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 口に含んでいた炭酸飲料を思い切り吐き出しそうになった。それを手の甲で抑え、拭う。パッと彼を見た。口角を上げ、目を細ませた秋斗が視界に入り、何故かぞくっと背筋に悪寒が走った。
 彼は大人びた笑みを浮かべている。僕は何もいえないまま固まり、えっと……と短く言葉を漏らした。

「あの日のこと、忘れてないよな?」
「あ……の、その……えーっと……」

 吃りながら目を泳がせる。クーラーの風を送る音が、二人の間に漂った。

「……わ、忘れて、ない」

 情けない声が震える喉の奥から出た。俺も、と一言返されて、居心地が悪くなる。
 不意に、肩に手が置かれた。その熱さに目を見開く。あの、秋斗くん。そう言う前に、彼が強引に口付けをした。強張った体がいう事を聞かない。早く離れなければと思う反面、肩を掴む手の力強さに眩暈がする。
 ぬるりとした舌が唇を裂き、口内へ侵入しようとした。そこで我に返り、彼の胸板に手を置き、押し返そうと藻掻く。
 しかし、秋斗の力には敵わなかった。逆に強引に抱き寄せられ、そのまま腕に収まってしまう。

「ん、ング、ん……! んー!」

 顔をずらし、彼を避けようとしたが頬を掴まれ、さらに奥深くに舌を捩じ込まれる。じゅるりと唾液を吸われ、舌を絡められる。薄い粘膜を集中的に刺激され、頭の中が蕩けたようにぼーっとしてきた。酸欠も相まって、ふわふわとした思考に支配される。抵抗していた手に力が入らなくなり、縋るように彼の胸元に手を置いた。
 何度も角度を変え、愛撫するように唇を寄せる秋斗が、やがて口を離し近距離で僕を見つめた。涙目の視界に映る彼は頬が染まり、額に汗が滲んでいた。

「八雲くん、俺……」

 もう一度、唇を寄せようとした秋斗の口に手を置く。ギリギリのところで止められた口付けに、彼はムッとした表情を見せた。

「だめ、ダメだよ秋斗くん。これはダメ」
「なんで? 一回しちゃったんだから、二回も三回も変わらないだろ?」

 これ退けてくれ、と言いながら強引に手を引き剥がす彼に、焦りが滲む。やめて、いやだ。鋭く叫んだ声に、秋斗が口角を上げた。

「……いいよ、別に。家を飛び出して、叫んで、近所に助けでも求めたらいい。そしたら俺が、八雲くんの悪事を暴くだけだ」
「あ、悪事だなんて、そんな……」
「だって、そうだろ? 当時、小学生だった俺とキスをしたのは八雲くんだ。当然それはいけないことだよな?  だってあの時、八雲くんは高校生だった。小学生と高校生がキスって、アウトだろ」

 意地悪な笑みを浮かべた秋斗が、肩を揺らし笑いながら耳元へ近づいた。どうする? それでも抵抗する? 声変わりをした低い声音が耳朶を掠める。
 僕の心臓は張り裂けんばかりに脈を打っていた。全身の毛穴から汗が滲み、クーラーがきいているにも関わらず、暑くて仕方がない。
 固まった僕を見つめた秋斗がゆっくりと押し倒した。手首を固定され、身動きができないまま彼を見上げる。そのまま覆い被さり、首筋へ舌を這わせた。
 ────ヤバい。
 僕は彼に脅されて、襲われているにも関わらず異常なまでに興奮していた。手首を掴む、その力に腹の奥底が疼く。のしかかった体は重く、身動きができない。やめて、と小さく抵抗してみるが、秋斗はいうことを聞いてくれなかった。
 ────これ、ヤバい。
 ダメだよ、秋斗くん。そう言わなければいけないのに、喉の奥から出るのは拙い喘ぎ声だけだ。
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