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恋煩い
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◇
「集落?」
満点の星空の下。俺とルタは車のボンネットに背中を預け、星を見つめていた。今日は遠出をして生存者や食料を確保するため車を走らせていた。「ここら辺で野宿をしようか」。俺の運転に揺られていたルタが、目を細めそう告げる。
俺たちは夕食を軽く済ませ、夜空を見ながら酒を煽った。ひどく静かな静寂と、緩やかな時間が二人の間に流れる。夜の冷たい風が頬を撫で、身震いを一つした。
そんな中、ルタが目を輝かせて言った。「集落を作りたい」と。
俺はキョトンとして鸚鵡返しをした。ルタがこちらを見て、フフと口角を上げる。
「うん。今の倉庫は狭くなってきているし、環境的にも悪い気がする。広い土地に円状の柵を作って、二つのエリアを作るんだ。真ん中のエリアは女性と子供が住まって、その周りを囲うように僕たちが住まう。僕らが彼女らを守る形をとるんだ」
「そんなの不公平じゃないか?」
「ううん。女性や子供たちにも仕事がちゃんとあるよ。彼女らには彼女らができる仕事を頼み、僕らは僕らができる仕事をする。現状が回復するまで、地盤を固めていくんだ。互いが互いを支え合い、助け合いながら生きていこう」
俺は酒を煽りながら、頷く。確かに適材適所というものがある。今の現状がきちんとした状態に落ち着くまで、そうやって生きていくのも手だ。それに、いつかこの状況は幕を閉じるはずだ。政府が手を打ち、通常の生活に戻れる日も来る。その時まで、身を寄せ合い生きていくにはそういう場所も必要だろう。
「それで一つ、提案なんだけど」
ルタが体を起こした。俺を見下ろした彼は薄暗がりの中、誇らしげな表情をしている。
「Aエリアの隊長は、ジェスに任せるつもりだ。彼女なら、絶対にみんなをまとめることができる」
彼の意見に異論はなかった。確かに彼女なら、女子供をきちんとまとめ上げ、規律を守ることができるはずだ。
「ま、そうだろうな。ジェスなら大丈夫だ」
「ふふ、君もそう思うだろ」
ルタが続ける。
「そして、Bエリアの隊長を君に任せたいんだ」
俺は口に含んでいたビールを吐きかけた。手に持った瓶を落としかけ、なんとか掴む。はぁ? と素っ頓狂な声を漏らすと、ルタが目をまんまると見開いた。
「どうしてそんなに驚くんだい?」
「いや、そうだろ。俺には無理だ」
「そうかな? ゴドフリーは上手くやれると思うよ」
「君はリーダー向きだ」。ルタはまるで歌うように呟いた。そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。彼は俺を過大評価しすぎだ。けれど、その評価が俺にとって嬉しかった。ドキドキと胸が高鳴る。ふと、ルタの手が視界に入り、握りたい衝動に襲われた。
────何を考えてるんだ、俺は。
かぶりを振り、口を開く。
「……リーダーはルタの方が似合ってるよ。お前がした方がいい。そのほうがみんなついて来るはずだ」
自分で言ってて情けなくなったが、実際はそうだ。俺なんかより、彼の方が優れている。故に、リーダーは彼に相応しい。
「そうかな?」
「そうだ。お前は、人を魅了する才能がある」
ルタは照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ」
「そんなことあるさ。だから俺は、ルタについて行ったんだ。あの時、助けてくれた相手がルタじゃなかったら、俺は今ここにはいない」
俺も体を起こした。夜空に散った星を見つめながら語る俺の横顔を、ルタが静かに眺めている。
「だから、Bエリアのリーダーはお前以外考えられない」
視線を交わらせる。スカイブルーの瞳が俺を射るたびに、吸い込まれそうな感覚に陥るのだ。
「分かった。任せて」
頷いたルタが手を差し伸ばす。
「二人で、いい集落を作ろう!」
手を取り、握手を交わした。
その集落が彼にとって地獄になるとは、この時の俺たちには想像もできなかっただろう。
「集落?」
満点の星空の下。俺とルタは車のボンネットに背中を預け、星を見つめていた。今日は遠出をして生存者や食料を確保するため車を走らせていた。「ここら辺で野宿をしようか」。俺の運転に揺られていたルタが、目を細めそう告げる。
俺たちは夕食を軽く済ませ、夜空を見ながら酒を煽った。ひどく静かな静寂と、緩やかな時間が二人の間に流れる。夜の冷たい風が頬を撫で、身震いを一つした。
そんな中、ルタが目を輝かせて言った。「集落を作りたい」と。
俺はキョトンとして鸚鵡返しをした。ルタがこちらを見て、フフと口角を上げる。
「うん。今の倉庫は狭くなってきているし、環境的にも悪い気がする。広い土地に円状の柵を作って、二つのエリアを作るんだ。真ん中のエリアは女性と子供が住まって、その周りを囲うように僕たちが住まう。僕らが彼女らを守る形をとるんだ」
「そんなの不公平じゃないか?」
「ううん。女性や子供たちにも仕事がちゃんとあるよ。彼女らには彼女らができる仕事を頼み、僕らは僕らができる仕事をする。現状が回復するまで、地盤を固めていくんだ。互いが互いを支え合い、助け合いながら生きていこう」
俺は酒を煽りながら、頷く。確かに適材適所というものがある。今の現状がきちんとした状態に落ち着くまで、そうやって生きていくのも手だ。それに、いつかこの状況は幕を閉じるはずだ。政府が手を打ち、通常の生活に戻れる日も来る。その時まで、身を寄せ合い生きていくにはそういう場所も必要だろう。
「それで一つ、提案なんだけど」
ルタが体を起こした。俺を見下ろした彼は薄暗がりの中、誇らしげな表情をしている。
「Aエリアの隊長は、ジェスに任せるつもりだ。彼女なら、絶対にみんなをまとめることができる」
彼の意見に異論はなかった。確かに彼女なら、女子供をきちんとまとめ上げ、規律を守ることができるはずだ。
「ま、そうだろうな。ジェスなら大丈夫だ」
「ふふ、君もそう思うだろ」
ルタが続ける。
「そして、Bエリアの隊長を君に任せたいんだ」
俺は口に含んでいたビールを吐きかけた。手に持った瓶を落としかけ、なんとか掴む。はぁ? と素っ頓狂な声を漏らすと、ルタが目をまんまると見開いた。
「どうしてそんなに驚くんだい?」
「いや、そうだろ。俺には無理だ」
「そうかな? ゴドフリーは上手くやれると思うよ」
「君はリーダー向きだ」。ルタはまるで歌うように呟いた。そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。彼は俺を過大評価しすぎだ。けれど、その評価が俺にとって嬉しかった。ドキドキと胸が高鳴る。ふと、ルタの手が視界に入り、握りたい衝動に襲われた。
────何を考えてるんだ、俺は。
かぶりを振り、口を開く。
「……リーダーはルタの方が似合ってるよ。お前がした方がいい。そのほうがみんなついて来るはずだ」
自分で言ってて情けなくなったが、実際はそうだ。俺なんかより、彼の方が優れている。故に、リーダーは彼に相応しい。
「そうかな?」
「そうだ。お前は、人を魅了する才能がある」
ルタは照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ」
「そんなことあるさ。だから俺は、ルタについて行ったんだ。あの時、助けてくれた相手がルタじゃなかったら、俺は今ここにはいない」
俺も体を起こした。夜空に散った星を見つめながら語る俺の横顔を、ルタが静かに眺めている。
「だから、Bエリアのリーダーはお前以外考えられない」
視線を交わらせる。スカイブルーの瞳が俺を射るたびに、吸い込まれそうな感覚に陥るのだ。
「分かった。任せて」
頷いたルタが手を差し伸ばす。
「二人で、いい集落を作ろう!」
手を取り、握手を交わした。
その集落が彼にとって地獄になるとは、この時の俺たちには想像もできなかっただろう。
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