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「あっ」
首筋に吸い付かれ、声が漏れる。痕は付けないで、と言うとシュンが髪の毛を掴んだ。
「なんで抵抗するの? むかつく」
チリチリと鈍い痛みが頭皮から滲む。ふと、手に持った包丁が見えた。
────これで刺せば、僕は解放されるのかな。
ふと、物騒なことが脳裏を過り、慌ててそれを打ち消す。自覚がないほどのストレスを抱えていたのだと確認し、自分が少し怖くなった。
「シュン、大きな声を出さないで。隣に聞こえちゃう」
「……あぁ、越してきたんだ」
リビングの机に置かれた手土産で察したのか、シュンが興味なさげに呟く。
「……じゃあ、俺に逆らわないようにしなきゃダメだね」
フフ、と軽く笑いながら彼が抱きつく。首筋に歯を立てられ、僕は声を殺して耐えた。
◇
「もうしないよ」
弟に組み敷かれ、なるべく彼を怒らせないように声を鎮めてそう言った。ベッドの上に押し倒された僕は、踠きながら拘束を解く。しかし、彼が退く気配は無い。
「なんで?」
「朝も、さっきもしただろ。もう、無理。体が痛い」
風呂上がりの体が、開け放たれた窓から舞い込む夜風で冷える。
「……僕、壊れちゃうよ」
ポツリと呟いた言葉は本心だ。体も心も、疲労困憊である。
シュンはムスッとした表情を崩さない。無理やり寝巻きの襟首を掴み、グイと引き下げる。そのまま鎖骨にかぶりついた。痛い、と短く悲鳴をあげた僕の耳元に熱い吐息がかかる。
「俺たち、恋人同士だろ? いいじゃん、このぐらい……」
そう言われ、悪寒が全身を走った。シュンを見つめる。彼は照れくさそうに唇を歪めていた。
「……違うよ。僕らは兄弟だ」
「兄弟で、恋人同士だろ?」
「違う、違うよ。僕らは────」
鋭い痛みが頬を弾く。声を上げることができなかった。ジンと痛みを残すそこを指先でなぞる。頬を引っ叩かれたのだと気がつき、身が強張った。
シュンが暗い瞳で僕を見下ろしている。瞬発的に逃げ出したくなり、しかしその目に縛られ、動けなかった。
「……やっぱり、母さんが居た時の方が言うこと聞いてくれてたよな、兄ちゃん」
ポツリと呟いたシュンが、僕の髪を撫でる。表情は冷たく、恐怖心を煽られた。
「俺、実家に帰ろうかな」
「ダメ、だめ。シュン、やめてくれ」
震えた声が部屋に響く。指先が冷え、全身に汗が滲んだ。僕の必死な表情を見たシュンが、綻んだ笑みを浮かべる。
「……何か言うことない?」
「え?」
期待に胸を膨らませ、ウキウキとした彼が体を密着させた。上擦った声が、彼の子供っぽさを強調させ、それが不気味だった。
喉の奥から絞り出すように、言葉を漏らす。
「……僕らは、恋人同士だ」
「だろ? 最初から素直にそう言えばいいのに」
叩いてごめんな。シュンが妙に明るい声でそう言い、頬をべろりと舐めた。そのまま、服の中に手が入り込む。彼の手のひらの熱さが皮膚を伝わり、全身へ広がる。
────僕は、抜け出せないのだろうな。
住宅街の一画に建てられた、クリーム色の外壁をした二階建ての一軒家。そこが今まで僕が収監されていた檻だ。けど今は、シュンという檻に閉じ込められている。抜け出したくても抜け出せない、そんな檻に。
「好きだよ、兄ちゃん」
耳元で囁かれ、キツく目を瞑る。甘いその声は脳を這う蛆虫のようで、僕は涙を流した。
首筋に吸い付かれ、声が漏れる。痕は付けないで、と言うとシュンが髪の毛を掴んだ。
「なんで抵抗するの? むかつく」
チリチリと鈍い痛みが頭皮から滲む。ふと、手に持った包丁が見えた。
────これで刺せば、僕は解放されるのかな。
ふと、物騒なことが脳裏を過り、慌ててそれを打ち消す。自覚がないほどのストレスを抱えていたのだと確認し、自分が少し怖くなった。
「シュン、大きな声を出さないで。隣に聞こえちゃう」
「……あぁ、越してきたんだ」
リビングの机に置かれた手土産で察したのか、シュンが興味なさげに呟く。
「……じゃあ、俺に逆らわないようにしなきゃダメだね」
フフ、と軽く笑いながら彼が抱きつく。首筋に歯を立てられ、僕は声を殺して耐えた。
◇
「もうしないよ」
弟に組み敷かれ、なるべく彼を怒らせないように声を鎮めてそう言った。ベッドの上に押し倒された僕は、踠きながら拘束を解く。しかし、彼が退く気配は無い。
「なんで?」
「朝も、さっきもしただろ。もう、無理。体が痛い」
風呂上がりの体が、開け放たれた窓から舞い込む夜風で冷える。
「……僕、壊れちゃうよ」
ポツリと呟いた言葉は本心だ。体も心も、疲労困憊である。
シュンはムスッとした表情を崩さない。無理やり寝巻きの襟首を掴み、グイと引き下げる。そのまま鎖骨にかぶりついた。痛い、と短く悲鳴をあげた僕の耳元に熱い吐息がかかる。
「俺たち、恋人同士だろ? いいじゃん、このぐらい……」
そう言われ、悪寒が全身を走った。シュンを見つめる。彼は照れくさそうに唇を歪めていた。
「……違うよ。僕らは兄弟だ」
「兄弟で、恋人同士だろ?」
「違う、違うよ。僕らは────」
鋭い痛みが頬を弾く。声を上げることができなかった。ジンと痛みを残すそこを指先でなぞる。頬を引っ叩かれたのだと気がつき、身が強張った。
シュンが暗い瞳で僕を見下ろしている。瞬発的に逃げ出したくなり、しかしその目に縛られ、動けなかった。
「……やっぱり、母さんが居た時の方が言うこと聞いてくれてたよな、兄ちゃん」
ポツリと呟いたシュンが、僕の髪を撫でる。表情は冷たく、恐怖心を煽られた。
「俺、実家に帰ろうかな」
「ダメ、だめ。シュン、やめてくれ」
震えた声が部屋に響く。指先が冷え、全身に汗が滲んだ。僕の必死な表情を見たシュンが、綻んだ笑みを浮かべる。
「……何か言うことない?」
「え?」
期待に胸を膨らませ、ウキウキとした彼が体を密着させた。上擦った声が、彼の子供っぽさを強調させ、それが不気味だった。
喉の奥から絞り出すように、言葉を漏らす。
「……僕らは、恋人同士だ」
「だろ? 最初から素直にそう言えばいいのに」
叩いてごめんな。シュンが妙に明るい声でそう言い、頬をべろりと舐めた。そのまま、服の中に手が入り込む。彼の手のひらの熱さが皮膚を伝わり、全身へ広がる。
────僕は、抜け出せないのだろうな。
住宅街の一画に建てられた、クリーム色の外壁をした二階建ての一軒家。そこが今まで僕が収監されていた檻だ。けど今は、シュンという檻に閉じ込められている。抜け出したくても抜け出せない、そんな檻に。
「好きだよ、兄ちゃん」
耳元で囁かれ、キツく目を瞑る。甘いその声は脳を這う蛆虫のようで、僕は涙を流した。
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