7 / 29
7
しおりを挟む
口に含んでいた炭酸飲料を思い切り吐き出しそうになった。それを手の甲で抑え、拭う。パッと彼を見た。口角を上げ、目を細ませた秋斗が視界に入り、何故かぞくっと背筋に悪寒が走った。
彼は大人びた笑みを浮かべている。僕は何もいえないまま固まり、えっと……と短く言葉を漏らした。
「あの日のこと、忘れてないよな?」
「あ……の、その……えーっと……」
吃りながら目を泳がせる。クーラーの風を送る音が、二人の間に漂った。
「……わ、忘れて、ない」
情けない声が震える喉の奥から出た。俺も、と一言返されて、居心地が悪くなる。
不意に、肩に手が置かれた。その熱さに目を見開く。あの、秋斗くん。そう言う前に、彼が強引に口付けをした。強張った体がいう事を聞かない。早く離れなければと思う反面、肩を掴む手の力強さに眩暈がする。
ぬるりとした舌が唇を裂き、口内へ侵入しようとした。そこで我に返り、彼の胸板に手を置き、押し返そうと藻掻く。
しかし、秋斗の力には敵わなかった。逆に強引に抱き寄せられ、そのまま腕に収まってしまう。
「ん、ング、ん……! んー!」
顔をずらし、彼を避けようとしたが頬を掴まれ、さらに奥深くに舌を捩じ込まれる。じゅるりと唾液を吸われ、舌を絡められる。薄い粘膜を集中的に刺激され、頭の中が蕩けたようにぼーっとしてきた。酸欠も相まって、ふわふわとした思考に支配される。抵抗していた手に力が入らなくなり、縋るように彼の胸元に手を置いた。
何度も角度を変え、愛撫するように唇を寄せる秋斗が、やがて口を離し近距離で僕を見つめた。涙目の視界に映る彼は頬が染まり、額に汗が滲んでいた。
「八雲くん、俺……」
もう一度、唇を寄せようとした秋斗の口に手を置く。ギリギリのところで止められた口付けに、彼はムッとした表情を見せた。
「だめ、ダメだよ秋斗くん。これはダメ」
「なんで? 一回しちゃったんだから、二回も三回も変わらないだろ?」
これ退けてくれ、と言いながら強引に手を引き剥がす彼に、焦りが滲む。やめて、いやだ。鋭く叫んだ声に、秋斗が口角を上げた。
「……いいよ、別に。家を飛び出して、叫んで、近所に助けでも求めたらいい。そしたら俺が、八雲くんの悪事を暴くだけだ」
「あ、悪事だなんて、そんな……」
「だって、そうだろ? 当時、小学生だった俺とキスをしたのは八雲くんだ。当然それはいけないことだよな? だってあの時、八雲くんは高校生だった。小学生と高校生がキスって、アウトだろ」
意地悪な笑みを浮かべた秋斗が、肩を揺らし笑いながら耳元へ近づいた。どうする? それでも抵抗する? 声変わりをした低い声音が耳朶を掠める。
僕の心臓は張り裂けんばかりに脈を打っていた。全身の毛穴から汗が滲み、クーラーがきいているにも関わらず、暑くて仕方がない。
固まった僕を見つめた秋斗がゆっくりと押し倒した。手首を固定され、身動きができないまま彼を見上げる。そのまま覆い被さり、首筋へ舌を這わせた。
────ヤバい。
僕は彼に脅されて、襲われているにも関わらず異常なまでに興奮していた。手首を掴む、その力に腹の奥底が疼く。のしかかった体は重く、身動きができない。やめて、と小さく抵抗してみるが、秋斗はいうことを聞いてくれなかった。
────これ、ヤバい。
ダメだよ、秋斗くん。そう言わなければいけないのに、喉の奥から出るのは拙い喘ぎ声だけだ。
彼は大人びた笑みを浮かべている。僕は何もいえないまま固まり、えっと……と短く言葉を漏らした。
「あの日のこと、忘れてないよな?」
「あ……の、その……えーっと……」
吃りながら目を泳がせる。クーラーの風を送る音が、二人の間に漂った。
「……わ、忘れて、ない」
情けない声が震える喉の奥から出た。俺も、と一言返されて、居心地が悪くなる。
不意に、肩に手が置かれた。その熱さに目を見開く。あの、秋斗くん。そう言う前に、彼が強引に口付けをした。強張った体がいう事を聞かない。早く離れなければと思う反面、肩を掴む手の力強さに眩暈がする。
ぬるりとした舌が唇を裂き、口内へ侵入しようとした。そこで我に返り、彼の胸板に手を置き、押し返そうと藻掻く。
しかし、秋斗の力には敵わなかった。逆に強引に抱き寄せられ、そのまま腕に収まってしまう。
「ん、ング、ん……! んー!」
顔をずらし、彼を避けようとしたが頬を掴まれ、さらに奥深くに舌を捩じ込まれる。じゅるりと唾液を吸われ、舌を絡められる。薄い粘膜を集中的に刺激され、頭の中が蕩けたようにぼーっとしてきた。酸欠も相まって、ふわふわとした思考に支配される。抵抗していた手に力が入らなくなり、縋るように彼の胸元に手を置いた。
何度も角度を変え、愛撫するように唇を寄せる秋斗が、やがて口を離し近距離で僕を見つめた。涙目の視界に映る彼は頬が染まり、額に汗が滲んでいた。
「八雲くん、俺……」
もう一度、唇を寄せようとした秋斗の口に手を置く。ギリギリのところで止められた口付けに、彼はムッとした表情を見せた。
「だめ、ダメだよ秋斗くん。これはダメ」
「なんで? 一回しちゃったんだから、二回も三回も変わらないだろ?」
これ退けてくれ、と言いながら強引に手を引き剥がす彼に、焦りが滲む。やめて、いやだ。鋭く叫んだ声に、秋斗が口角を上げた。
「……いいよ、別に。家を飛び出して、叫んで、近所に助けでも求めたらいい。そしたら俺が、八雲くんの悪事を暴くだけだ」
「あ、悪事だなんて、そんな……」
「だって、そうだろ? 当時、小学生だった俺とキスをしたのは八雲くんだ。当然それはいけないことだよな? だってあの時、八雲くんは高校生だった。小学生と高校生がキスって、アウトだろ」
意地悪な笑みを浮かべた秋斗が、肩を揺らし笑いながら耳元へ近づいた。どうする? それでも抵抗する? 声変わりをした低い声音が耳朶を掠める。
僕の心臓は張り裂けんばかりに脈を打っていた。全身の毛穴から汗が滲み、クーラーがきいているにも関わらず、暑くて仕方がない。
固まった僕を見つめた秋斗がゆっくりと押し倒した。手首を固定され、身動きができないまま彼を見上げる。そのまま覆い被さり、首筋へ舌を這わせた。
────ヤバい。
僕は彼に脅されて、襲われているにも関わらず異常なまでに興奮していた。手首を掴む、その力に腹の奥底が疼く。のしかかった体は重く、身動きができない。やめて、と小さく抵抗してみるが、秋斗はいうことを聞いてくれなかった。
────これ、ヤバい。
ダメだよ、秋斗くん。そう言わなければいけないのに、喉の奥から出るのは拙い喘ぎ声だけだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

ポンコツアルファを拾いました。
おもちDX
BL
オメガのほうが優秀な世界。会社を立ち上げたばかりの渚は、しくしく泣いているアルファを拾った。すぐにラットを起こす梨杜は、社員に馬鹿にされながらも渚のそばで一生懸命働く。渚はそんな梨杜が可愛くなってきて……
ポンコツアルファをエリートオメガがヨシヨシする話です。
オメガバースのアルファが『優秀』という部分を、オメガにあげたい!と思いついた世界観。
※特殊設定の現代オメガバースです

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】相談する相手を、間違えました
ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。
自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・
***
執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。
ただ、それだけです。
***
他サイトにも、掲載しています。
てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。
***
エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。
ありがとうございました。
***
閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。
ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*)
***
2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる