孤独な屋敷の主人について[完]

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みずいらず

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「レジュー。長期休暇を取って、村へ帰るといい。手配はこちらで済ませた。荷物を纏めて、ほら早く」

 突然の申し出に、この屋敷の使用人であるレジューは目をまん丸とさせて俺を見つめていた。あのぉ、と言葉を漏らし、しかしなんと続けて良いのか分からず黙り込む。
 改めて、この独裁的なところは父譲りだと実感する。変な部分を受け継いだことに、自身でも嫌気がさした。
 屋敷の窓から溢れる太陽の光が、彼女の頬を照らしている。長い廊下につけられた窓を拭くために雑巾を掲げていた彼女は手を止め、俺の前で姿勢を正した。

「……えっと」
「レジュー。君は働きすぎだ。ここへ来てからというもの、生まれ故郷にも帰れていないだろう? だから、休暇を取るといい。その間、俺がこの屋敷で兄の面倒を見る。心配いらない。父様たちには適当な理由をつけて、遠征へ出かけると言ってある。それに、俺がここにいることがバレたところでなんの不都合もないはずだ。だから、君は気にせずに村へ帰ってくれ。あぁ、送迎や資金はこちらで用意してる。何かあれば外に待機させている俺の部下に何なりと言ってくれ。あと────」
「む、無口くんとして主人と過ごすのですか?」

 彼女の問いに思わず笑ってしまいそうになった。無口くんは俺のもう一つの呼び名である。基本、兄しかその呼び名を使わないため冷静沈着な彼女の口から漏れると、とても滑稽に思えた。

「あぁ、そうだね。意思疎通は……まぁ、なんとかしてみせるさ。それに、いざとなったら弟として登場すれば良いだけだ」

 レジューは不安げだったが、やがて諦めたのか小さく頷いた。立場上、俺には逆らえないと理解している。しかし、それでも幼少期からカルベルを見守ってきた人間としては見過ごせないのだろう。

「……お心遣い、ありがとうございます」

 深々と頭を下げる彼女は何か言いたげだったが、あえて深くは聞こうと思わなかった。作業を中断し、淡々と自分の荷物をまとめた彼女はカルベルの自室まで向かい、彼へ挨拶をした。

「主人、お話があります」
「レジュー、どうしたの?」
「レジューはこの度、長期休暇を取ることになりました。故に、屋敷を数日ほど離れます」
「え……? 」

 目に見えて分かるほど、彼が困惑していた。この屋敷で生活してきた時間の中で、ずっと共にいた二人だ。離れる、という単語を聞いてカルベルが怯えるのも無理はない。
 レジューが兄の肩を宥めるように撫でる。落ち着いてくださいとひどく優しい声音を発していた。その意外な一面に少し拍子抜けする。彼女はカルベルに対してはとても穏やかな女性なのだと改めて実感した。
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