永遠に君推し

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命短し恋せよ男子

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「好きだ、ルイ」

 喋るたびにゴポゴポと口から血が吹き出し、ルイの顔を汚した。彼の肩に置いた手が震え出す。徐々に力をなくしていく指先が、縋るような形で彼の服を掴んだ。貴族が身に纏うその生地は、俺のような使用人が着ている服とは比べ物にならないほど滑らかだ。

「よかった。お前を、守れて……」
「き、君は誰なんだい?」

 いきなり愛の告白をされたルイは目をまんまるとさせている。状況が理解できていない彼は、床の上に倒れている刺客と俺を交互に見つめた。やがて、腹にできた真横の切れ目を指差し、悲鳴に似た声をあげる。

「だ、誰か、誰か来てくれ! 負傷者だ!」
「ルイ。落ち着いてくれ」

 俺は極めて冷静な声を出す。その度に喉がひゅうひゅうなるし、口内に溜まる血のせいでうまく喋れない。呼吸をしたら腹にあいた切れ目からどぽりと体液が溢れた。自分でもわかるほど、体が冷えていく。「落ち着けるわけないだろう」。ルイは顔面蒼白という言葉に似合の顔色で俺を抱き寄せた。

「喋るな。喋ってはいけない。今すぐに、この屋敷にいる救護兵が来る。だから────」
「ルイ……! 好きだ……!」

 ルイに抱き寄せられ、引いていた体温が上昇する。上がらない腕を必死に奮い立たせ、彼の背中に手を伸ばす。「さっきから、君が何を言っているかわからない。そもそも、彼は一体誰なんだ? 君も一体、何者なんだ。何がなんだか……」。ルイは困惑していた。それもそうだろう。床には自分の暗殺を目論んでいた内通者が血を流して倒れていて、目の前には話したこともない使用人が腹に穴を開けて、必死の形相で告白しているのだ。

「好きだ、ルイ。ずっと、ずっと。永遠に好きだ」
「な、何を言っているのかさっぱりだが、とにかく止血を……」
「次の世界でも、好きだ。ルイ」

 汗が滲んだ彼の頬を、熱が帯びない手で撫でる。目元を親指で拭いながら、ルイの唇にキスをした。
 瞬間、目の前が真っ白になる。まるで体が粒子になったように散り、意識が遠のいた。



 目が覚める。勢いよく体を起こそうとした俺は、ズキンと刺すような頭痛に顔を顰め、もう一度その体を寝かせる。腹へ手を伸ばす。先ほどまでいた世界の香りが、いまだにそこに残っていた。焼けるような痛みを思い出し、眉を顰め天井を見上げた。
 ────さっきの世界線は、ファンタジー風味だったな。
 瞼を閉じ、凛々しいルイを思い出す。彼は由緒正しき貴族だった。俺は彼に支えるただの使用人。
 ────ルイを守れて、良かった。
 貴族であるルイを暗殺しようと目論んだ男から、守ることができたことに安堵の息を漏らす。俺はどうなっても構わない。ただ彼を守れたら、それで良いのだ。
 ────今回は、どの世界線だ?
 俺は天井を見上げる。真っ白な天井は陶器のようにまろく、シミひとつない。滑らかなシーツは、寝ていることに気が引けるほど綺麗だ。かかっていたブランケットを剥がし、体を起こす。緩やかなTシャツは、これまた白く、目眩を覚える。
 室内を見渡す。そこもまた白く、苛立ちさえ覚えた。痛む頭をなんとか動かし、ぐるりと眼球を動かす。部屋の隅に椅子がひとつ。壁には時計のようなものはない。洒落た家具は置かれておらず、唯一色があるとすれば、窓を遮っているグレーのカーテンだ。どうやら、見る限り現代に近いらしい。色んな時代やシチュエーションに遭遇したが、やはり現代だと気分が落ち着く。
 ここは一体、何処なんだろう。ベッドから身を乗り出しカーテンへ手を伸ばした。少し硬めの素材で出来たそれを勢いよく開ける。

「……こういうパターンもあるのか」

 窓の外に見える宇宙と、遠くに見える黒ずんだ地球をぼんやりと眺め、俺は愕然とひとりごちた。
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