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オメガに恋して
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◇
キャンパス内で見つけた背中を、俺は必死に追いかけた。亜麻色の後頭部は紛れもなく、ルイのものである。俺は何度か口の中に溜まっていた唾液を嚥下し、深呼吸を繰り返した。「あの……」と声をかけると、ルイがぴたりと止まった。
「あの、ル……清泉」
「あ、北埜くん。どうしたの?」
北埜くん。その呼び方はとてつもない距離感を感じたが、しかし。距離感もどこか懐かしさを覚え、胸がキュンと締め付けられた。
────現実世界ではこんなレベルの距離感だよな。いや、もしかしたらもっと遠いかもしれない……。
ここから俺たちのラブストーリーが始まるかもしれない。オメガとベータという結ばれない関係性の二人だが、それでも俺たちには固い絆があるはずだ……きっと。
呼び止められたルイはきょとんとしている。首には赤い首輪が巻かれていた。その姿に腹の奥がずんと重くなり、俺はなんとも言えない声を漏らしかける。
────似合ってる……!
可愛い、最高だ。赤というチョイスが素晴らしい。そう言葉を並べてしまいそうになり、それを口の中で噛み砕いた。
「ごめん。今日、飲み会に来るかなって……」
「うん、行くよ」
ニコッと微笑んだ彼は、今まで見てきたルイである。しかし、なぜか疲れ切った顔をしていた。
────なんだろう、この違和感は。
不意に、ルイの口元が赤いことに気がついた。乾燥で切れているのだろうか、と思わず手を伸ばす。
「口の端、切れてる」
「え!?」
ルイがビクンと体を揺らす。やがて、指先でその部分を撫でた。思い出したように「あぁ……」と呟き、目を伏せる。
「平気か? 痛くないか?」
俺の問いに、彼は間を置きゆっくりと頷いた。やがて綻んだように微笑む。
「……北埜くんは優しいね」
穏やかな、けれど気を抜けば泣き出してしまいそうな表情に、唖然とした。そんな顔をして欲しくなくて、しかし何と言って良いか分からず、唇を舐める。
────何があったんだ?
聞いてみようかと悩み、そこでもう一つ、違和感を覚える。
────頬が、青い。
ファンデーションか何かで隠されたそこは、他の肌より青ざめていた。その瞬間、心臓が脈を打つ。ジクジクと音を立て、鼓膜の奥でリフレインした。
「清泉、あの……」
「ルイ。何喋ってんだ。行くぞ」
瞬間、ルイの体が綿毛のようにぐいと引かれた。二の腕を掴んでいた人物は講義室でルイの隣にいたアルファ────福田だった。彼はむすっとした顔のまま、俺とルイを交互に見ている。
「ゆ、優斗くん……」
彼の下の名前は、どうやら優斗というらしい。そんなどうでもいい情報を脳に入れながら、ルイの怯え具合に驚いた。震えた声に、俺は目を見開く。その表情も強張っていて、どう見ても仲の良い二人には見えなかった。
福田は俺を一瞥し、鼻を鳴らして踵を返した。二の腕から手を離さないまま身勝手にズンズンと歩みを進める福田に、ルイが引きずられる。「またね」と口パクをして離れていくルイを呆然と眺め、俺はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
キャンパス内で見つけた背中を、俺は必死に追いかけた。亜麻色の後頭部は紛れもなく、ルイのものである。俺は何度か口の中に溜まっていた唾液を嚥下し、深呼吸を繰り返した。「あの……」と声をかけると、ルイがぴたりと止まった。
「あの、ル……清泉」
「あ、北埜くん。どうしたの?」
北埜くん。その呼び方はとてつもない距離感を感じたが、しかし。距離感もどこか懐かしさを覚え、胸がキュンと締め付けられた。
────現実世界ではこんなレベルの距離感だよな。いや、もしかしたらもっと遠いかもしれない……。
ここから俺たちのラブストーリーが始まるかもしれない。オメガとベータという結ばれない関係性の二人だが、それでも俺たちには固い絆があるはずだ……きっと。
呼び止められたルイはきょとんとしている。首には赤い首輪が巻かれていた。その姿に腹の奥がずんと重くなり、俺はなんとも言えない声を漏らしかける。
────似合ってる……!
可愛い、最高だ。赤というチョイスが素晴らしい。そう言葉を並べてしまいそうになり、それを口の中で噛み砕いた。
「ごめん。今日、飲み会に来るかなって……」
「うん、行くよ」
ニコッと微笑んだ彼は、今まで見てきたルイである。しかし、なぜか疲れ切った顔をしていた。
────なんだろう、この違和感は。
不意に、ルイの口元が赤いことに気がついた。乾燥で切れているのだろうか、と思わず手を伸ばす。
「口の端、切れてる」
「え!?」
ルイがビクンと体を揺らす。やがて、指先でその部分を撫でた。思い出したように「あぁ……」と呟き、目を伏せる。
「平気か? 痛くないか?」
俺の問いに、彼は間を置きゆっくりと頷いた。やがて綻んだように微笑む。
「……北埜くんは優しいね」
穏やかな、けれど気を抜けば泣き出してしまいそうな表情に、唖然とした。そんな顔をして欲しくなくて、しかし何と言って良いか分からず、唇を舐める。
────何があったんだ?
聞いてみようかと悩み、そこでもう一つ、違和感を覚える。
────頬が、青い。
ファンデーションか何かで隠されたそこは、他の肌より青ざめていた。その瞬間、心臓が脈を打つ。ジクジクと音を立て、鼓膜の奥でリフレインした。
「清泉、あの……」
「ルイ。何喋ってんだ。行くぞ」
瞬間、ルイの体が綿毛のようにぐいと引かれた。二の腕を掴んでいた人物は講義室でルイの隣にいたアルファ────福田だった。彼はむすっとした顔のまま、俺とルイを交互に見ている。
「ゆ、優斗くん……」
彼の下の名前は、どうやら優斗というらしい。そんなどうでもいい情報を脳に入れながら、ルイの怯え具合に驚いた。震えた声に、俺は目を見開く。その表情も強張っていて、どう見ても仲の良い二人には見えなかった。
福田は俺を一瞥し、鼻を鳴らして踵を返した。二の腕から手を離さないまま身勝手にズンズンと歩みを進める福田に、ルイが引きずられる。「またね」と口パクをして離れていくルイを呆然と眺め、俺はその場に立ち尽くすことしか出来なかった。
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