永遠に君推し

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生贄

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 老婆が思い出したように言った。祭り? 祭りとはなんだろうか。ルイが何か催し物にでも出るのだろうか。
 ルイが振り返り「うん」と溌剌とした返事をする。その笑顔は屈託がなく、太陽より眩しい。

「ねぇ、川辺にある大樹の木陰に行こう」

 ルイが走り出した。木々が犇めく小道を抜け、古びた家を横目に見送る。田舎風景は雄大な自然を俺に見せつけるが、人っこ一人、すれ違う人物はいない。ふと、顔を上げると、山のてっぺんあたりに鳥居が見えた。俺たちが先ほどまでいた場所だろう。鳥居へ続く石畳の階段が、まるで天へ登る蛇のように見えた。
 ルイは慣れた足取りで土手を駆け降りる。「早くおいでよ」と促され、俺も土手を下った。砂利が敷き詰められたそこは歩行が難しく、俺は苦戦する。反して、ルイはスイスイと跳ぶように歩み、川辺にある大樹の影に入った。ふぅと息を漏らし、付近にあった大きな石に腰を下ろす。
 俺も一つ遅れて彼の元へ辿り着いた。

「ケイトくんは都会育ちだから、あんまりこういうところ慣れてないよね」

 「ごめんね、連れ回して」と申し訳なさそうに肩を竦めるルイの隣に腰を下ろす。滑らかな石だったが、その硬さに顔を顰めた。
 どうやら俺は、都会から来ているらしい。夏休み────親の都合で身内の家に預けられた設定とか、そういうものだろうか。
 少年二人の、夏の思い出。まだなにも知らない子供同士の、甘酸っぱい夏のひととき。
 ────ま、悪く無い設定かな。
 こういう、穏やかな時間もいいだろう。俺は目の前に流れる、緩やかな水流を見つめ、心を落ち着かせた。

「ケイトくんは何味? 僕は、バニラを買ったよ」

 ルイは溶けかけのアイスの袋を破き、口に含んだ。液体になったバニラが、ゆっくりと彼の手を伝う。それをべろりと赤い舌が舐めとった。
 汗ばんだ肌と相まって、とても淫猥な光景に見える。
 しかし、相手は子供だ。俺にそんな趣味はない。無い……がルイとなると話は別だ。眼球のフィルムに焼き付けて、忘れないようにしなければと目を見開く。

「早く食べないと、溶けちゃうよ」

 穏やかに微笑む彼に促され、俺もアイスを食べた。甘さが舌を撫でる。「おいひいね」と口にアイスを含んだままのルイに微笑みかけられ、俺は思わず鼻の下を伸ばして「そうだな」と返した。

「そういえば、ケイトくんはいつ帰っちゃうの? 明日のお祭りには参加するんだよね?」

 その問いに、俺は上手く答えられないまま固まる。「祭りが、あるんだな……」と答え、溶け始めたアイスをべろりと舐める。
 祭り────浴衣を着たルイとりんご飴を食べたり、花火を見たりして、穏やかな夏の思い出を作る……なんと素晴らしい世界線だろうか。俺は今まで訪れた世界と比べて静かで平和な夢に、拍子抜けする。
 たまにはこういう、田舎町でのんびりとした時間を過ごすのも悪くない。俺はうんうんと頷きながら澄み切った空を見つめる。

「うん、あるよ。さっきまで居た神社がある場所。あそこでやるんだ。いっぱい、出店とか出るんだよ」
「へぇ……そういえば、駄菓子屋の婆ちゃんが言ってたけど、なんか祭りで出し物に参加するのか?」
「うん! 僕はね────」

 どんな出し物だろう。俺は一緒に参加できるならしたいなぁと思いながら彼の言葉の続きを待つ。
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