永遠に君推し

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命短し恋せよ男子

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「えぇ!?」

 俺は鼓膜が破れんほどの声を漏らす。パッと目を彼女に向けると、複雑そうな、しかし奇妙なものに向ける眼差しで俺たちを見ていた。
 こんな美しい許嫁がいるとは知らなかった……と思う反面、そんな許嫁にこんな場面を見られて恥ずかしささえ覚える。彼女からしてみたら、許婿が執事にメイド服を着せて鼻の下を伸ばしているのだ。恐ろしいやら不気味やらで頭の中が混乱しているだろう。
 俺が察する通りで彼女は藍色の瞳を彷徨わせた。やがて落ち着いたのか、口を開く。

「やはり、私のケイト様に手を出していたのね……この泥棒猫!」
「うわすごい、昼ドラ以外で聞くの初めてだ」
「申し訳ございません……でも、僕も本気なんです。ケイト様のことが、好きなんです」
「うわすごい、昼ドラみたいな展開だ」

 目の前で繰り広げられる演劇のような展開についていけず、戸惑う。

「わ、私だって好きなのに……!」

 大きな瞳からボロボロと涙をこぼす彼女に、同情心が芽生える。しかし、俺にはルイがいる。ゴホンと咳をした。

「すまない、えっと……」
「……イザベラ様です」
「そう、イザベラ」

 ルイが呆れた様子で名前を耳打ちする。

「俺は、君とは結婚できない。何故なら、俺にはルイがいるからだ」

 イザベラがショックを受けた顔をした。正直、これは俺が全面的に悪い。いくら許嫁がいると知らなかったとしても、俺は浮気をした立場だ。
 不意に、彼女が髪へ手を伸ばす。金髪を一つに束ねていた彼女は、髪飾りをスッと外した。同時に、艶やかな髪がさらりと肩へ落ちる。

「……死ね」
「え!?」
「私のものにならないなら死ね!」

 髪飾りを手に持ち、イザベラがこちらへ走ってきた。キラリと輝く尖ったそれに「あ、刺されたら死ぬな」と容易に想像できる。
 俺に従順な美男子と、俺のことを愛している過激派美女────こんなハーレムな夢を見るなんて、俺は恋愛モノの創作物に影響を受けすぎたのかもしれない。
 そんなどうでもいいことを考えているとルイが俺を庇うように身を翻した。
 ────ルイが、死ぬ。
 そう考えた途端、彼を突き飛ばしていた。同時に、腹部にジワリと熱が走る。脳の奥を突き抜けるような痛みが支配し、息が上がった。ガクガクと足が震えだす。

「け、ケイト様!」

 ルイが叫んだ。歪んだ視界の中、彼に視線を投げる。床に倒れた彼が、泣きそうな瞳でこちらを見ていた。

「うそ、うそ、ごめんなさい、私……わたし……」

 刺した本人であるイザベラは体を震わせ、一歩後ろへ退いた。彼女の手は赤色に染まっている。腹部へ視線を投げると、先ほど彼女が持っていた髪飾りが刺さっていた。それも深く。花飾りが、場に似合わない輝きを放っている。「こんなつもりじゃ……」。イザベラが踵を返し、部屋から立ち去った。あぁ、彼女に きちんと謝ることができなかった。そんな後悔が脳裏をよぎる。そのまま、ぐらりとその場に倒れた。

「ケイト様!」

 すぐさま、ルイが駆け寄った。俺の体を抱き上げ、傷口に手を当てている。「どうして僕のことを突き飛ばしたんですか……!」と悔しそうに顔を歪めていた。

「ルイ」
「ケイト様、喋らないでください。すぐに、すぐに人を呼んで……」
「待て、ルイ」

 口内に血の味が滲む。ルイに伸ばした指先が痙攣した。俺の言葉に献身的に耳を傾けるルイの頬を撫でる。

「ルイ。お前に頼みたいことがある」

 俺はこの場で死ぬ。そして、この夢は覚めるのだ。だからこそ、彼に頼みたいことがあった。ルイが「なんなりと」と今にも泣き出しそうな顔で顔を覗き込む。

「萌え萌えキュンと、言ってくれ」
「……は?」

 ルイは予想外の言葉に、間を置いて声を漏らす。「それは、遺言ですか?」と問われ「ある意味、遺言だ」と続けた。

「そう言ってくれたら、悔いなく死ねる……頼むよ、ルイ」

 弱々しく呟く俺に、ルイが意を決したように言葉を紡ぐ。

「も、もえもえ、きゅん……?」
「萌えー!」

 俺はそのまま絶命した。
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