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愛の深度
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「ルタ。彼は新しい生存者だ。あと物資は車に積んでる」
「ありがとう、お疲れ様。ゴドフリー、ルパート」
ルタと呼ばれた男が、穏やかに微笑んだ。やがて視線を俺に向け、手を差し出す。
「僕はルタ。よろしくね」
「お、俺はバグシ……よろしく……」
握手を交わす。滑らかな肌触りに、どこか居心地の悪さを覚え、パッと手を離した。ゴドフリーがその様子を見て、鼻を鳴らす。
「ルタはこの集落の隊長だ。失礼な態度は取るなよ」
「え!?」
こんな子供が? そう言いそうになった言葉を飲み込む。俺をこの場へ導いた男二人は、それなりの威厳を感じた。しかし、目の前にいる青年は────青年と呼ぶには幼く思えた。それにこんな温厚そうな男がリーダー? もしかして、じゃんけんか何かで決まったのか?
俺の顔色を察したルタは困ったように笑い、後頭部を掻いた。
「あはは。隊長なんて、肩書きだけだよ。そうだ、バグシ。君は銃を扱えるかな?」
俺は首を横に振った。銃は触れたこともない。こんな世界になるなら、銃の扱い方を学んでおくべきだったと後悔したぐらいだ。
ルタはそっか、と白い歯を見せ微笑んだ。口火を切ろうとした彼を遮るように、ゴドフリーが口を挟む。
「ルタ。こいつには俺が教えるよ」
「いや、大丈夫だよ。ゴドフリーは休んでて。君たちは疲れているだろ?」
ルタが穏やかに微笑んだ。春のそよ風みたいな笑みに、ドキリと胸が鳴る。ゴドフリーはというと、納得できないように顔を歪め、やがて俺を一瞥した。
────なんだよ、感じ悪いな……。
俺たちの空気に気がついていないのか、ルタがゴドフリーから鍵を受け取る。「銃は積んである?」「ある」「了解。じゃあ僕らはちょっと出てくるね」。会話のラリーを交わした二人をぼんやりと眺めているとルタが俺の手首を掴んだ。突然の接触に目を見開く。
「じゃあ、銃の扱い方を教えてあげる。車に乗って」
◇
集落から十五分程度離れた距離に連れてこられた俺は、彼に言われるがまま銃を持ち、構える。遠くに見えるドラム缶の上には、空き瓶が置かれていた。初めて持つ銃にドキドキと胸を高鳴らせた俺は、また違う意味で心臓を跳ねさせた。
「そう、そうやって構えて。うん、上手だね」
少し背の低いルタが、耳たぶに触れる距離で囁く。カサついた手に、柔い皮膚が触れる。添えるだけの接触に、俺は無駄に緊張していた。相手は男だ。そんなこと理解しているはずだ。なのに、どうも妙な感情が沸いては消える。
────いい匂いだ。
風が吹くたびに、彼からふわりと良い匂いが漂う。先ほどまで一緒にいた男たち────ゴドフリーやルパートたちと同じ環境にいるはずなのに、ルタはそんな気配を全く感じさせなかった。
チラリと彼へ視線を投げる。綺麗な顔立ちだが、どこから見ても男だ。
────変な気分になるな!
自分へそう言い聞かせ、深呼吸をする。俺にはそのケはない。ただ、こんな崩壊した世界で気分が滅入っているだけだ。グッと唇を噛み締め、引き金を引いた。劈くような音が響き、体が後ろへ仰け反る。
「……あれ」
ドラム缶の上にある瓶は全くと言っていいほど動いていなかった。先ほどと同じように、そこに存在している。
ルタの方へ視線を投げた。彼は崩れぬ笑みを俺に向け「最初はみんなこんな感じだよ」と慰める。
うまく笑えていない俺は、ジクジクと熱を帯びる下半身の存在に気がついた。まさかと思い、視線を投げる。そこには、硬く張った俺の性器があった。ジーンズ越しにも分かるほど勃起したそれに、ルタも気がつき、慌てて声を出した。
「きっと、初めて持つ銃に興奮しちゃったんだね」
わざとらしく気を利かせ視線を逸らしたルタが、車の鍵をチャラリと鳴らしながら「帰ろうか?」と問う。俺は恥ずかしいやら情けないやら、穴があったら入りたいやらで、顔を真っ赤にさせ頷いた。
「ありがとう、お疲れ様。ゴドフリー、ルパート」
ルタと呼ばれた男が、穏やかに微笑んだ。やがて視線を俺に向け、手を差し出す。
「僕はルタ。よろしくね」
「お、俺はバグシ……よろしく……」
握手を交わす。滑らかな肌触りに、どこか居心地の悪さを覚え、パッと手を離した。ゴドフリーがその様子を見て、鼻を鳴らす。
「ルタはこの集落の隊長だ。失礼な態度は取るなよ」
「え!?」
こんな子供が? そう言いそうになった言葉を飲み込む。俺をこの場へ導いた男二人は、それなりの威厳を感じた。しかし、目の前にいる青年は────青年と呼ぶには幼く思えた。それにこんな温厚そうな男がリーダー? もしかして、じゃんけんか何かで決まったのか?
俺の顔色を察したルタは困ったように笑い、後頭部を掻いた。
「あはは。隊長なんて、肩書きだけだよ。そうだ、バグシ。君は銃を扱えるかな?」
俺は首を横に振った。銃は触れたこともない。こんな世界になるなら、銃の扱い方を学んでおくべきだったと後悔したぐらいだ。
ルタはそっか、と白い歯を見せ微笑んだ。口火を切ろうとした彼を遮るように、ゴドフリーが口を挟む。
「ルタ。こいつには俺が教えるよ」
「いや、大丈夫だよ。ゴドフリーは休んでて。君たちは疲れているだろ?」
ルタが穏やかに微笑んだ。春のそよ風みたいな笑みに、ドキリと胸が鳴る。ゴドフリーはというと、納得できないように顔を歪め、やがて俺を一瞥した。
────なんだよ、感じ悪いな……。
俺たちの空気に気がついていないのか、ルタがゴドフリーから鍵を受け取る。「銃は積んである?」「ある」「了解。じゃあ僕らはちょっと出てくるね」。会話のラリーを交わした二人をぼんやりと眺めているとルタが俺の手首を掴んだ。突然の接触に目を見開く。
「じゃあ、銃の扱い方を教えてあげる。車に乗って」
◇
集落から十五分程度離れた距離に連れてこられた俺は、彼に言われるがまま銃を持ち、構える。遠くに見えるドラム缶の上には、空き瓶が置かれていた。初めて持つ銃にドキドキと胸を高鳴らせた俺は、また違う意味で心臓を跳ねさせた。
「そう、そうやって構えて。うん、上手だね」
少し背の低いルタが、耳たぶに触れる距離で囁く。カサついた手に、柔い皮膚が触れる。添えるだけの接触に、俺は無駄に緊張していた。相手は男だ。そんなこと理解しているはずだ。なのに、どうも妙な感情が沸いては消える。
────いい匂いだ。
風が吹くたびに、彼からふわりと良い匂いが漂う。先ほどまで一緒にいた男たち────ゴドフリーやルパートたちと同じ環境にいるはずなのに、ルタはそんな気配を全く感じさせなかった。
チラリと彼へ視線を投げる。綺麗な顔立ちだが、どこから見ても男だ。
────変な気分になるな!
自分へそう言い聞かせ、深呼吸をする。俺にはそのケはない。ただ、こんな崩壊した世界で気分が滅入っているだけだ。グッと唇を噛み締め、引き金を引いた。劈くような音が響き、体が後ろへ仰け反る。
「……あれ」
ドラム缶の上にある瓶は全くと言っていいほど動いていなかった。先ほどと同じように、そこに存在している。
ルタの方へ視線を投げた。彼は崩れぬ笑みを俺に向け「最初はみんなこんな感じだよ」と慰める。
うまく笑えていない俺は、ジクジクと熱を帯びる下半身の存在に気がついた。まさかと思い、視線を投げる。そこには、硬く張った俺の性器があった。ジーンズ越しにも分かるほど勃起したそれに、ルタも気がつき、慌てて声を出した。
「きっと、初めて持つ銃に興奮しちゃったんだね」
わざとらしく気を利かせ視線を逸らしたルタが、車の鍵をチャラリと鳴らしながら「帰ろうか?」と問う。俺は恥ずかしいやら情けないやら、穴があったら入りたいやらで、顔を真っ赤にさせ頷いた。
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