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◇
風呂から上がり、自室へ向かおうとした僕の腕をシュンが引っ張る。勢いよく部屋へ引き摺り込まれ、足が縺れた。ベッドへ転がされ、大きな体が覆い被さる。
「母さんとなに話してたの?」
ニヤけ顔の弟に見下ろされ、背筋が凍る。あの会話を聞かれていたのだろうか。しかし、別に彼の逆鱗に触れるような内容ではないはず。
僕は唾液を嚥下し、視線を逸らした。
「は、話してたけど別に対したことじゃない。大学について相談しただけ────」
「へぇ、大学についての相談ね。鎌をかけただけなのに、いいこと知れた」
フゥンと息を漏らし、僕の首筋に鼻を寄せた。風呂上がりの火照った体に冷たい唇が当たる。ビクンと体を揺らすと、耳元で彼が笑った。
「出てくの? 家」
「出て行かないよ」
反射的に返事をした僕を見て、シュンは心底嬉しそうに目を弧にした。
「だよなぁ。この家から兄ちゃんが居なくなったら、母さんが危ないもんな」
しみじみと呟きながら、シュンが上半身を起こす。蛍光灯の元で、彼の黒髪が輝いた。
「で、兄ちゃんの本心はどうなの? 出ていきたいの?」
「……僕は────」
言葉を詰まらせる。出ていきたい。この檻から抜け出して自由に生きてみたい、何にも縛られずに生きてみたい。
けど、それは無理だ。弟と母がいる限り、僕には無理なのだ。
「出ていきたいよ」
「あはは、だろうね」
消えそうな声へ上書きするように、肩を揺らし笑うシュン。その表情は無垢な少年のように見えた。
「でもさぁ、そんなことしたらダメだって分かるよな? 母さんを見殺しになんて、できないもんな?」
追い詰めるように問う彼から顔を背ける。手首を掴まれ、ベッドに押さえつけられた。力が篭り、鈍い痛みが全身に広がる。
「わかってる、この家から……お前から逃げないよ。逃げないから……」
「いい子だね」
手首が解放される。皮膚に残った痛みがチリチリと脳の裏を焦がす。頬にキスを落とされ、目を瞑った。
「兄ちゃん。俺にいい考えがあるんだけど」
「……なに?」
落ち着いた声音でシュンが呟く。その声音は僕に意地悪をする時や、何かしらの理由をつけて折檻したがる時のものだった。
僕は彼からの言葉を待つ。形のいい唇が弧を描き、耳元へ近づいた。
風呂から上がり、自室へ向かおうとした僕の腕をシュンが引っ張る。勢いよく部屋へ引き摺り込まれ、足が縺れた。ベッドへ転がされ、大きな体が覆い被さる。
「母さんとなに話してたの?」
ニヤけ顔の弟に見下ろされ、背筋が凍る。あの会話を聞かれていたのだろうか。しかし、別に彼の逆鱗に触れるような内容ではないはず。
僕は唾液を嚥下し、視線を逸らした。
「は、話してたけど別に対したことじゃない。大学について相談しただけ────」
「へぇ、大学についての相談ね。鎌をかけただけなのに、いいこと知れた」
フゥンと息を漏らし、僕の首筋に鼻を寄せた。風呂上がりの火照った体に冷たい唇が当たる。ビクンと体を揺らすと、耳元で彼が笑った。
「出てくの? 家」
「出て行かないよ」
反射的に返事をした僕を見て、シュンは心底嬉しそうに目を弧にした。
「だよなぁ。この家から兄ちゃんが居なくなったら、母さんが危ないもんな」
しみじみと呟きながら、シュンが上半身を起こす。蛍光灯の元で、彼の黒髪が輝いた。
「で、兄ちゃんの本心はどうなの? 出ていきたいの?」
「……僕は────」
言葉を詰まらせる。出ていきたい。この檻から抜け出して自由に生きてみたい、何にも縛られずに生きてみたい。
けど、それは無理だ。弟と母がいる限り、僕には無理なのだ。
「出ていきたいよ」
「あはは、だろうね」
消えそうな声へ上書きするように、肩を揺らし笑うシュン。その表情は無垢な少年のように見えた。
「でもさぁ、そんなことしたらダメだって分かるよな? 母さんを見殺しになんて、できないもんな?」
追い詰めるように問う彼から顔を背ける。手首を掴まれ、ベッドに押さえつけられた。力が篭り、鈍い痛みが全身に広がる。
「わかってる、この家から……お前から逃げないよ。逃げないから……」
「いい子だね」
手首が解放される。皮膚に残った痛みがチリチリと脳の裏を焦がす。頬にキスを落とされ、目を瞑った。
「兄ちゃん。俺にいい考えがあるんだけど」
「……なに?」
落ち着いた声音でシュンが呟く。その声音は僕に意地悪をする時や、何かしらの理由をつけて折檻したがる時のものだった。
僕は彼からの言葉を待つ。形のいい唇が弧を描き、耳元へ近づいた。
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