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オメガに恋して
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────待てよ。
そこで俺は気がついた。ルイは首輪をしている。つまりそれはルイが誰とも「つがい」という関係を結んでいない証だ。
スマホの画面をタップしながら、目を動かす。どの第二の性を授かっているかを調べる方法、と入力し、検索をかけた。
健康保険証の性別記載の隣に載っていると記されている、という文言を目にし、急いでリュックをひっくり返した。財布を手に取り、中に入っている保険証をバっと抜き出した。
氏名 北埜ケイト 性別 男 ────ベータ。
「ちくしょう!」
性別の隣に書かれていたベータという文字が目に入り、俺は勢いよく机を叩いた。隣にいた猪戸が「え?俺が知らないだけで保険証に当たり外れとか書いてあんの?」と不思議そうにしている。そんな彼の言葉など、俺には届かない。俺は、ベータだ。つまり、オメガであるルイと結ばれることはない。
────俺の夢なら、都合よくアルファにしてくれたっていいじゃないか!
どうも、俺の夢は俺に意地が悪いらしい。大きくため息を漏らし、ルイの背中を眺める。真白い肌に映える真っ赤な首輪は、悪趣味ではあるがとても似合っていた。
俺がアルファなら、即座に彼を口説いてうなじに噛みつき「つがい」になった上で、尚且つ再び首輪を嵌めさせて犬耳を装着し、ワンちゃんプレイをしたい。「ほら、犬は人間の言葉を喋っちゃダメだろ」と意地悪く彼の顎をクイとあげる。ルイは涙目になりながら恥ずかしそうに唇を舐め「わん……」と吠えるのだ────。
「お前、顔めちゃくちゃ気持ち悪いぞ。今日、どうした?」
妄想に浸っていた俺は猪戸の声で我に返る。伸びていた鼻の下を元の位置へ戻し、頬を引き締める。なんで俺はアルファじゃないのかと悶々としていると、不意にある男が目に入る。そいつはルイの隣に腰を下ろした。
この世界にまだ順応していない俺でも分かる。彼は────アルファだ。醸し出す雰囲気はどことなく逆らうに逆らえないものを孕んでいる。良く言えばカリスマ性、悪く言えば傲慢そうなその態度は、鼻についた。
ルイの隣に我が物顔で座った彼は、ルイと親しげに会話をしていた。身を寄せたり、耳元に唇を寄せ会話する姿にムッと眉毛が吊り上がる。
「あ、福田だ。あいつも誘っておかないと」
猪戸がルイ達の方を見てひとりごちた。なるほど、あの男は福田というのか。脳の片隅に記憶しておく。
「……あの二人、付き合ってんの?」
「どうなんだろうな? 福田、清泉とは仲良いけど、他にもちょっかい出しているし。特に女のオメガにちょっかい出して、遊んでるよな」
「評判悪いんだよな、あいつ」。彼の言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。どうやら、彼らは付き合っていないらしい。その言葉だけでだいぶ救われた。
しかし、手癖の悪い男がルイのそばにいるのは気分が落ち着かない。俺なら絶対にルイだけを見つめ、ルイだけに愛を注ぐ。
「今日の飲み会はー……俺と、お前と福田と清泉とー……」
「え? ルイ……じゃなかった、清泉も来んの!?」
「そうだけど? 嫌なら断ろうか?」
「バカ言うな! むしろ来てくれてサンキュー!」
「お前、今日のテンションすげぇな。ジェットコースターみたいだ……」
猪戸の不安げな表情を他所に、俺はルイとどんな会話をしようかと妄想していた。
そこで俺は気がついた。ルイは首輪をしている。つまりそれはルイが誰とも「つがい」という関係を結んでいない証だ。
スマホの画面をタップしながら、目を動かす。どの第二の性を授かっているかを調べる方法、と入力し、検索をかけた。
健康保険証の性別記載の隣に載っていると記されている、という文言を目にし、急いでリュックをひっくり返した。財布を手に取り、中に入っている保険証をバっと抜き出した。
氏名 北埜ケイト 性別 男 ────ベータ。
「ちくしょう!」
性別の隣に書かれていたベータという文字が目に入り、俺は勢いよく机を叩いた。隣にいた猪戸が「え?俺が知らないだけで保険証に当たり外れとか書いてあんの?」と不思議そうにしている。そんな彼の言葉など、俺には届かない。俺は、ベータだ。つまり、オメガであるルイと結ばれることはない。
────俺の夢なら、都合よくアルファにしてくれたっていいじゃないか!
どうも、俺の夢は俺に意地が悪いらしい。大きくため息を漏らし、ルイの背中を眺める。真白い肌に映える真っ赤な首輪は、悪趣味ではあるがとても似合っていた。
俺がアルファなら、即座に彼を口説いてうなじに噛みつき「つがい」になった上で、尚且つ再び首輪を嵌めさせて犬耳を装着し、ワンちゃんプレイをしたい。「ほら、犬は人間の言葉を喋っちゃダメだろ」と意地悪く彼の顎をクイとあげる。ルイは涙目になりながら恥ずかしそうに唇を舐め「わん……」と吠えるのだ────。
「お前、顔めちゃくちゃ気持ち悪いぞ。今日、どうした?」
妄想に浸っていた俺は猪戸の声で我に返る。伸びていた鼻の下を元の位置へ戻し、頬を引き締める。なんで俺はアルファじゃないのかと悶々としていると、不意にある男が目に入る。そいつはルイの隣に腰を下ろした。
この世界にまだ順応していない俺でも分かる。彼は────アルファだ。醸し出す雰囲気はどことなく逆らうに逆らえないものを孕んでいる。良く言えばカリスマ性、悪く言えば傲慢そうなその態度は、鼻についた。
ルイの隣に我が物顔で座った彼は、ルイと親しげに会話をしていた。身を寄せたり、耳元に唇を寄せ会話する姿にムッと眉毛が吊り上がる。
「あ、福田だ。あいつも誘っておかないと」
猪戸がルイ達の方を見てひとりごちた。なるほど、あの男は福田というのか。脳の片隅に記憶しておく。
「……あの二人、付き合ってんの?」
「どうなんだろうな? 福田、清泉とは仲良いけど、他にもちょっかい出しているし。特に女のオメガにちょっかい出して、遊んでるよな」
「評判悪いんだよな、あいつ」。彼の言葉を聞いてほっと胸を撫で下ろす。どうやら、彼らは付き合っていないらしい。その言葉だけでだいぶ救われた。
しかし、手癖の悪い男がルイのそばにいるのは気分が落ち着かない。俺なら絶対にルイだけを見つめ、ルイだけに愛を注ぐ。
「今日の飲み会はー……俺と、お前と福田と清泉とー……」
「え? ルイ……じゃなかった、清泉も来んの!?」
「そうだけど? 嫌なら断ろうか?」
「バカ言うな! むしろ来てくれてサンキュー!」
「お前、今日のテンションすげぇな。ジェットコースターみたいだ……」
猪戸の不安げな表情を他所に、俺はルイとどんな会話をしようかと妄想していた。
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