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孤独な屋敷の主人について
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森の奥深くに、この屋敷は建っている。広々とした庭と高く聳える塀。中には焦茶色の外壁をした二階建ての屋敷があり、そこで私は使用人として働いている。
主人は一人の青年、カルベルだ。
「わぁ、美味しいねこのスープ」
カルベルが、一人で使うにはあまりにも広すぎる机の上に置かれた食事に手をつけながら、私を見上げた。亜麻色の髪が、さらりと揺れる。私の顎あたりを、青藤色の瞳が見つめていた。
ありがとうございます、と小さく頭を下げる。手に持ったスプーンを口へ運び、もう一度、綻んだ笑みを見せた。
「レジューは本当に料理が上手だね」
レジュー。それが私の名前だ。私はあまり、この名前が好きではない。元々、男児につける名前だったそうな。もっと愛嬌のある名前にしてほしかった、と思ったりする。
両親の顔を脳内で思い浮かべていた私は、金属音で我に返る。どうやらカルベルがスプーンを落としたらしい。私は膝を着き、それを拾った。
カルベルはというと、申し訳なさそうに床をぼんやりと眺め、ごめんねと謝罪している。彼の手にスプーンを馴染ませるように渡すと、指先がピクンと軽く跳ねた。
「いつも迷惑をかけて、ごめんね。僕が出来損ないなばかりに……」
いえ、これが仕事ですので。そう言いかけた言葉を呑み込む。それに、彼が出来損ないな訳ではない。
彼が盲目なのは────彼自身の責任ではないのだ。私はそれを理解して欲しくて、その手を強く握りしめた。
◇
カルベル・アルゼルナンは、イズエ・アルゼルナン王の息子である。しかし彼は生まれつき盲目であるが故に、出来損ないと判断されこの屋敷に幽閉されているのだ。
最初は殺される予定だったらしいのだが、それはあまりに酷だと周りの人間に説得され、やむを得ず生かされている状態である。
カルベルはとても優しく、清純で真面目な男性だ。父であるイズエと似ても似つかない美しい容姿と細身の体は、母譲りである。(彼の母であり女王のイザベルは既に他界している。遠目で拝見したことがあるが、彼女はとても美しい人だった)
彼がこの屋敷へ幽閉されたと同時に、私もこの場所へ無理やり連れてこられた。私は元々この国の端にある村で生活をしていた、しがない民族の一員である。
村を焼かれたくなければ、第一子の王子が生きていることは他言するな。そう兵士に刃を突きつけながら脅された。国の内部では第一子である王子の存在はもみ消され、無かったことにされているそうだ。だからこそ、国のゴタゴタとは無縁な村の小娘が使用人として選ばれたのだ。
目が見えないというだけで存在をもみ消す上に、私のような無力な民族を脅すなど。国のお偉いが考えることは理解できないな、とその時あらためて実感した。
私たちが出会ったのは、王子が二歳で、私が十六歳の頃。
今でも鮮明に思い出せる。あの重みと暖かさ、そして柔さを。
主人は一人の青年、カルベルだ。
「わぁ、美味しいねこのスープ」
カルベルが、一人で使うにはあまりにも広すぎる机の上に置かれた食事に手をつけながら、私を見上げた。亜麻色の髪が、さらりと揺れる。私の顎あたりを、青藤色の瞳が見つめていた。
ありがとうございます、と小さく頭を下げる。手に持ったスプーンを口へ運び、もう一度、綻んだ笑みを見せた。
「レジューは本当に料理が上手だね」
レジュー。それが私の名前だ。私はあまり、この名前が好きではない。元々、男児につける名前だったそうな。もっと愛嬌のある名前にしてほしかった、と思ったりする。
両親の顔を脳内で思い浮かべていた私は、金属音で我に返る。どうやらカルベルがスプーンを落としたらしい。私は膝を着き、それを拾った。
カルベルはというと、申し訳なさそうに床をぼんやりと眺め、ごめんねと謝罪している。彼の手にスプーンを馴染ませるように渡すと、指先がピクンと軽く跳ねた。
「いつも迷惑をかけて、ごめんね。僕が出来損ないなばかりに……」
いえ、これが仕事ですので。そう言いかけた言葉を呑み込む。それに、彼が出来損ないな訳ではない。
彼が盲目なのは────彼自身の責任ではないのだ。私はそれを理解して欲しくて、その手を強く握りしめた。
◇
カルベル・アルゼルナンは、イズエ・アルゼルナン王の息子である。しかし彼は生まれつき盲目であるが故に、出来損ないと判断されこの屋敷に幽閉されているのだ。
最初は殺される予定だったらしいのだが、それはあまりに酷だと周りの人間に説得され、やむを得ず生かされている状態である。
カルベルはとても優しく、清純で真面目な男性だ。父であるイズエと似ても似つかない美しい容姿と細身の体は、母譲りである。(彼の母であり女王のイザベルは既に他界している。遠目で拝見したことがあるが、彼女はとても美しい人だった)
彼がこの屋敷へ幽閉されたと同時に、私もこの場所へ無理やり連れてこられた。私は元々この国の端にある村で生活をしていた、しがない民族の一員である。
村を焼かれたくなければ、第一子の王子が生きていることは他言するな。そう兵士に刃を突きつけながら脅された。国の内部では第一子である王子の存在はもみ消され、無かったことにされているそうだ。だからこそ、国のゴタゴタとは無縁な村の小娘が使用人として選ばれたのだ。
目が見えないというだけで存在をもみ消す上に、私のような無力な民族を脅すなど。国のお偉いが考えることは理解できないな、とその時あらためて実感した。
私たちが出会ったのは、王子が二歳で、私が十六歳の頃。
今でも鮮明に思い出せる。あの重みと暖かさ、そして柔さを。
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