上 下
9 / 29

9

しおりを挟む


「いらっしゃい」

 目を細め、穏やかな笑みで僕を出迎えた秋斗。そんな彼に導かれるように、玄関を潜り抜けた。熱した外の世界とは裏腹に、家の中はひんやりとしている。
 久しぶりに入った木下家は、あまり変わっている気配がなかった。変わった点があるとすれば、玄関先に並べてある秋斗のスニーカーが一回りも二回りも大きなサイズになっているという点だろうか。
 ドアをゆっくりと閉めると外との世界が遮断され、玄関先が二人きりの空間になる。外からは蝉の声と、家の前を通り過ぎる車の音がかすかに聞こえた。

「来てくれたんだな」

 サンダルを脱ぎながら頷く。家の中は耳鳴りがするほど静かだ。
 彼ごしに、廊下の先にある扉へ視線を遣る。ドアについているガラスから中が見えたが、人の気配は無い。

「……一人?」
「父さんは仕事。母さんはパート」

 そっか、とひとりごちた僕の手首を彼が掴んだ。その手のひらは熱く、湿っている。力強さに思わず眉が歪んだ。そのまま引き摺られるように二階へ通じる階段を歩む。登った先にある廊下の左側。薄茶色のドアの中に入る。
 中は昔と違い、ガラリと変わっていた。ベッドシーツはキャラものから無地の紺色に変わっているし、学習机は無くなっていて、シンプルな机に変わっていた。壁には額縁に入った賞状が飾られている。

「……すごいね、柔道で優勝したの?」
「そんなとこ」

 飾りたくないけど、母さんが額縁に入れてくれたからせっかくだしな。と、彼が肩を竦める。秋斗はおもむろにベッドの縁へ腰を下ろした。自分の隣を二回ほど叩き、僕に座るよう促す。
 彼の隣に渋々腰を下ろし、唇を舐めた。嫌な沈黙が二人の間を支配する。不意に、秋斗が僕の髪を撫でた。耳にかけるように指を動かす。その一つ一つの動作に、汗が滲む。

「あ……の……」
「俺さ、ずっと八雲くんのこと好きだったんだよ」

 突然の告白に心臓が跳ねた。秋斗へ視線を投げることができないまま、膝の上に乗った自分の手を穴が開くほど見つめる。

「……八雲くん」
「なに」
「お尻使わせてくれない?」

 反射的に僕は秋斗を見た。彼はなんてことないような涼しい表情で微笑んでいる。駄目? と首を傾げられ、言葉が詰まった。
 ダメに決まっているだろう。そう叫びそうになったが、深呼吸を繰り返す。心を落ち着かせ、平静を装った。

「そ、それは……」
「なに?」
「それはダメだよ、秋斗くん……」
「なんで?」
「ダメなものはダメ」
「じゃあ、バラしてもいい?」

 平気な顔で僕を脅す彼に恐怖心さえ覚える。しかし、滲む汗と上がる呼吸は、それだけじゃないような気がした。何故か、興奮している自分もいる。その事実に、自身を叱咤したくなる。昨日、秋斗にキスをされている最中、そして家に来るようにと脅された時の感情が沸々と湧き上がる。ドキドキと胸が高鳴り、体が火照った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

柔道部

むちむちボディ
BL
とある高校の柔道部で起こる秘め事について書いてみます。

肌が白くて女の子みたいに綺麗な先輩。本当におしっこするのか気になり過ぎて…?

こじらせた処女
BL
槍本シュン(やりもとしゅん)の所属している部活、機器操作部は2つ上の先輩、白井瑞稀(しらいみずき)しか居ない。 自分より身長の高い大男のはずなのに、足の先まで綺麗な先輩。彼が近くに来ると、何故か落ち着かない槍本は、これが何なのか分からないでいた。 ある日の冬、大雪で帰れなくなった槍本は、一人暮らしをしている白井の家に泊まることになる。帰り道、おしっこしたいと呟く白井に、本当にトイレするのかと何故か疑問に思ってしまい…?

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

思春期のボーイズラブ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:幼馴染の二人の男の子に愛が芽生える  

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

勝ち組の定義

鳴海
BL
北村には大学時代から付き合いのある後輩がいる。 この後輩、石原は女にモテるくせに、なぜかいつも長く続かずフラれてしまう。 そして、フラれるたびに北村を呼び出し、愚痴や泣き言を聞かせてくるのだ。 そんな北村は今日もまた石原から呼び出され、女の愚痴を聞かされていたのだが、 これまで思っていても気を使って言ってこなかったことの数々について 疲れていたせいで我慢ができず、洗いざらい言ってやることにしたのだった。

騎士団長が民衆に見世物として公開プレイされてしまった

ミクリ21 (新)
BL
騎士団長が公開プレイされる話。

処理中です...