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◇
「ごちそうさま」
ボソリとそう呟き、弟がリビングから姿を消す。階段の軋む音が消え、ドアの閉まる音を確認した僕と母は息を漏らした。
「……ユウキくん、いつもごめんね」
俯き加減の母が箸を動かす手を止めてそう呟く。僕は慌てて口を開いた。
「な、なんの話?」
「……いつも、シュンくんを宥めてくれているでしょ?」
母の目が僕を射る。僕とシュンの関係性を悟られているようで、背中に汗が滲んだ。
────いや、しかし。鈍感な母だ。バレているわけない。
ここで妙な態度を取ったら、それこそ自白しているようなものだと思い、兄として当然のことをしているまでだよ、とやけに明るく答えた。
彼女は辛そうな表情をして、そう、とひとりごちる。
「ところで、ユウキくん。大学は決めた?」
「うーん。一応、地元で探すっていうところまでは決めた。何処へ行くかは決めてない」
「……外へ出ないの?」
母が心底驚いたような表情をしていた。僕は箸を止めて頷く。
「べ、別に行きたいところもないし……」
「ユウキくん、私のせいで外へ出られないんでしょう?」
ポツリと呟いた言葉が刺さる。僕は首を横に振り、否定した。
「違うよ、そうじゃない」
「私は、シュンくんと二人きりでも平気よ。だから、あなたはこの家を出なさい」
芯の通った声でそう言われ、固まった。真剣な瞳が、此方を見つめている。こんな母を初めて見た。いつも穏やかで、頼りない人だ。けど今は違う。僕を諭そうとしている。どうにかこの小さな檻から僕を逃がそうとしているのだ。
母の愛は、良く伝わった────けど。
「出来ないよ。母さんを置いて行けない」
「私のことは気にしないで」
「ダメだ」
きっと僕がこの家から消えた途端、シュンの行動はエスカレートするだろう。僕が堰き止めていた暴力性が、全て母へ向くことになる。最悪の場合、母が殺されるなんてこともあり得るのだ。そんなの、見過ごせない。
「……僕は平気だから。地元と、この家と、母さんが好き。だから出てかないよ」
皿に乗った生姜焼きを頬張る。濃い味付けはシュン好みだ。無理に笑顔を作り、美味しいね、と言う。母は黙ってその様子を見つめた。
「ごちそうさま」
ボソリとそう呟き、弟がリビングから姿を消す。階段の軋む音が消え、ドアの閉まる音を確認した僕と母は息を漏らした。
「……ユウキくん、いつもごめんね」
俯き加減の母が箸を動かす手を止めてそう呟く。僕は慌てて口を開いた。
「な、なんの話?」
「……いつも、シュンくんを宥めてくれているでしょ?」
母の目が僕を射る。僕とシュンの関係性を悟られているようで、背中に汗が滲んだ。
────いや、しかし。鈍感な母だ。バレているわけない。
ここで妙な態度を取ったら、それこそ自白しているようなものだと思い、兄として当然のことをしているまでだよ、とやけに明るく答えた。
彼女は辛そうな表情をして、そう、とひとりごちる。
「ところで、ユウキくん。大学は決めた?」
「うーん。一応、地元で探すっていうところまでは決めた。何処へ行くかは決めてない」
「……外へ出ないの?」
母が心底驚いたような表情をしていた。僕は箸を止めて頷く。
「べ、別に行きたいところもないし……」
「ユウキくん、私のせいで外へ出られないんでしょう?」
ポツリと呟いた言葉が刺さる。僕は首を横に振り、否定した。
「違うよ、そうじゃない」
「私は、シュンくんと二人きりでも平気よ。だから、あなたはこの家を出なさい」
芯の通った声でそう言われ、固まった。真剣な瞳が、此方を見つめている。こんな母を初めて見た。いつも穏やかで、頼りない人だ。けど今は違う。僕を諭そうとしている。どうにかこの小さな檻から僕を逃がそうとしているのだ。
母の愛は、良く伝わった────けど。
「出来ないよ。母さんを置いて行けない」
「私のことは気にしないで」
「ダメだ」
きっと僕がこの家から消えた途端、シュンの行動はエスカレートするだろう。僕が堰き止めていた暴力性が、全て母へ向くことになる。最悪の場合、母が殺されるなんてこともあり得るのだ。そんなの、見過ごせない。
「……僕は平気だから。地元と、この家と、母さんが好き。だから出てかないよ」
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