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スニロの話
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◇
次の日、研究室に入るとノルの姿がなかった。名を呼びながら彼を探す。ぐるりと辺りを見渡し、お気に入りの木を見上げたり、部屋の隅で丸まっていないかと目を凝らした。
そこで、あることに気がつく。もしかしたらノルは……。
忙しなく探し続けていると、塊を発見した。木にぶら下がったように体を密着させているその姿は、まごう事なき蛹の姿をしたノルだった。急いで彼の元へ駆け寄り、手を添える。ドクドクと脈打つそれは、蛹化になってまだ時間が浅いのだろう。そっと頬を寄せ、抱きついてみる。頑張れとひとりごち、体へキスをした。
監視室の中へ向かうとカイデンがこちらへ視線を投げる。お疲れ様と言い合い、背伸びをした。コーヒー淹れてやろうか? とカイデンに珍しく声をかけられ、頷いた。椅子に腰を下ろし、画面へ目を向ける。様々な幼虫が蠢いてる場面が流れている中、蛹と化したノルの姿が確認できた。
「ほい」
渡されたマグカップを受け取り、カイデンに礼を言う。彼は椅子に腰掛け、ゆらゆらと揺らした。その度に回転椅子が軋む。
「……お前の幼虫、蛹になったんだなぁ」
画面を見つめるカイデンがボソリと呟く。気持ちわる、と呟く彼に思わず笑ってしまった。
「意外と肌触りが良くて、気持ちいいよ? 触りに行く?」
「嫌だよ」
ゲェ、と舌を出して肩を竦めるカイデンに笑ってしまう。彼はとにかく研究対象が嫌いだ。びっくりするほど毛嫌いしている。接したら好きになるかもよ? と促してみてもカイデンは首を横に振るだけだ。
「もう時期、お別れだなぁ。寂しい」
「嘘だろ。俺なら泣いて喜ぶけどな」
でも、お前はあいつのこと好きだもんなぁと呟くカイデンに深く頷く。
彼ら巨大虫たちは、成長するとここではない別の箇所へ移動し、そこで監視される。そのため、研究員たちは幼虫が成虫になると別れを告げなければいけなくなるのだ。
ノルが綺麗な蝶になって羽ばたいていく姿を想像し、頬が緩むと同時に親離れする彼を引き止めたい気持ちもある。
「あ、そういえばフィンの幼虫もこの間、蛹から成虫になってたなぁ」
「そうだったね。綺麗な蜂だったなぁ」
フィンとは同じ研究所で働いている人物だ。穏やかな性格と柔らかい目元。ひとつ結びにしたロングの艶やかな淡い金髪を思い出す。
彼の担当していた蜂は、綺麗な色合いをしたミツバチだった。僕もいつか担当してみたいなぁと頭の隅で思う。
「お前、本当に虫が好きなんだな」
耽る僕の横顔を見て、カイデンが顔を引き攣らせる。好きに決まってるじゃない、と笑うと彼は、虫のなにがいいんだか、と吐き捨てた。
次の日、研究室に入るとノルの姿がなかった。名を呼びながら彼を探す。ぐるりと辺りを見渡し、お気に入りの木を見上げたり、部屋の隅で丸まっていないかと目を凝らした。
そこで、あることに気がつく。もしかしたらノルは……。
忙しなく探し続けていると、塊を発見した。木にぶら下がったように体を密着させているその姿は、まごう事なき蛹の姿をしたノルだった。急いで彼の元へ駆け寄り、手を添える。ドクドクと脈打つそれは、蛹化になってまだ時間が浅いのだろう。そっと頬を寄せ、抱きついてみる。頑張れとひとりごち、体へキスをした。
監視室の中へ向かうとカイデンがこちらへ視線を投げる。お疲れ様と言い合い、背伸びをした。コーヒー淹れてやろうか? とカイデンに珍しく声をかけられ、頷いた。椅子に腰を下ろし、画面へ目を向ける。様々な幼虫が蠢いてる場面が流れている中、蛹と化したノルの姿が確認できた。
「ほい」
渡されたマグカップを受け取り、カイデンに礼を言う。彼は椅子に腰掛け、ゆらゆらと揺らした。その度に回転椅子が軋む。
「……お前の幼虫、蛹になったんだなぁ」
画面を見つめるカイデンがボソリと呟く。気持ちわる、と呟く彼に思わず笑ってしまった。
「意外と肌触りが良くて、気持ちいいよ? 触りに行く?」
「嫌だよ」
ゲェ、と舌を出して肩を竦めるカイデンに笑ってしまう。彼はとにかく研究対象が嫌いだ。びっくりするほど毛嫌いしている。接したら好きになるかもよ? と促してみてもカイデンは首を横に振るだけだ。
「もう時期、お別れだなぁ。寂しい」
「嘘だろ。俺なら泣いて喜ぶけどな」
でも、お前はあいつのこと好きだもんなぁと呟くカイデンに深く頷く。
彼ら巨大虫たちは、成長するとここではない別の箇所へ移動し、そこで監視される。そのため、研究員たちは幼虫が成虫になると別れを告げなければいけなくなるのだ。
ノルが綺麗な蝶になって羽ばたいていく姿を想像し、頬が緩むと同時に親離れする彼を引き止めたい気持ちもある。
「あ、そういえばフィンの幼虫もこの間、蛹から成虫になってたなぁ」
「そうだったね。綺麗な蜂だったなぁ」
フィンとは同じ研究所で働いている人物だ。穏やかな性格と柔らかい目元。ひとつ結びにしたロングの艶やかな淡い金髪を思い出す。
彼の担当していた蜂は、綺麗な色合いをしたミツバチだった。僕もいつか担当してみたいなぁと頭の隅で思う。
「お前、本当に虫が好きなんだな」
耽る僕の横顔を見て、カイデンが顔を引き攣らせる。好きに決まってるじゃない、と笑うと彼は、虫のなにがいいんだか、と吐き捨てた。
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