。見に行くの?」
「えっ……えぇ。はい、その予定です」
心なしかレジューの声は小さい。カルベルはレジューと家族の文通内容を知っているようだ。今日のように太陽が燦々と降り注ぐ晴れた日に、窓際で日向ぼっこをしながらレジューが読み上げる手紙の内容を愉快げに聞くカルベルを想像し、自然と口角が上がった。
「お見送りするよ」
「ありがとうございます。では、行きましょうか」
俺たちは部屋を抜け、玄関まで向かう。途中、階段を降りるカルベルを支えながら歩んだ。ありがとう、無口くん。そう告げられ、俺は全身の血が沸るように燃えた。嬉しくて、彼の手を強く握ってしまう。不意に視線を感じ、レジューの方へ目を遣る。彼女はなんとも言い難い表情をしており、途端に恥ずかしさが芽生えた。
性行為まで彼女に見られているのに、今更何を恥ずかしがることがある。そうは思うものの、礼を言われるだけで赤面してしまう自分が情けなくなった。しかし、彼に言葉をかけられるだけで舞い上がってしまうほど、俺は兄に溺れているのだ。仕方がないだろう。
火照った頬を鎮めるため、かぶりを振る。
28
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる