ワンナイトパラダイス

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女神

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  私がアイドルオタクになったきっかけは当時、世間を揺るがすほどのブームを作り出した「カプチーノっ子」というなんとも気の抜けた名前のアイドルだった。街を歩けば彼女らの歌で溢れかえっていたし、テレビをつければ彼女らが楽しそうに笑っていた。私は幼心に、彼女らに惹かれていた。
 センターで絶対的な人気を誇る、レミ。落ち着いてて控えめだけど、圧倒的なパフォーマンス力を兼ね備えた、カヤヤ。天然でおっちょこちょいな愛されキャラ、スズ。みんなを纏めるリーダー的な存在、リコ。高身長で容姿端麗、尚且つクールな性格が女性人気に拍車をかけた、クロコ。誰にも負けない力強い歌声、ビィ。
 みんなが彼女らに惚れ込み、魅了されてた。私も、その一人だった。
 活動期間は凡そ六年。様々なスキャンダルなどを乗り越え、彼女らは解散を発表した。私はその発表を聞いた翌日、学校に行けないほど凹んだ。枕を涙で濡らし、何度も何度も彼女らの歌声やダンス、笑顔を思い出していた。


 
「森さん、来週の休み、またライブ行くの?」

 同僚の真上に尋ねられ、私はうんと軽く返事をした。彼女はキーボードを叩く手を止め、唇を尖らせる。小声で耳打ちをしてきた。

「……前も行ってなかった?」
「前のは対バン。今回はリリイベ。ついでに言うと、来月は誕生祭でまた東京に飛ぶよ」

 真上は分かりやすいほど顔を歪めた。その顔を見て笑いが込み上げてくる。真上さんぶっさ。と言うと、彼女は失礼だなぁ、と頬を摩った。
 正直、真上のことは好きだ。彼女は私のアイドル好きを馬鹿にしない。大抵の人間は、アイドルオタクに良い顔はしない。それもそうだ。アラサーの女が手の届かないアイドルを必死に応援しているのは、滑稽で無様だ。その上、私が推しているのは異性ではなく、同性。故に、私はあまり自分がアイドルが好きだと公表しない。
 が、彼女には何故か事情を話せてしまった。そして、彼女はそれをすんなり受け入れた。
 察するに、彼女も知られたくない何かを秘めているのでは、と私は勘ぐっている。いつかその秘密が知りたいなぁ、とニヤニヤしながらエンターキーを弾いた。

「真上さんも行ってみる? 意識飛ぶくらい可愛いよ、私の推し」

 そう言って、私はまるで印籠のように携帯端末の待ち受け画面にされた女神まろんのキメ顔を見せた。真上はそれを手で遮り、もう何万回も見せられましたよ、と呆れた声をあげる。

「可愛い。可愛いですよ、女神まろんちゃん」
「だろう? 絶対に、武道館に立たせるんだ」
「……武道館って……なかなか厳しいですね。確か、デビュー五年目でようやくデイリーシングルランキングに……」
「堂々の二十一位! とても良い健闘だよね!」

 ガハハと笑う私を横目に、彼女が苦笑いを一つ。難しいでしょ、と言いたげな真上をヨソに拳を握りしめる。

「大丈夫。世間はもう時期、気がつくよ。こんな素晴らしいアイドルが埋もれていたと言う事実に」

 私は鼻をフンと鳴らす。ハイハイ、と真上はため息を漏らした。
 そう、私の夢はただ一つ。いい男と結婚する? 違う。 宝くじを当てる? 違う。美味しいものをたらふく食べる? 違う。
 私の夢はただ一つ。女神まろんが所属する「らいちー・ライチー」を売れさせ、武道館へ立たせることだ。
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