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宇宙でランデヴー
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◇
俺はこの宇宙船での生活を楽しんでいた。あと数ヶ月、いや、あと数日の命かもしれないこの日々をルイと擬似とはいえ恋人として過ごせるのは、夢のような毎日なのである。まあ、夢なのだが。
「はい、あーん」
「あーん」
食堂。俺とルイは隣同士で食事をとる。宇宙船の料理はどれもあまり美味しくない。味は薄いし、パサパサしているし、喉越しも良くない。
だが、そのことに関してルイたちは何も苦言を呈さなかった。これが当たり前の日々だし、さらに言ってしまえば人工的に作られた彼らにとって、食事は特に重要な事柄ではないのかもしれない。もしかしたら味覚がない可能性だってある。
だが、思いっきり人間の俺にとって、この食事は苦痛である。
故に────。
「こんなふうに食べさせてもらわなきゃ、全部吐いてるところだった」
「え? なんの話です?」
「いや、こっちの話。あーん」
この行為になんの違和感も抱かずスプーンに乗った料理を俺の口へ運ぶルイは、聖母のようだ。パクリと口に含み、不味い飯を咀嚼する。目の前にいるルイの笑顔が最高の調味料だ。
「何やってんだよ」
後ろから声がした。その主はコドだ。振り返ると彼がキョトンとしている。俺の向かいに腰を下ろし、食事の乗ったトレーを置いた。スプーンを手に取り、首を傾げる。
「お前、自分で飯も食えないのか?」
彼らにとって、男二人が恋人同士のようにしていても気にならないらしい。どうでもよさそうに頬杖をつき、食事を咀嚼するコドは俺とルイを交互に見て眉を顰めた。
「なんだ? 羨ましいだろ? 俺たちのラブラブさが」
「……いや、自分で飯を食えるから別に羨ましくないが……」
コドは呆れたようにひとりごちる。彼のじっとりとした目も気にならないほど、俺は幸せだった。もう一口、ルイから「あーん」と促され、頬張る。「美味しい?」と問われ、不味いと即答したかったが曖昧な笑みを浮かべた。
「そういえば、あと数分で隕石がこの船の付近を通り過ぎるらしいぞ」
ブホッ。俺は勢いよく口の中のものを吐き出す。ルイとコドは目をまん丸とさせ「何やってんだよ」と慌てていた。
「あと、数分!?」
「あぁ。計算だとあと数分だな」
「マジかよ!?」
「なんでそんなに驚いてんだよ?」
コドが肩を竦めた。あと数分の命だというのに、彼はのんびりと不味い飯を食っている。
────彼らは知らないのだ。自分たちが死ぬ運命を。
そう考えると寒気がした。
「……ケイトさん? 大丈夫ですか?」
ルイが心配そうに声をかける。いつの間にか額に滲んでいた汗を指先で拭う彼。そんなルイの手を掴んだ。
「ルイ。これが最後かもしれない」
「え……? なんの話……」
「ルイ。好きだ。今までも、これからも」
「……け、ケイトさん……」
瞬間、食堂内にサイレンが響き渡る。劈くような音に耳を塞いだ。驚いたのか、ルイが身を強張らせた。
────ついに来た!
きっと宇宙船に隕石が衝突したんだ。俺はルイを庇い、抱きしめる。その警告音に彼も驚いているのか、目を白黒とさせた。
「こ、これは一体……?」
「なんだ?」
コドとルイの声が同時に聞こえた。途端に、音が鳴り止む。不思議に思い、顔を上げた。抱きかかえていたルイを離し、辺りをキョロキョロと見渡した。
俺はこの宇宙船での生活を楽しんでいた。あと数ヶ月、いや、あと数日の命かもしれないこの日々をルイと擬似とはいえ恋人として過ごせるのは、夢のような毎日なのである。まあ、夢なのだが。
「はい、あーん」
「あーん」
食堂。俺とルイは隣同士で食事をとる。宇宙船の料理はどれもあまり美味しくない。味は薄いし、パサパサしているし、喉越しも良くない。
だが、そのことに関してルイたちは何も苦言を呈さなかった。これが当たり前の日々だし、さらに言ってしまえば人工的に作られた彼らにとって、食事は特に重要な事柄ではないのかもしれない。もしかしたら味覚がない可能性だってある。
だが、思いっきり人間の俺にとって、この食事は苦痛である。
故に────。
「こんなふうに食べさせてもらわなきゃ、全部吐いてるところだった」
「え? なんの話です?」
「いや、こっちの話。あーん」
この行為になんの違和感も抱かずスプーンに乗った料理を俺の口へ運ぶルイは、聖母のようだ。パクリと口に含み、不味い飯を咀嚼する。目の前にいるルイの笑顔が最高の調味料だ。
「何やってんだよ」
後ろから声がした。その主はコドだ。振り返ると彼がキョトンとしている。俺の向かいに腰を下ろし、食事の乗ったトレーを置いた。スプーンを手に取り、首を傾げる。
「お前、自分で飯も食えないのか?」
彼らにとって、男二人が恋人同士のようにしていても気にならないらしい。どうでもよさそうに頬杖をつき、食事を咀嚼するコドは俺とルイを交互に見て眉を顰めた。
「なんだ? 羨ましいだろ? 俺たちのラブラブさが」
「……いや、自分で飯を食えるから別に羨ましくないが……」
コドは呆れたようにひとりごちる。彼のじっとりとした目も気にならないほど、俺は幸せだった。もう一口、ルイから「あーん」と促され、頬張る。「美味しい?」と問われ、不味いと即答したかったが曖昧な笑みを浮かべた。
「そういえば、あと数分で隕石がこの船の付近を通り過ぎるらしいぞ」
ブホッ。俺は勢いよく口の中のものを吐き出す。ルイとコドは目をまん丸とさせ「何やってんだよ」と慌てていた。
「あと、数分!?」
「あぁ。計算だとあと数分だな」
「マジかよ!?」
「なんでそんなに驚いてんだよ?」
コドが肩を竦めた。あと数分の命だというのに、彼はのんびりと不味い飯を食っている。
────彼らは知らないのだ。自分たちが死ぬ運命を。
そう考えると寒気がした。
「……ケイトさん? 大丈夫ですか?」
ルイが心配そうに声をかける。いつの間にか額に滲んでいた汗を指先で拭う彼。そんなルイの手を掴んだ。
「ルイ。これが最後かもしれない」
「え……? なんの話……」
「ルイ。好きだ。今までも、これからも」
「……け、ケイトさん……」
瞬間、食堂内にサイレンが響き渡る。劈くような音に耳を塞いだ。驚いたのか、ルイが身を強張らせた。
────ついに来た!
きっと宇宙船に隕石が衝突したんだ。俺はルイを庇い、抱きしめる。その警告音に彼も驚いているのか、目を白黒とさせた。
「こ、これは一体……?」
「なんだ?」
コドとルイの声が同時に聞こえた。途端に、音が鳴り止む。不思議に思い、顔を上げた。抱きかかえていたルイを離し、辺りをキョロキョロと見渡した。
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