小さな檻【完結】

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「あの、すみません。隣に越してきた、大江と申します」

 夕方、チャイムが鳴る。ドアスコープから外を覗くと、黒髪のおとなしそうな女性が立っていた。ドアを開け要件を伺うと、どうやら引っ越してきたらしい。
 そういえば最近、やけに隣が騒がしいなと思っていたがそう言うことか、と腑に落ちた。ニコリと微笑み、彼女が持っている手土産を受け取る。

「わざわざ、すみません。ありがとうございます」

 頭を下げると、彼女も頭を下げた。そそくさと退散する彼女の姿を見届け、手土産をリビングの机へ置く。寝室の壁へ視線を投げ、眉を顰める。
 ────騒音トラブルにならないと良いけど。
 角部屋を選び、隣が空室の部屋に入居し安心していたが、今後は注意しなければいけない。シュンの怒鳴り声や僕の喘ぎ声が外に漏れると面倒なことになりそうだ。
 なるべく静かに生活しようと心に決め、夕食作りへ取りかかる。

「ただいま」

 包丁を持ったと同時に、シュンが帰宅した。おかえり、と言葉を返し、人参に刃を立てる。
 背後に立ったシュンがぎゅうと力強く抱きしめ、僕は声を上げた。

「うわ、危ないよ」
「……なに作ってるの?」
「ミネストローネだよ」

 へぇ、と対して興味なさそうに彼が返した。手伝うことある? と問われ、僕は首を横に振る。その首に歯を立て、シュンが呟いた。

「兄ちゃん、今日も一緒にお風呂入ろ」

 思わず出そうになった溜め息を喉の奥で殺し、鼻から息を吐き出す。弟はその間も服の隙間から手を差し込み、肌を撫でていた。

「……シュン、もうこの年齢で一緒に風呂には入らないよ」
「そんなこと言い出したら、兄弟でセックスはしないよ」

 ごもっともなことを言われ、黙る。

「ねぇ、駄目?」

 甘えた声を上げ、彼が擦り寄ってきた。僕はというと、兄である自身を恋人のように扱うシュンに嫌気が差していた。
 今まで、家の中では彼の暴力性が家族に向いていた。けれど、今はどこか違う。暴力性はあるものの、まるで解放されたかのように僕へ甘えるようになった。
 ────母が抑止欲になっていたのかもしれない。
 肉親である母の存在が消えたことによって、彼の暴走はエスカレートしている。
 そう考えると、やはり二人きりになることは失敗だったかもしれない。
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