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「可愛い声、出すんだな」

 スッゲー興奮する。耳元でそう言われた瞬間、血が沸騰したかのように熱くなり、体が火照った。額から伝う汗がゆるりと流れ、カーペットに染みる。はぁはぁと短く呼吸を繰り返し、なんとか脈打つ心臓を宥めようとした。
 けれど、体がいうことをきかない。ちゅっと首筋に吸いつかれるたびに、目の前が霞む。

「あぅ、あ……っ、あきと、く……」
「八雲? 誰か来てるの?」

 その声が一階から響いた。同時に、ドタドタと階段を上がる音が聞こえる。瞬発的に秋斗が体を離す。僕も急いで体を起こした。
 ギィと部屋のドアが開き、母がひょこっと顔を出す。秋斗の姿を目にして、パァと表情を明るくさせた。

「あら、秋斗くん。いらっしゃい」
「お邪魔してます」
「いいのよ、気にしないで。って、あれ? 八雲、なんか顔が赤いわよ。どうしたの?」

 そう言われ、ビクンと体を揺らす。なんでもない、と答え額の汗を拭った。

「そう……あ、秋斗くん。今日はウチでご飯食べて行く?」
「いえ、今日は遠慮しときます。もうすぐ、帰りますので」
「あら。じゃあまた今度ね」

 うふふ、と微笑みながら秋斗に手を振る母が姿を消す。僕らの間に、沈黙が流れた。秋斗がゆっくりと近づき、目を見据える。

「俺、もう帰るな」
「あ、うん。わかった……」

 二の腕を掴まれ、グイと引き寄せられる。唇を耳へ寄せ、疼くような低い声で囁いた。

「明日、俺の家に来てくれ……逃げるなよ?」

 心臓がどきんと跳ねた。手のひらに汗が滲み、呼吸が乱れる。体を離した彼が、目を弧にした。

「返事は?」

 そう促され、ひゅっと喉が鳴る。首を何度も振り、わかったと意思表示すると、秋斗が首筋をゆるりと撫でた。

「いい子だ」

 じゃあ俺、もう帰る。またな。そう言い、彼は部屋を出て行った。階段を降りる音が聞こえ、やがて玄関のドアが閉まる。がちゃんという無機質な音を聞きながら、僕は糸が切れた人形のように脱力した。
 ────なんだ、あれ。
 隣に住まう少年に襲われた挙句、脅された。
 そしてなんと、その事実に僕は恐ろしいほど性的興奮を覚えていた。
 ────嘘だろ。
 雄として何倍も優れているであろう彼に支配されたいと思ってしまった。
 未だに跳ねている心臓を手のひらで抑える。何度も彼の低い声が脳内をリフレインした。
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