ナイくんの悲劇

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「ひっ、ごめ、ごめんなざ……もうにげません゛、にげません、からぁ゛……!」

 泣き叫び懇願すると、触手がするりと退いた。やがて、頬を撫でられる。慰める仕草に驚き、後ろを振り向いた。ギョロリとした瞳が僕を見つめている。

「あ、の……」

 言葉を発しようとした瞬間、口内に触手が侵入する。入り込んだそれは歯列を撫で、舌を引っ張る。口いっぱいを弾力のある肉が埋め尽くし、呼吸がしづらくなる。そのまま喉の奥に侵入し、体が跳ねた。

「お゛……!」

 吐き気が込み上げ、喉がビクビクと痙攣する。脂汗が滲み、涙が溢れた。鼻水と涎が垂れ、指先が震える。
 ────しぬ、しぬ、しぬ!
 収縮する喉の奥で、触手の先端が弾けた。どろりとした何かが直接食道を通り、体内へ流れ込む。咳き込むことさえできずに、胃へおさまった液体の熱さを薄れゆく意識の中で感じる。

「カハッ……ひっ、ひっ、ひっ────」

 途端に体の拘束を解かれ、その場に倒れ込む。

「う゛ぁ……」

 地面に叩きつけられた時に、折れた腕を打ち付けてしまい、痛みで眩暈がした。体に力を入れ、なんとか体勢を立て直そうとした僕の肩を、触手がグイと引き寄せた。仰向けにされ、モンスターと向かい合う。足を動かそうとしたが、しかし。やはり、下半身────というより鼠径部から下が全く動かない。察するに麻痺していて、感覚を失っているのだろう。そういう体液を撒き散らし、人間を困らせているモンスターがいると聞いたことがある。

「わ、っ、えっ……? だ、だめ、何して……っ」

 どうやって彼から逃げようかと模索している最中、触手がベルトを器用に解いた。そのままズボン、そして下着をずらしていく。現れたのはまだ毛も生えそろっていない股間だ。恥ずかしさのあまり全身に汗が滲み、顔が火照る。目の前にいるモンスターはギョロリとした大きな目で、そこをじっとりと眺めていた。

「やめて……ッ、なに、な、っ゛……!?」

 瞬間、ぬるりとした触手が曝け出された太ももに絡み付き、徐々に上へと登り詰める。パニックになり、肩で呼吸を繰り返した。逃げ出すために抵抗したくても、腕は痛いし、足の感覚はない。
 それに、先ほどからなぜか体が火照り、妙に疼く。無理やり飲まされた体液に毒でも仕込まれていたのかもしれないと思うと、涙が出そうになった。
 ────弱ったところを、丸呑みするつもりなのだろうか。それとも、下半身から徐々に……?
 ガクガクと奥歯が鳴る。殺すなら痛くない方法で殺してほしいと願っている自分がいた。その事実に心底絶望する。
 ────だって、こんな状況下で逃げ道なんて……。

「ひゃっ……!」

 甲高い声が洞窟内に響いた。自分でも驚くほど、情けない声だった。同時に、全身をゾクゾクとした快感が駆ける。何事だと視線を下半身へ向けた。
 触手が性器に纏わりついていた。全体を愛撫するように扱くその動きに、腰が浮く。

「ひ、ぅ……! あ゛……!」

 自分で慰めたことは何度かある。けれど、他人に触られたのは初めてだ。
 ────おかしい。
 何かがおかしい。初めての経験だということを差し置いても、普通ではありえないほど体が気怠く、脳の奥がぼんやりとする。指一本も動かせないほどの快感と、力が抜ける痺れが全身を襲った。先ほど飲まされた液体が関係しているに違いないと察する。
 ────飲まされた液体は毒じゃなかった……? じゃあ、あれは麻薬か何か……?
 体を侵す快楽に耐える。グッと唇を噛み締め、地面に爪を立てた。
 ────気持ちがいい。
 様々な触手が性器を愛撫する。ぬるりとした感覚に、視界が歪む。
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