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白紙に黒
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◇
ドアを開け、室内に入る。骨組みだけのベッドの上、横たわった小さな姿を視界に捉えた。震える背中には背骨が浮いていて、それが妙に哀れみを招いた。一歩を踏み出すと、床が軋む。その音に反応したのか、ルタが顔だけを起こし、俺を見た。
「正気に戻ったか? 隊長」
姿を確認するなり、その顔が曇る。急いで体を起こしたが、もちろん彼の足は動かないし、何より逃げ場などない。まるで小瓶に詰めた虫が逃げ惑う光景を見ているようだ。自然と頬が緩んでしまい、バレないように言葉を続ける。
「薬、どうだった?」
「……」
俺の問いに、隊長は答えなかった。彼の首筋には痣ができていて、それはゴドフリーが執拗に繰り返していた絞首の痕だ。何故かその残り香にぞくりと欲を擽られる。俺はゴドフリーのような趣味の悪い性癖を持っていないが、白い肌に残る痕には何か惹かれるものを感じた。
ルタへ近づき、ベッドの縁に腰を下ろす。目を細め、なるべく彼を怖がらせないために微笑む。が、それが逆効果なのか、ルタは唇を噛み締め、身を縮こませた。
彼の手首を無理やり掴み、ぐいと引っ張った。そこには微かな注射痕があった。薄い皮膚をゆっくりと撫で、慰めるように呟く。
「気持ちよかったろ?」
ルタへ視線を投げると、彼は顔を伏せたままだった。乾いた唇を舐め、掠れた声を漏らす。
「あ、あれ、すごく、いやだ」
「なんでだよ? 隊長も楽しんでただろ」
強制的に「楽しんでいた」状況に置かれていた彼にいうセリフではないと分かっていたが、俺は戯けてそう告げた。ルタは首を横に振り、眉を歪める。
「楽しくない。頭が、おかしくなる。すごく、怖い」
途切れながらも言葉を続けるルタは、額に汗を滲ませていた。頭を抱え項垂れた彼が、小刻みに震える。
「ずっと、頭がおかしくて、おかしくて、いやだよ、あれ、すごくイヤ」
俺は薬を使用したことがないから分からないが、相当辛いものなのかもしれないな、と耽る。
「僕が、僕じゃなくなるような、感覚なんだ」
「それでいいんじゃないか?」
俺は咄嗟にそんなことを口走った。ルタがゆっくりとこちらを見る。その目は揺らいでいた。
「そうだよ、それでいいんだよ。レイプされている間は、自分じゃない人格が犯されてるって考えたらいいんだ」
なるべく明るくそう言ってみる。ルタは表情をほんの少しだけ緩ませ、俺をじっと見た。
「……自分じゃない、人格?」
「あぁ。自分じゃない誰かが犯されてるって、そう思えばいい。乖離させるんだよ」
現に薬を使っている間の彼は、まるで別人格だった。本来の彼とかけ離れた性格をしていた。
ルタは何かを考えるように目を伏せる。長いまつ毛が美しくて、思わず見惚れた。
「少しは精神的に楽な気がするけど、どうだ?」
「……で、でも……薬を使うと、頭が、すごく、おかしくなるんだ」
それなら、頭がおかしいままでいいじゃないか。どうせ、元の生活には戻れないんだからさ。
そう言いかけた言葉を飲み込み、彼を抱きしめる。労わるように肩を撫でた。
「大丈夫。慣れたらきっと、そう感じなくなるさ」
正直なところ、そんなの分からなかった。そもそもこんな薬の副作用に慣れてきた頃には、きっと何もかもズタボロだろう。でも、俺たちは彼の体で満足したいし、彼はそう望んだ。だから、彼の体がどうなろうと、俺には関係なかった。俺たちはただ、彼を使って楽しめたら、それでいいのだ。
「隊長、練習してみようか?」
ポケットに忍ばせていた箱を取り出す。中には注射器が入っていた。ルタは目を見開き怖がっていたが、そんな彼の頬をゆっくりと撫でる。
ドアを開け、室内に入る。骨組みだけのベッドの上、横たわった小さな姿を視界に捉えた。震える背中には背骨が浮いていて、それが妙に哀れみを招いた。一歩を踏み出すと、床が軋む。その音に反応したのか、ルタが顔だけを起こし、俺を見た。
「正気に戻ったか? 隊長」
姿を確認するなり、その顔が曇る。急いで体を起こしたが、もちろん彼の足は動かないし、何より逃げ場などない。まるで小瓶に詰めた虫が逃げ惑う光景を見ているようだ。自然と頬が緩んでしまい、バレないように言葉を続ける。
「薬、どうだった?」
「……」
俺の問いに、隊長は答えなかった。彼の首筋には痣ができていて、それはゴドフリーが執拗に繰り返していた絞首の痕だ。何故かその残り香にぞくりと欲を擽られる。俺はゴドフリーのような趣味の悪い性癖を持っていないが、白い肌に残る痕には何か惹かれるものを感じた。
ルタへ近づき、ベッドの縁に腰を下ろす。目を細め、なるべく彼を怖がらせないために微笑む。が、それが逆効果なのか、ルタは唇を噛み締め、身を縮こませた。
彼の手首を無理やり掴み、ぐいと引っ張った。そこには微かな注射痕があった。薄い皮膚をゆっくりと撫で、慰めるように呟く。
「気持ちよかったろ?」
ルタへ視線を投げると、彼は顔を伏せたままだった。乾いた唇を舐め、掠れた声を漏らす。
「あ、あれ、すごく、いやだ」
「なんでだよ? 隊長も楽しんでただろ」
強制的に「楽しんでいた」状況に置かれていた彼にいうセリフではないと分かっていたが、俺は戯けてそう告げた。ルタは首を横に振り、眉を歪める。
「楽しくない。頭が、おかしくなる。すごく、怖い」
途切れながらも言葉を続けるルタは、額に汗を滲ませていた。頭を抱え項垂れた彼が、小刻みに震える。
「ずっと、頭がおかしくて、おかしくて、いやだよ、あれ、すごくイヤ」
俺は薬を使用したことがないから分からないが、相当辛いものなのかもしれないな、と耽る。
「僕が、僕じゃなくなるような、感覚なんだ」
「それでいいんじゃないか?」
俺は咄嗟にそんなことを口走った。ルタがゆっくりとこちらを見る。その目は揺らいでいた。
「そうだよ、それでいいんだよ。レイプされている間は、自分じゃない人格が犯されてるって考えたらいいんだ」
なるべく明るくそう言ってみる。ルタは表情をほんの少しだけ緩ませ、俺をじっと見た。
「……自分じゃない、人格?」
「あぁ。自分じゃない誰かが犯されてるって、そう思えばいい。乖離させるんだよ」
現に薬を使っている間の彼は、まるで別人格だった。本来の彼とかけ離れた性格をしていた。
ルタは何かを考えるように目を伏せる。長いまつ毛が美しくて、思わず見惚れた。
「少しは精神的に楽な気がするけど、どうだ?」
「……で、でも……薬を使うと、頭が、すごく、おかしくなるんだ」
それなら、頭がおかしいままでいいじゃないか。どうせ、元の生活には戻れないんだからさ。
そう言いかけた言葉を飲み込み、彼を抱きしめる。労わるように肩を撫でた。
「大丈夫。慣れたらきっと、そう感じなくなるさ」
正直なところ、そんなの分からなかった。そもそもこんな薬の副作用に慣れてきた頃には、きっと何もかもズタボロだろう。でも、俺たちは彼の体で満足したいし、彼はそう望んだ。だから、彼の体がどうなろうと、俺には関係なかった。俺たちはただ、彼を使って楽しめたら、それでいいのだ。
「隊長、練習してみようか?」
ポケットに忍ばせていた箱を取り出す。中には注射器が入っていた。ルタは目を見開き怖がっていたが、そんな彼の頬をゆっくりと撫でる。
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