幼虫の育て方

中頭かなり

文字の大きさ
上 下
7 / 28
スニロの話

7

しおりを挟む


 次の日、研究室に入るとノルの姿がなかった。名を呼びながら彼を探す。ぐるりと辺りを見渡し、お気に入りの木を見上げたり、部屋の隅で丸まっていないかと目を凝らした。
 そこで、あることに気がつく。もしかしたらノルは……。
 忙しなく探し続けていると、塊を発見した。木にぶら下がったように体を密着させているその姿は、まごう事なき蛹の姿をしたノルだった。急いで彼の元へ駆け寄り、手を添える。ドクドクと脈打つそれは、蛹化になってまだ時間が浅いのだろう。そっと頬を寄せ、抱きついてみる。頑張れとひとりごち、体へキスをした。



 監視室の中へ向かうとカイデンがこちらへ視線を投げる。お疲れ様と言い合い、背伸びをした。コーヒー淹れてやろうか? とカイデンに珍しく声をかけられ、頷いた。椅子に腰を下ろし、画面へ目を向ける。様々な幼虫が蠢いてる場面が流れている中、蛹と化したノルの姿が確認できた。

「ほい」

 渡されたマグカップを受け取り、カイデンに礼を言う。彼は椅子に腰掛け、ゆらゆらと揺らした。その度に回転椅子が軋む。

「……お前の幼虫、蛹になったんだなぁ」

 画面を見つめるカイデンがボソリと呟く。気持ちわる、と呟く彼に思わず笑ってしまった。

「意外と肌触りが良くて、気持ちいいよ? 触りに行く?」
「嫌だよ」

 ゲェ、と舌を出して肩を竦めるカイデンに笑ってしまう。彼はとにかく研究対象が嫌いだ。びっくりするほど毛嫌いしている。接したら好きになるかもよ? と促してみてもカイデンは首を横に振るだけだ。

「もう時期、お別れだなぁ。寂しい」
「嘘だろ。俺なら泣いて喜ぶけどな」

 でも、お前はあいつのこと好きだもんなぁと呟くカイデンに深く頷く。
 彼ら巨大虫たちは、成長するとここではない別の箇所へ移動し、そこで監視される。そのため、研究員たちは幼虫が成虫になると別れを告げなければいけなくなるのだ。
ノルが綺麗な蝶になって羽ばたいていく姿を想像し、頬が緩むと同時に親離れする彼を引き止めたい気持ちもある。

「あ、そういえばフィンの幼虫もこの間、蛹から成虫になってたなぁ」
「そうだったね。綺麗な蜂だったなぁ」

 フィンとは同じ研究所で働いている人物だ。穏やかな性格と柔らかい目元。ひとつ結びにしたロングの艶やかな淡い金髪を思い出す。
 彼の担当していた蜂は、綺麗な色合いをしたミツバチだった。僕もいつか担当してみたいなぁと頭の隅で思う。

「お前、本当に虫が好きなんだな」

 耽る僕の横顔を見て、カイデンが顔を引き攣らせる。好きに決まってるじゃない、と笑うと彼は、虫のなにがいいんだか、と吐き捨てた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

処理中です...