23 / 49
恋煩い
7
しおりを挟む
◇
「集落?」
満点の星空の下。俺とルタは車のボンネットに背中を預け、星を見つめていた。今日は遠出をして生存者や食料を確保するため車を走らせていた。「ここら辺で野宿をしようか」。俺の運転に揺られていたルタが、目を細めそう告げる。
俺たちは夕食を軽く済ませ、夜空を見ながら酒を煽った。ひどく静かな静寂と、緩やかな時間が二人の間に流れる。夜の冷たい風が頬を撫で、身震いを一つした。
そんな中、ルタが目を輝かせて言った。「集落を作りたい」と。
俺はキョトンとして鸚鵡返しをした。ルタがこちらを見て、フフと口角を上げる。
「うん。今の倉庫は狭くなってきているし、環境的にも悪い気がする。広い土地に円状の柵を作って、二つのエリアを作るんだ。真ん中のエリアは女性と子供が住まって、その周りを囲うように僕たちが住まう。僕らが彼女らを守る形をとるんだ」
「そんなの不公平じゃないか?」
「ううん。女性や子供たちにも仕事がちゃんとあるよ。彼女らには彼女らができる仕事を頼み、僕らは僕らができる仕事をする。現状が回復するまで、地盤を固めていくんだ。互いが互いを支え合い、助け合いながら生きていこう」
俺は酒を煽りながら、頷く。確かに適材適所というものがある。今の現状がきちんとした状態に落ち着くまで、そうやって生きていくのも手だ。それに、いつかこの状況は幕を閉じるはずだ。政府が手を打ち、通常の生活に戻れる日も来る。その時まで、身を寄せ合い生きていくにはそういう場所も必要だろう。
「それで一つ、提案なんだけど」
ルタが体を起こした。俺を見下ろした彼は薄暗がりの中、誇らしげな表情をしている。
「Aエリアの隊長は、ジェスに任せるつもりだ。彼女なら、絶対にみんなをまとめることができる」
彼の意見に異論はなかった。確かに彼女なら、女子供をきちんとまとめ上げ、規律を守ることができるはずだ。
「ま、そうだろうな。ジェスなら大丈夫だ」
「ふふ、君もそう思うだろ」
ルタが続ける。
「そして、Bエリアの隊長を君に任せたいんだ」
俺は口に含んでいたビールを吐きかけた。手に持った瓶を落としかけ、なんとか掴む。はぁ? と素っ頓狂な声を漏らすと、ルタが目をまんまると見開いた。
「どうしてそんなに驚くんだい?」
「いや、そうだろ。俺には無理だ」
「そうかな? ゴドフリーは上手くやれると思うよ」
「君はリーダー向きだ」。ルタはまるで歌うように呟いた。そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。彼は俺を過大評価しすぎだ。けれど、その評価が俺にとって嬉しかった。ドキドキと胸が高鳴る。ふと、ルタの手が視界に入り、握りたい衝動に襲われた。
────何を考えてるんだ、俺は。
かぶりを振り、口を開く。
「……リーダーはルタの方が似合ってるよ。お前がした方がいい。そのほうがみんなついて来るはずだ」
自分で言ってて情けなくなったが、実際はそうだ。俺なんかより、彼の方が優れている。故に、リーダーは彼に相応しい。
「そうかな?」
「そうだ。お前は、人を魅了する才能がある」
ルタは照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ」
「そんなことあるさ。だから俺は、ルタについて行ったんだ。あの時、助けてくれた相手がルタじゃなかったら、俺は今ここにはいない」
俺も体を起こした。夜空に散った星を見つめながら語る俺の横顔を、ルタが静かに眺めている。
「だから、Bエリアのリーダーはお前以外考えられない」
視線を交わらせる。スカイブルーの瞳が俺を射るたびに、吸い込まれそうな感覚に陥るのだ。
「分かった。任せて」
頷いたルタが手を差し伸ばす。
「二人で、いい集落を作ろう!」
手を取り、握手を交わした。
その集落が彼にとって地獄になるとは、この時の俺たちには想像もできなかっただろう。
「集落?」
満点の星空の下。俺とルタは車のボンネットに背中を預け、星を見つめていた。今日は遠出をして生存者や食料を確保するため車を走らせていた。「ここら辺で野宿をしようか」。俺の運転に揺られていたルタが、目を細めそう告げる。
俺たちは夕食を軽く済ませ、夜空を見ながら酒を煽った。ひどく静かな静寂と、緩やかな時間が二人の間に流れる。夜の冷たい風が頬を撫で、身震いを一つした。
そんな中、ルタが目を輝かせて言った。「集落を作りたい」と。
俺はキョトンとして鸚鵡返しをした。ルタがこちらを見て、フフと口角を上げる。
「うん。今の倉庫は狭くなってきているし、環境的にも悪い気がする。広い土地に円状の柵を作って、二つのエリアを作るんだ。真ん中のエリアは女性と子供が住まって、その周りを囲うように僕たちが住まう。僕らが彼女らを守る形をとるんだ」
「そんなの不公平じゃないか?」
「ううん。女性や子供たちにも仕事がちゃんとあるよ。彼女らには彼女らができる仕事を頼み、僕らは僕らができる仕事をする。現状が回復するまで、地盤を固めていくんだ。互いが互いを支え合い、助け合いながら生きていこう」
俺は酒を煽りながら、頷く。確かに適材適所というものがある。今の現状がきちんとした状態に落ち着くまで、そうやって生きていくのも手だ。それに、いつかこの状況は幕を閉じるはずだ。政府が手を打ち、通常の生活に戻れる日も来る。その時まで、身を寄せ合い生きていくにはそういう場所も必要だろう。
「それで一つ、提案なんだけど」
ルタが体を起こした。俺を見下ろした彼は薄暗がりの中、誇らしげな表情をしている。
「Aエリアの隊長は、ジェスに任せるつもりだ。彼女なら、絶対にみんなをまとめることができる」
彼の意見に異論はなかった。確かに彼女なら、女子供をきちんとまとめ上げ、規律を守ることができるはずだ。
「ま、そうだろうな。ジェスなら大丈夫だ」
「ふふ、君もそう思うだろ」
ルタが続ける。
「そして、Bエリアの隊長を君に任せたいんだ」
俺は口に含んでいたビールを吐きかけた。手に持った瓶を落としかけ、なんとか掴む。はぁ? と素っ頓狂な声を漏らすと、ルタが目をまんまると見開いた。
「どうしてそんなに驚くんだい?」
「いや、そうだろ。俺には無理だ」
「そうかな? ゴドフリーは上手くやれると思うよ」
「君はリーダー向きだ」。ルタはまるで歌うように呟いた。そんなこと、今まで誰にも言われたことがない。彼は俺を過大評価しすぎだ。けれど、その評価が俺にとって嬉しかった。ドキドキと胸が高鳴る。ふと、ルタの手が視界に入り、握りたい衝動に襲われた。
────何を考えてるんだ、俺は。
かぶりを振り、口を開く。
「……リーダーはルタの方が似合ってるよ。お前がした方がいい。そのほうがみんなついて来るはずだ」
自分で言ってて情けなくなったが、実際はそうだ。俺なんかより、彼の方が優れている。故に、リーダーは彼に相応しい。
「そうかな?」
「そうだ。お前は、人を魅了する才能がある」
ルタは照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ」
「そんなことあるさ。だから俺は、ルタについて行ったんだ。あの時、助けてくれた相手がルタじゃなかったら、俺は今ここにはいない」
俺も体を起こした。夜空に散った星を見つめながら語る俺の横顔を、ルタが静かに眺めている。
「だから、Bエリアのリーダーはお前以外考えられない」
視線を交わらせる。スカイブルーの瞳が俺を射るたびに、吸い込まれそうな感覚に陥るのだ。
「分かった。任せて」
頷いたルタが手を差し伸ばす。
「二人で、いい集落を作ろう!」
手を取り、握手を交わした。
その集落が彼にとって地獄になるとは、この時の俺たちには想像もできなかっただろう。
31
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い


男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。



ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる