孤独な屋敷の主人について[完]

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みずいらず

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「主人、大丈夫です。休暇を満喫したら、すぐに戻りますから。私が不在の間、えっと……無口くんが主人のお世話をしてくださります」
「無口くんが?」

 カルベルの顔色がパッと明るくなる。その表情を見て、胸が締め付けられた。愛くるしさに頬が緩む。今すぐにでも抱きしめたい衝動に襲われ、それを押し殺した。

「はい。無口くんが私の代わりを務めます」
「そうなんだ。嬉しいな」

 朗らかに微笑むカルベルを見て、レジューもつられて頬を緩めた。

「レジューは屋敷を離れて、何処へ行くの?」
「えっと……」
「あ、ご両親の元へ行くんだね。ずっと、手紙のやり取りをしてたもんね。きっと喜ぶよ」

 レジューの体が強張るのが、他人の目から見ても分かった。レジューがこの場へ拉致されたのは、カルベルの存在が外へ漏れないためである。国の端に生息している民族の娘なら他言しないであろう、情報を漏らさないであろう、という理由で彼女は家族────いや、外部から関係を強制的に遮断され、人生を奪われた。
 しかし、どうやらレジューは家族と文通をしていたらしい。内容がどうか定かではないが、その中にカルベルのことが含まれていたら俺は立場上、彼女を処罰しなければいけなくなる。
 レジューが恐る恐ると言いたげに俺を見上げた。バレてはいけない事柄を、カルベルがあっさりと話してしまった故、妙な緊張が場に孕む。
 けれど、俺にとってはどうでも良いことだった。そもそも、彼女の人権などを考えると、家族との文通ぐらいなんてことない。
 肩を竦めて見せると、レジューは何処かホッとしたような表情を見せた。
 カルベルは相変わらず、ニコニコしている。

「確か、妹さんに子供が生まれたって言ってたよね。見に行くの?」
「えっ……えぇ。はい、その予定です」

 心なしかレジューの声は小さい。カルベルはレジューと家族の文通内容を知っているようだ。今日のように太陽が燦々と降り注ぐ晴れた日に、窓際で日向ぼっこをしながらレジューが読み上げる手紙の内容を愉快げに聞くカルベルを想像し、自然と口角が上がった。

「お見送りするよ」
「ありがとうございます。では、行きましょうか」

 俺たちは部屋を抜け、玄関まで向かう。途中、階段を降りるカルベルを支えながら歩んだ。ありがとう、無口くん。そう告げられ、俺は全身の血が沸るように燃えた。嬉しくて、彼の手を強く握ってしまう。不意に視線を感じ、レジューの方へ目を遣る。彼女はなんとも言い難い表情をしており、途端に恥ずかしさが芽生えた。
 性行為まで彼女に見られているのに、今更何を恥ずかしがることがある。そうは思うものの、礼を言われるだけで赤面してしまう自分が情けなくなった。しかし、彼に言葉をかけられるだけで舞い上がってしまうほど、俺は兄に溺れているのだ。仕方がないだろう。
 火照った頬を鎮めるため、かぶりを振る。
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