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白紙に黒
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「大丈夫。俺と一緒に、やってみよう。優しくするから」
額にキスを落とす。ルタは縋るような目をしていて、俺は笑ってしまいそうになった。きっと彼は、俺が味方だと思い込んでいるのだろう。とても惨めで哀れに思えた。
────このまま文句を言わなくなれば、こっちのモンだしなぁ。
薬を使うたびにいやだと喚かれては気分が萎える。むしろ乗り気で打ってくれと申し出た方が、欲を唆られる。
「どうだ?」
ルタの顔を覗き込み、促す。優しい声で、なるべく彼を不安にさせないように囁いた。
ルタは目を逸らしていたが、やがて俺をチラリと見て、頷いた。
「いい子、いい子」
頭を撫でてやると、ルタの強張りが解けた。「腕を貸して」と呟くと、彼が大人しく従う。自ら薬を打たれることを望んでいる姿に、思わず唾液を嚥下した。
浮ついている気持ちを悟られないように、細い手首を掴む。元々肉のついていなかった体だが、今では余計に痩せて見える。食事をしても強制的に嘔吐させられる状況下なら仕方がないなと、ぼんやり思った。
薄い皮膚に針を刺す。埋め込まれた針から、じわりと液体が染み込み、彼を蝕んでいく。
「ほら、隊長。横になって」
優しく言うと、ルタは大人しく従った。硬そうなマットレスの上に寝そべった彼を見下ろす。金髪が薄汚れたマットレスに映えていた。
初めて出会った頃のことをぼんやりと思い出す。この金色の髪が綺麗だなと、頭の片隅で考えていた。朗らかに微笑む彼に似合っていて、撫でてみたいなとばかり思っていた。
不意に、手を伸ばす。猫っ毛の髪が指先に絡まり、やがて解けていった。手櫛で何度か前髪を掻き上げてやると、ルタが何処か安心したような表情になる。
「ルパート」
彼の声に体をビクつかせた。その声が当時のルタのものに聞こえ、自然と背筋が張る。
「それ、気持ちいい」
目を瞑った彼が、肩で呼吸を繰り返しながらそう言った。薬が効き始めていて辛いのか、額に汗が滲んでいる。無言でその髪を撫で続けた。
「……っ」
ルタが熱い息を漏らした。身を捩らせ、薄く目を開く。とろんとした瞳に、息を呑んだ。「隊長?」。そう呼びかけると、ルタがへらりと笑いながら俺を見つめる。薬が効いてきたのだと察し、つられて俺も微笑んだ。
「ちゅう、して」
舌足らずな声に導かれるように身を屈め、唇を塞いだ。カサついた唇に唾液を滲ませて、そのまま舌を入れ込む。上顎を撫でると、彼の舌が必死に絡もうとしてきた。その仕草が愛しくて、脳がぐらりと揺れた。唾液を音を立てて啜り、飲み下す。
「はぁっ、はぁっ……」
「どうだ? うまく乖離できてるか?」
「ねぇ、もっとして」
「……分からないよな」
舌を突き出し強請るルタを見て、俺は口角を歪めて笑った。愚かで滑稽だなぁ。ルタの姿を見て、そんなことを思う。口の端から涎を垂らして蕩けた顔をしているルタは、先ほどまで項垂れていた人物とは到底思えなかった。
「ねぇ、して」
「隊長、キス好きなんだなぁ」
「好き、すき、してほしい」
手を伸ばし、頬をぐいと引き寄せたルタが唇を寄せる。何度も重ね合わせると、愛おしい恋人にするように頬を撫でた。その指先に眩暈を覚える。
額にキスを落とす。ルタは縋るような目をしていて、俺は笑ってしまいそうになった。きっと彼は、俺が味方だと思い込んでいるのだろう。とても惨めで哀れに思えた。
────このまま文句を言わなくなれば、こっちのモンだしなぁ。
薬を使うたびにいやだと喚かれては気分が萎える。むしろ乗り気で打ってくれと申し出た方が、欲を唆られる。
「どうだ?」
ルタの顔を覗き込み、促す。優しい声で、なるべく彼を不安にさせないように囁いた。
ルタは目を逸らしていたが、やがて俺をチラリと見て、頷いた。
「いい子、いい子」
頭を撫でてやると、ルタの強張りが解けた。「腕を貸して」と呟くと、彼が大人しく従う。自ら薬を打たれることを望んでいる姿に、思わず唾液を嚥下した。
浮ついている気持ちを悟られないように、細い手首を掴む。元々肉のついていなかった体だが、今では余計に痩せて見える。食事をしても強制的に嘔吐させられる状況下なら仕方がないなと、ぼんやり思った。
薄い皮膚に針を刺す。埋め込まれた針から、じわりと液体が染み込み、彼を蝕んでいく。
「ほら、隊長。横になって」
優しく言うと、ルタは大人しく従った。硬そうなマットレスの上に寝そべった彼を見下ろす。金髪が薄汚れたマットレスに映えていた。
初めて出会った頃のことをぼんやりと思い出す。この金色の髪が綺麗だなと、頭の片隅で考えていた。朗らかに微笑む彼に似合っていて、撫でてみたいなとばかり思っていた。
不意に、手を伸ばす。猫っ毛の髪が指先に絡まり、やがて解けていった。手櫛で何度か前髪を掻き上げてやると、ルタが何処か安心したような表情になる。
「ルパート」
彼の声に体をビクつかせた。その声が当時のルタのものに聞こえ、自然と背筋が張る。
「それ、気持ちいい」
目を瞑った彼が、肩で呼吸を繰り返しながらそう言った。薬が効き始めていて辛いのか、額に汗が滲んでいる。無言でその髪を撫で続けた。
「……っ」
ルタが熱い息を漏らした。身を捩らせ、薄く目を開く。とろんとした瞳に、息を呑んだ。「隊長?」。そう呼びかけると、ルタがへらりと笑いながら俺を見つめる。薬が効いてきたのだと察し、つられて俺も微笑んだ。
「ちゅう、して」
舌足らずな声に導かれるように身を屈め、唇を塞いだ。カサついた唇に唾液を滲ませて、そのまま舌を入れ込む。上顎を撫でると、彼の舌が必死に絡もうとしてきた。その仕草が愛しくて、脳がぐらりと揺れた。唾液を音を立てて啜り、飲み下す。
「はぁっ、はぁっ……」
「どうだ? うまく乖離できてるか?」
「ねぇ、もっとして」
「……分からないよな」
舌を突き出し強請るルタを見て、俺は口角を歪めて笑った。愚かで滑稽だなぁ。ルタの姿を見て、そんなことを思う。口の端から涎を垂らして蕩けた顔をしているルタは、先ほどまで項垂れていた人物とは到底思えなかった。
「ねぇ、して」
「隊長、キス好きなんだなぁ」
「好き、すき、してほしい」
手を伸ばし、頬をぐいと引き寄せたルタが唇を寄せる。何度も重ね合わせると、愛おしい恋人にするように頬を撫でた。その指先に眩暈を覚える。
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