8 / 49
8
しおりを挟む
◇
高台に登り、集落の周りを観察する。ゾンビを見つけ次第、構えているライフルで撃ち落とすのが俺の今日の仕事だ。スコープを覗き込んでいると、遠くから外に視察へ向かっていた車が帰還する様子が見える。ガタガタと激しく動くその黒いボディを眺めながら、視線を外す。
「……隊長、いまだに解放されてないのか」
隣にいたアントンが息を漏らした。俺は臨戦態勢を解き、座り直す。息を吐き出しながらあぐらをかいた。
「さっき俺が見た時は、まだしてた……」
そうか。アントンが短く答える。二人の間に沈黙が流れた。ふと、手元にあるライフルへ視線が落ちる。銃を触ったことがない俺に一から手解きしてくれたのがルタだ。君は初めてなのに上手だね。そう朗らかな笑みを浮かべ、優しく丁寧に教えてくれた彼が脳裏をかける。
同時に男たちに陵辱された姿も過ぎり、かぶりを振った。
「い、いつまであんな馬鹿げたことが続くんだ?」
俺の言葉に、彼は唇を舐めて黙り込んだ。その額には汗が滲み、何処か居心地が悪そうにしている。
「……俺も」
風が強く吹く。冷たさに身震いした。
「俺も……彼を抱きたいって言ったら軽蔑するか?」
「は、はぁ?」
俺は思わず素っ頓狂な声を漏らす。その反応に、すまないとアントンが頭を下げた。
「だってさ、隊長は……すごく愛らしいし、男だとしても惹かれる部分があるだろ? それにこんな生活なんだぜ? 生身の人間を抱きたくなるよ」
それが男だとしても……そう言い、彼は俯いた。俺は、アントンを強くは責められなかった。何故なら俺は、ルタの姿を見て勃起してしまったからだ。
なにも言わずに黙り込んだ俺を見て、アントンが変なこと言ったな。と、肩を縮こませる。
「……早く、こんなことが終わればいいのにな」
アントンのその呟きは、風に掻き消された。
◇
次の日も次の日も、その悪夢が終わることはなかった。俺は、隊長が男たちの魔の手から解放されている場面を、あの日以降見たことがない。
ある時は敷地内に設置されたプレハブ小屋の壁に体を預け、大空の下、大人数に代わるがわる犯されていたし、ある日は特定の人物の小屋で、まるで友達の家に集まる子供のように群れた男たちに犯されていた。
彼に休みなどなかった。溌剌とした音は死に、啜り泣く喘ぎ声しか漏らさなくなった。あの美しい笑顔は消え、苦痛と絶望を孕ませた表情しか浮かべなくなった。綺麗に整えていた身なりもボロボロで、まるで使い古された雑巾のようだった。
目に見えて、隊長は人以下の扱いを受けていた。けれど、誰も何も言わなかった。助けてと叫ぶ声に耳を貸さず、むしろ加虐の輪の中に入るものが多数だ。一人が複数に陵辱されていたら、他人と同じく暴力を加えたいと願うのが人間の心理なのかもしれない。
「あ゛、ぅ、あっ」
「隊長、ほら、気絶しちゃダメでしょう」
パン、という音が聞こえ、俺は顔を上げた。ちょうど、監視の仕事を終え高台から降りた頃。茹だるような鋭い日差しが刺す昼間、ルタは武器を保管している倉庫の影で犯されていた。汚れた壁に両手を突っ張らせ、震える足を奮い立たせている隊長は、今にも意識を飛ばしてしまいそうなほどぼんやりとした目をしている。
周りには数名の男たちがいて、その様子を見物していた。ルタの背後にいる男はこの集落でも一、二位を争うほどの巨漢だ。大きな手のひらで、おもちゃで遊ぶように軽々と隊長の腰を掴み、ガツガツと動かしている。突かれるたびに、ルタが悲鳴を上げた。
高台に登り、集落の周りを観察する。ゾンビを見つけ次第、構えているライフルで撃ち落とすのが俺の今日の仕事だ。スコープを覗き込んでいると、遠くから外に視察へ向かっていた車が帰還する様子が見える。ガタガタと激しく動くその黒いボディを眺めながら、視線を外す。
「……隊長、いまだに解放されてないのか」
隣にいたアントンが息を漏らした。俺は臨戦態勢を解き、座り直す。息を吐き出しながらあぐらをかいた。
「さっき俺が見た時は、まだしてた……」
そうか。アントンが短く答える。二人の間に沈黙が流れた。ふと、手元にあるライフルへ視線が落ちる。銃を触ったことがない俺に一から手解きしてくれたのがルタだ。君は初めてなのに上手だね。そう朗らかな笑みを浮かべ、優しく丁寧に教えてくれた彼が脳裏をかける。
同時に男たちに陵辱された姿も過ぎり、かぶりを振った。
「い、いつまであんな馬鹿げたことが続くんだ?」
俺の言葉に、彼は唇を舐めて黙り込んだ。その額には汗が滲み、何処か居心地が悪そうにしている。
「……俺も」
風が強く吹く。冷たさに身震いした。
「俺も……彼を抱きたいって言ったら軽蔑するか?」
「は、はぁ?」
俺は思わず素っ頓狂な声を漏らす。その反応に、すまないとアントンが頭を下げた。
「だってさ、隊長は……すごく愛らしいし、男だとしても惹かれる部分があるだろ? それにこんな生活なんだぜ? 生身の人間を抱きたくなるよ」
それが男だとしても……そう言い、彼は俯いた。俺は、アントンを強くは責められなかった。何故なら俺は、ルタの姿を見て勃起してしまったからだ。
なにも言わずに黙り込んだ俺を見て、アントンが変なこと言ったな。と、肩を縮こませる。
「……早く、こんなことが終わればいいのにな」
アントンのその呟きは、風に掻き消された。
◇
次の日も次の日も、その悪夢が終わることはなかった。俺は、隊長が男たちの魔の手から解放されている場面を、あの日以降見たことがない。
ある時は敷地内に設置されたプレハブ小屋の壁に体を預け、大空の下、大人数に代わるがわる犯されていたし、ある日は特定の人物の小屋で、まるで友達の家に集まる子供のように群れた男たちに犯されていた。
彼に休みなどなかった。溌剌とした音は死に、啜り泣く喘ぎ声しか漏らさなくなった。あの美しい笑顔は消え、苦痛と絶望を孕ませた表情しか浮かべなくなった。綺麗に整えていた身なりもボロボロで、まるで使い古された雑巾のようだった。
目に見えて、隊長は人以下の扱いを受けていた。けれど、誰も何も言わなかった。助けてと叫ぶ声に耳を貸さず、むしろ加虐の輪の中に入るものが多数だ。一人が複数に陵辱されていたら、他人と同じく暴力を加えたいと願うのが人間の心理なのかもしれない。
「あ゛、ぅ、あっ」
「隊長、ほら、気絶しちゃダメでしょう」
パン、という音が聞こえ、俺は顔を上げた。ちょうど、監視の仕事を終え高台から降りた頃。茹だるような鋭い日差しが刺す昼間、ルタは武器を保管している倉庫の影で犯されていた。汚れた壁に両手を突っ張らせ、震える足を奮い立たせている隊長は、今にも意識を飛ばしてしまいそうなほどぼんやりとした目をしている。
周りには数名の男たちがいて、その様子を見物していた。ルタの背後にいる男はこの集落でも一、二位を争うほどの巨漢だ。大きな手のひらで、おもちゃで遊ぶように軽々と隊長の腰を掴み、ガツガツと動かしている。突かれるたびに、ルタが悲鳴を上げた。
45
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる