永遠に君推し

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オメガに恋して

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  窓の隙間から漏れる光に目を細め、俺は寝返りを打った。継続的に鳴り続けるアラーム音が、何重にもなり鼓膜の奥でリフレインする。音の出どころを手で探りながら滑らかなシーツを指先で愛撫した。
 触れた硬いものを手に取り、見えるように翳す。
 ────スマホ……。
 手に取った乳白色の薄い板。画面を灯すと、明るい光が目を焼く。アラームを切り、それを枕元へ置いた。飛んできた世界線が現代だと知り、ほっと胸を撫で下ろす。
 ────しかし、何がどうなっている?
 俺は鈍痛が支配する頭を押さえながら起き上がった。先程までいた世界線を思い出し、項垂れる。
 ルイは助かった、はずだった。しかし、その後ルイは……。
 ────死んだ。
 とどのつまり、ルイが死を避けたところで、また次の死が訪れる。死からは逃れられないということだ。
 深々と息を吐き出し、カーテンを開ける。窓の外から燦々と朝日が降り注いでいた。

「……次は、どんな設定だ?」

 俺は疲れた体を伸ばしながら、部屋をぐるりと見渡した。ベッドから見える玄関のドアを見て、ここがワンルームのマンションだということを察する。近くにあった姿見で自分を確認したが、高校生時代の自分からさほど老けた印象はない。付近にあったリュックへ手を伸ばし、何かないかと探った。

「財布……」

 黒の長財布を開き、中身を確認する。カード類へ目を通し、今、自分が何者なのかを証明するものを発見した。

「学生証……」

 大学名が記載されたそれは、紛れもなく学生証であった。



「おはよう、北埜」

 ポンと肩を叩かれ、びくんと体を跳ねさせた。「お、おはよう!」と声を張り上げ溌剌と返事をしてみる。見上げると、そこには茶髪の男が立っていた。「なんだよ、今日は元気だな」とニコニコしながら隣の席に腰を下ろす。
 俺は家を出て、自分の体に正直に従った。俺の脳みそは理解していなくても、体は理解している。時間通りに電車に乗り、一限に間に合うように大学へ向かった。敷地内へ入り、講義室へ向かう。背負っていたリュックを机に下ろし、椅子に座る。
 まるで初めからそうやって仕込まれていた機械のようにスムーズに動く体に驚きつつ、しかし、感謝していた。
 ────自分の力だけでは、ここまで辿り着けなかった……。

「何、ぼーっとしてんだ?」

 隣に座った男に笑われ、我に返る。「なんでもないよ」と肩を揺らし、無理に微笑んでみせた。
 ────名前、なんなんだろうな……。
 隣に座った男は、察するに俺の友人である。名前を言わずに今日を乗り切ることは可能だろうか、と悩みながら、講義室内にいる人間たちをジロジロと見た。
 ────なんか、こいつら……。
 俺はある違和感を覚えていた。俺がいた元の世界線とは明らかに違う点に、眉を歪める。

「ところでさぁ、お前、今日の飲み会のことだけど……」
「おい、猪戸。今日の飲み会のことだけどさぁ」

 男二人の声が重なり、俺は顔を上げた。黒髪の男が、俺たちを見下ろしている。どうやら隣に座った男と知り合いらしい。俺はしめしめと唇を舐めた。
 ────猪戸か。よし、覚えたぞ。
 二人の会話している姿を横目に見ながら、俺はある人物を探していた。亜麻色の柔らかな髪、優しい目元。俺がずっと恋焦がれている、あの少年を……。

「でさ、北埜。さっきの話なんだけど」
「でぇ!? な、何?」
「いや、今日の飲み会。お前くるよな?」

 大学生特有の、大人へ背伸びするための無駄な抵抗というべき行事、飲み会。それに誘われているらしい。「ま、別に、どっちでもいいけど……」と返す。猪戸は唇を曲げ「えぇ、来いよ。絶対楽しいって」と不貞腐れた。
 ふいに、前列あたりに見覚えのある後ろ姿が目に入った。俺は椅子から立ち上がり、声を漏らす。

「ど、どうしたんだよ、一体……?」
「ルイだ……」

 紛れもなく、ルイがそこにいた。俺は出そうになった歓喜の声を押し殺し、椅子に座る。
 ルイを見つけたらこっちのもんだ。俺はホッと胸を撫で下ろし、なだらなかな猫背をニヤニヤと眺める。
 しかし、やはりそこで違和感を覚えた。
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